第40話 OLさんと「あの人」#25

「おかあさん一つ聞いていい」

「あら、珍しいく声かけてくれるね」

「わたしだってたまにはこういうときはあるよ」

「普段あまり喋らないのにめずらしい」

「まあね。金曜日だからなんとなく話たくなったかも」


真奈津は金曜日の仕事が終わりそうそう、帰る途中家の近くのスーパーに寄ってビールや摘みなど簡単に食べるものを買って帰った。久しぶり買うビールだったので見ないのものもあったしなんとなく飲みたくなり5本も買ってしまった。うちに帰って一応買ってきたビールを冷蔵庫に入れておいて少し冷やしておかあさんが帰ってくる時間まで待つようにした。


それでテレビでも見ながらお母さんの帰りを待った。待っている最中ドキドキ感が増すのを感じたのでそれを収めるために買ってきたお菓子を摘んだりおかあさんの手料理を食べたりした。出来るだけ長くおかあさんと話すためにはなにか気を散らかせるものが必要だし時間かせぎにもなるには皿洗いなどに使う時間を伸ばすのがいいのではないかと思ったからだ。


うちに帰ってテレビを見ていたら時間がそろそろ夜9時を過ぎ頃、玄関からお母さんの帰りを知らせるな音がしたのでそれが聞こえた瞬間すぐさま、冷蔵庫に入れてあった缶ビールを取り出して開けてみた。それで真奈津はいとも自然な金曜日の雰囲気を装うために開けたビールをちょこちょこを飲みはじめた。ビールを一杯飲みながら楽しんでいるかのように自然な態度でお母さんの帰りを出迎えた。


お母さんは帰宅して着替もせず、まず台所へ行って家事をこなしているのを見てタイミングを見量って話をかけてみようとした。その際、普通に話をかけると何か悩みごとなどがあってアドバイス欲しさで話を聞くのではないかとお母さんが察するかも知れないか普通にビールを飲みながら金曜日感を出してみることにしたからだ。それで今日は少し頑張ってそうするとおかあさんの油断を誘いスキを狙いやすくなり、聞きたいことを聞けるかも知れないからだ。お母さんに心中をバレる事はないと思った。



「仕事はどう。順調?」

「ぼちぼちやってる」

「仕事大変でしょ」

「まあね。おかあさんはどう。お仕事」

「忙しいね」

「そうなんだ。お父さんも仕事大変そう」

「そうね」

「おかあさんはお父さんのこと心配しない」

「心配って何?」

「お父さん仕事忙しいし家居ない時間も多いし」

「そうね。お父さん忙しいから」

「最近はあんまり家帰ってこないし」

「そうね。ホントお父さん忙しい」

「お母さんは心配はしないの」

「何を?]

「ほら、よくあるじゃん。仕事忙しいとか言って実は遊びまくるとか」

「それのこと? お父さんはそんな心配ないよ」

「お父さんのこと信頼してるんだ」

「そうかもね」

と久しぶりにお母さんと喋っているせいか、なかなか本題に入らないのを感じた真奈津は、少し焦り気味になった。それで少しずつ飲んでいたビールを口いっぱい含めてから飲み下ろしてから思った。「やはり普段あまりしゃべらないから話にくい」と。そう思ったとたん、おかあさんが動きがピタッと止るのを感じた。それでお母さんはシンクからぐるっと体を回して少し休むかのように真奈津が座っている食卓に近づいてきた。そのお母さんの姿を見て内心バレたかと思って緊張気味になった真奈津だった。


「で、何が聞きたいわけ」

「うん?。あ、まあね」

「さっきから話がちんぷんかんぷんなんだからさ」

「そうだったの」

「そうよ。なんか言い回しているようにね」

「じゃ、普通に聞いてイイ?]

「変な質問じゃないでしょ」

「ううん。普通のこと」

「じゃいいよ。で、何」

やはりおかあさんもじれったいと思っていたか、わざわざ家事を止めて聞こうとするお母さんの性格には助かった気がした。どうせならこんなにすぐ聞きたい事を聞くほうがいいと思った真奈津は、お母さんにバレないように一つ深呼吸をしてみて本題に入る。


