第48話 OLさんと「あの人」#33
「私の知ってるミカちゃんはぜったいそうじゃない」
「そう。でも、これからが肝心な話」
「肝心な話って、つまり。。」
「そう。浮気されたこと」
「ちょっとミカちゃん。わたしに言っていいのそんなイタい話を」
「いいよ別に。どうせ別れたし。なっちゃんに言わなきゃ誰に言う」
「そうなの」
「なっちゃんと私って大親友だもん」
「ありがとう。で、なにがあったの」
「簡単に言えば、さっき言ったみたいにヤツに浮気されて
それをわたしがバラシて、つい今日のお昼の時間に私からフったってことかな」
「えっ、今日別れたの。ミカちゃんから振ったの」
「そう。最初バラシたときから我慢してみよう、理解してみようと思ったけど、さすがにこれはガマンできなくなってさ。こんな信頼できないやつと一生を約束するのは私が悲しすぎて今日のお昼の休み時間に電話してあっさりとフったわけ」
「凄い、それで高橋君はなんといったの」
「それがさ、むこうもあっさり過ぎて少しがっかり」
「高橋君が素直にうんと言ったの」
「そう。あっさり過ぎた、少し泣き声だして縋ってほしかったのに」
「でもそれも良くない気がするけど」
「そうね。どうせ別ると決めたことだし縋られても意味ないしね」
「でしょ。でも、ミカちゃんも大変だったね
「本当大変だったよ。さんざん悩んで決めたことだし」
「踏み切ったね。ドンマイ」
「別に大丈夫」
「でも。そんなに簡単に別れるって凄い」
「凄いでしょ。でもさ、いくらわたしからフッたとしてもさすがに今日一日中イライラしてきてさ、仕事も集中できなかった。」
「そうなるよね」
「このままだとなんか今までやつと過ごした時間が台無しな気もしててさ、今リベンジに行っている」
「リベンジって、ミカちゃん。それはヤバいよ。いつからそうなっちゃったの」
「なんの話? そのリベンジじゃなくて他のリベンジよ」
「えっ?。あ、そっか」
「なっちゃんって昔からどんくさいよね」
「私そうじゃないもん」
「ほら、すぐムキになるから。冗談なのにぃー」
「あ、ごめん」
「ま、とにかく今日は金曜日だし、これまで我慢してた分、ぜんぶリベンジしちゃおうかと思っててさ。これからショッピング行こうと思ってたとこ」
「それはいいね。で、今外なの」
「うん。仕事終って電車乗り替えてデパート目指して歩道橋歩いてたとこ」
「そうだったの」
「それをちょうどなっちゃんから電話かけてきたよね」
「だから余計車の音やガチャンガチャンと音がしてるんっだ」
「昼間はあっちこっち工事も多いし。でも、私意外とこういう騒音好きなんだよね」
「私は。。好きじゃないかも。静かな所がいい」
「なっちゃん、昔からそうだったね」
「うん。静かなとこが好き、わたし」
「私も元々はそうだったけど、上京してからはなんか大都会の騒音が好きになっちゃった」
「そうなの」
「うん。なんかさ家は住宅街にあるから静かなのが良いけど、なんか時々落ち着かない気がするよね」
「なんで」
「うん。。。たとえば、メトロノームの音を聞いてる感じかな」
「音楽器具のあれ? 意味わかんない」
「ほら、そのメトロノームってリズムを測るやつじゃん」
「うん」
「それみたいなリズミカルさが、都会にあるの」
「どこに」
「毎日決まった時刻に着く電車や、横断歩道の信号の音、「ピヨピヨ」または「カッコー」みたいな規則正しい音が流れたりするのをよく聞いているとリズミカルに聞こえてくるわけ」
「へえー」
「それらを聞いていたらなんとなく気持ち落ちつくわね」
「なぜだろ」
「それはわかんないけどさ、なんか安心しちゃうっていうか」
「安心感。なんとなくわかるような、わからないような」
「複雑さの中にある単純さって感じかな。説明むずかいいけど」
「ますますわからなくなった」
「要するに静かなのもいいし、うるさいのもいいってこと」
「私は静かなほうがいい」
「なっちゃんらしいね」
「うん。。それより、今歩いて電話出てんの」
「いや、歩道橋の真ん中の手すりに腰当てて立ったままだよ」
「大丈夫。人多いし、足とか疲れそう」
「平気。こうやって夕焼け見ながらなっちゃんとしゃべってたらなんか落ちつくし」
「よかった」
「それよりなっちゃんこそいいの」
「なにが」
「こんな長電話久しぶりじゃん」
「大丈夫。今わたし散歩中」
「そっか。じゃ、これからまた肝心な話のはじまり」
「それすっかり忘れてた。でどうなったの」
「それである日、たぶんちょうど1年前かな。あいつの様子が変だと思ったことがあってさ」
「なにかあったの」
「うん。簡単にいえば、会う回数が減ったてゆーか。わざと私と会わないようにしているとかのようにみえた。いや、感じたことが時々あった」
「ええぇ。それはいやだ」
「いやだった。アイツ時々残業や週末出勤を言い訳にしてうちに遊びにこなかったり、いきなり約束を変えたりした」
