第29話 OLさんと「あの人」#14

真奈津は、自分の生まれ育ての地元が好きだった。その地元に関することの中で一番気に入ったのが、自分が卒業した大学のことだった。地元では長い歴史を持つ国立大学で、近くに商店街や住宅街が密集しており、近くには小学校、中学校もある。それで商店街はいつも繁盛していて真奈津も学生時代に時々遊びに行ったことがあったし、この住宅街と商店街雰囲気は幼い真奈津には特別に見えた。それである日、幼い女の子はふと思った「ぜったいこの大学行きたい」と。


真奈津が幼い時、「夢」の事を語るとき、自分の夢見なさに少々恥ずかしいと思ってた覚えがあった。何故なら真奈津には夢と言えるものがなかったからだ。いや、正確にはあるはあった。けれども、それは人には堂々と言えない夢であった。幼い女の子は一つの夢を見ていた。それは自分が好きな地元の大学に進学することだった。自分が一目惚れした大学のことを永遠に自分のものにしたいという希望だった。それで、その唯一の夢はあまり人には知られたくなかった。しかし、いくら人には堂々と言えない夢であっても、真奈津には特別なものになり、その夢が叶う日が来る未来をずっと夢見ていた。その思いで頑張って受験勉強した甲斐があったのか無事合格できた。行きたい大学に進学が決まったとき、物凄い達成感を感じた。人生はじめての達成感であった。


それとまた、もう一つの夢があった。それは今真奈津が今努ている会社で仕事することだった。ただ、この夢はぼんやりと「そうしたい」だけのものだったが、それを元カレにフラれた時に確実に現実化しようと決めた。それでまたその夢も叶えてこの上のない喜びを感じて、これ以上は何も要らない、必要ないと思ってしまうほどだった。


しかし、やはり現実は違うものだった。いざ入社してみたらやはり仕事は仕事、夢は夢である。大人になるということは大変だなと思われた。けれど上京した友だちよりはマシだと思い、頑張って仕事に勤んでいる。


いくつか心の古傷が残っている真奈津は今の会社に入社してから自分なりに当機づけるよう頑張ると心を決めた。その古傷こそ一生治らないかも知れないとうすうす感じていたせいか、自分だけのこだわりを持とうとした。その中で一つが今努ている会社に関することだった。この会社に関して一番気にいったのが制服だった。昔からなんとなく自分の好みに合っている気がして、いざ入社して着てみたら色こそダサいものの、スタイルは悪くないと思った。スカートの丈は肘の少し上までで短い方だけど、真奈津にはそんなに短くないと思われた。大人になって仕事するのは大変だけど、毎日この制服とスカート着るのが一つの楽しみになって動機となってくれた。


それと真奈津の一番のこだわりは、他でなくこの大学と会社を自由に行き来できることだった。真奈津の出身大学にはいくつがいい施設がある。その中で特に真奈津の気に入ったのが学生食堂だった。大学の正門を潜って少し手前に見えるビルが学生食堂で、昔からこの大学の学生や近所の住民や訪問客などが自由に利用できた。それをなんとなく誇らしく思っていた真奈津は、社会人になってぜったいこの学生食堂でご飯を食べてみたかった。それで入社してできるだけ早く駆け付けて昼御飯をたべてみた時の感動と喜びはこの上のないものだった。それも叶った今、真奈津にはなんにも要らないと思っている。ただこのまま自分が好きな場所で好きなだけ自由に時間を過ごす、それ以外なにも。


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