「それがね。私、もう入社して3年目じゃん」

「そうなの。時間早いね」

「それでここまで来てみたら仕事って大変だなった思って」

「そう。仕事って大変」

「そうこう思ってたら、うちのことを考えてみたりしたわけ」

「うちのこと?」

「うん。うちはお母さん、お父さん共働きで2人頑張ってるじゃん。

「そう本当頑張ってる」

「ヨソよりは色々大変かなと」

「ヨソより?何が?」

「だってお母さんって仕事もしてるし帰りも遅いし週末もよく出かけたり、色々やってるじゃん」

「うん。おかあさん、急がしすぎる」

「娘だからそう思うんじゃなくて、ホントお母さん一所懸命だなって思ってしまうわけで」

「そうよ。お母さん、ホント頑張ってる」

「うん。それでなんでそんな頑張れるかとかお父さんのことは心配にならないのかとか」

「お父さんのことはなにを心配する」

「ほら、お父さんは昔から出張も多くて何ヵ月も帰ってこないこともあったし、今だって来月帰るか帰らないかの状態じゃん」

「お父さんも頑張ってるね」

「それが心配にならないのかと。。」

「心配ってたとえば」

「たとえば。。ほら。。。あれ。。特に他に出張先で遊んだりするとか。。」

「つまり」

「つまり。。他に女が居るとか。。仕事そっちのけで遊びまくったりしてるとか」

「それはないねー」

「えー、お母さんには分かるの」

「分かるよ。分かるもん」

「どうやって。やっぱり夫婦だから」

「うん。。。どうかな。それより、お母さんには分かるし、確信っていうか、なんとなく分かるね」

「どうやって確信できるの。お父さんはそんな人じゃないって分かるものなの」

「どうかな。説明は難しいけど、結婚する前からなんとなく分かった。しか言えないね」

「そうなの。じゃお母さんはお父さんと結婚する前に、それが分かったってわけなの」

「そうだね。なんとなくこの人はそんな人間じゃない、信頼できる人などを感じたことあったね」

「へえ。そうなんだ。不思議。それが分かるものかな」

「分かるよね。なっちゃんにはまだそういう人いなかな」

「どうかな。よく分からない」

と言った瞬間「しまった」思う真奈津だった。危うくお母さんに今真奈津に付き合っている人がいるかのように言っている気がした。もしお母さんにそう聞こえて「今の誰か付き合っている」とか聞かれたらマズいと思う、だから早く話の方向を変えるようにした。


「それで全然心配しないの。おかあさんは」

「お父さんのことを心配するかって言われると、それはするかもね」

「え、おかあさん。やっぱり心配してる」

「それはするわよ」

「浮気とかしたらどうかなって」

「そんな、人聞き悪いこと言わないでよ」

「ごめん」

「でも、お父さんならそれを心配することはないと思うわ」

「なんで」

「それはただの感なんだけど一応夫婦だし、お父さんは絶対そういうことする人じゃないと信じてるから」

「さっきの話みたいに?」

「なっちゃんはまだ結婚してないから分からないかも知れないけど。お母さんには分かる」

「お母さんは何か確信ってかあったりするの」

「結婚する前から色々見てきたし、信頼できる人と分かったしね」

「どうやって」

「一言には言えないね。ただこの人ならとなんとなく感じるものがあってた」

「この人なら、か。」

「そう。なっちゃんにはまだないでしょ」

「まだ。いや、今まで一人もいなかった」

「そうね。それはただで分かるもんじゃない」

「そっか。それでお父さんと結婚したんだ」

「まあね」

「うん。。難しい」

「それにしてもなっちゃんお母さんのこと心配してくれるの」

「まあね。私も娘だから一応同じ女性としてって感じかな」

「同じ女性か,なっちゃん今何歳だっけ」

「今年で26かな、誕生日まだだけど。てか自分の娘の歳も覚えてないの」

「それは毎日覚えておくわけないじゃない。しかし、もう26歳か。時間速いね」

「うん。まだ気持ちは大学生なのに」

「お母さんもまだ気持ちは女の子のまま」

「どうかな」

「お母さんだって女の子なのよ」

「女の子ね」

「そうなっちゃんみたいにね。。」

と言いながら突然何か言いかけたお母さんだった。お母さんはいきなり口を止めて何か考え込んでいそうに見えた。その姿はかつて何度か真奈津が見たものだった。たまにだけど、お母さんが真奈津と何か話たりするとき、時々見せた姿で昔からなんとなく不思議に思っていた。そのお母さんの姿をみてまた不思議に思ったけど聞くまではいかなかった。「お母さん何か考えてる?」と聞いても、どうせ教えてくれなさそうだったので聞かないようにした。何となく一通り聞きたいことを聞いた気もしたし、飲んでいたビールもそろそろ空けたし、お母さんとこれ以上話しても意味無いと思い、しゃべるのをやめるようにした。最後に改めて親子のしゃべりって難しいと思われた。


「お母さん、私眠くなった」

「そう。今何時」

お母さんが時刻を聞いてきたのでスマホで確信して教えた真奈津は、やり残した家事に戻るお母さんの背中をみて部屋に戻った。それで一応今後どうするかは明日また考えてみることにして今日はこのまま寝ようとした。久しぶりに飲んだ酒がほどよく酔いが回ってきたし、今日はぐっすり眠られそうだった。

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