「それはおかしいね」
「でも最初はあんま気にしなかったよね。今時、どこも不況だから無理やり残業させられたりし、しかなかったかも知れないから」
「そうね。特にいい会社はね」
「そう。ブラックでなくても業績一気にあげなければならない時期があるからさ」
「プレッシャだもんね」
「それな。マジヤバい」
「それでどうなった」
「それでまあ、アイツも色々あると思って今は大目に見てあげよっかって感じだった。会わなかった分、お金の節約にもなるし」
「いい彼女さんだね」
「わたしってエラいね」
「エラいねー」
「それでさ。少し時間が経って、なんかどんどん連絡も取れなくなったり、2人でいるときも会社からの電話なんとかでこっそり外出たりするのも多々あったよね」
「それはまた明らかにおかしい」
「だから、携帯こっそり見るのを考えたけどさ、さすがにそこまではしないように決めた」
「それはしないほうがいいかもね」
「そう。わたしもそれはよくないと思ってさ、かわりにある日、つい先週の金曜日、アイツの会社に会いに行ってみたわけ。それで分かる、私がなにを見たか」
「なにかあったの」
「それがさ、アイツ普段の退社の時間を少しずらして、あ、普段は6時ちょっと過ぎたらすぐ退社するはずだと知っていたけど、その日だけは6時35分くらい出てた」
「それで?」
「それで後をついて行ってみたわけ。そこで会社から少し離れた商店街の路地裏で他の女と待ち合わせるのを見たよ。信じられる。彼氏が私の知らない女と仲よくしているとこを見る時の衝撃」
「酷い」
「そう、酷い以上に最低」
「最低の最低だよ」
「それな。それでその2人が腕を組み合って居酒屋に入るのとこまで見て帰った。あ、そうだ一応証拠として写真を何枚か撮っておいた」
「ヤバい」
「証拠がないと言い逃れられるからさ。それで一応うち帰って待った」
「なにを待った」
「まあ一応普段アイツの帰宅の時間である時刻に合わせて電話してみようと思ったわけ」
「それでどうなったの」
「少し問い詰めたらあっさりと認めた。あっさりし過ぎて。こっちが戸惑うほど」
「それもそれでおかしい」
「それな、それで理由聞いたらなんと返事したか分かる?」
「見当もつかないね」
「ただ飽きたからって、お前と付き合うのがってマジウケたわ」
「それは最悪」
「でしょ。あんなやつに費やしてきた時間やお金が一瞬でパッとムダになった気がしたほど」
「信じられない。酷すぎる」
「ガチでムカついた」
「ホント。なんであんな酷いこと言ったのか信じられない」
「人って場所が変わると、立ち位置が変わると変わるものかな」
「そうかもね」
「今まで私の知っていた高橋っていう人ってもう元々この世に存在してなかった人って感じ」
「本性っていうものを隠していたのかな」
「そうかも知れない。あれは今のアイツの本当の姿で本性かも」
「もしそうだったらなんで今まであんな嘘つきみたいな生活したのか」
「今更にね。単に痺れを切らしたかも」
「っていうと」
「っていうとまあ高い単位取って良い会社入って高い給料もらっていい人と出会って結婚ゴールする目標が叶わないかも知れないから?」
「うん。。。難しい」
「ま、成功したかったけど、それがままならないから遊びまくってやろって感じで。良い会社って肩書きは持ってるからね」
「ワガママすぎる。ホント失望した」
「ホントそうよ。あ、これからどうしよかな」
「一応ショッピングしたり自分のための時間を過ごすとか?」
「それはするつもりけど、なんかそれだけでは今の怒り収まらない気がしてしまうわ」
「他になにかあるのかな」
「あああーー。きーめた。合コンやる。よしすぐ新しい彼氏(ひと)探そう」
「え、、切り替え早すぎない」
「このまま時間ムダに使うのいや。感情に負けたくないもん」
「でもさすがに早すぎるよ」
「いいってもう決めたから。付き合わなくても一応新しい人会ってみたい」
「そうなの。なら大丈夫かな」
「そう。でついでに聞くけど、なっちゃんはないの。気になる人とか」
「うん。ないね。ぜったいない」
「ホントおー?今ちょっと間があった気がしたけどぉ」
「ないよ。そんな人いたらすでに会ってたよ」
「ふうん。。そっか」
と一瞬でありながらミカちゃんの質問にどう返事するか悩んでいるところを気づかれた。そのミカちゃんの鋭さにはさすがにびっくりした。やはり長い間見てきたから少しながらの微妙な変な反応も分かるものか。私にはできないものを、ミカちゃんは持っている気がする。これはミカちゃんの持ち合わせている能力かも知れない。と感心しながらちょっと手に持っていたスマホで今の時刻を確認してみた。もう一時間近くも電話しっぱなしだ。これはさすがにヤバいと思ってそろそろ話を終らせる念をミカちゃんに伝えようとにした。
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