第28話 OLさんと「あの人」#13
「なっちゃん、もう朝よ、起きて」
「うううんンン。。」
「早く起きなさい、仕事、仕事」
「うん。。。」
「昨日、何時に寝たの。ほどほど起きなさい。」
「今。。。何時。。」
「朝、7時よ。」
「時間まだなのぉにィィ。。」
[まったく、もう、早く起きて」
「わかぁたあ。。」
真奈津は今朝もおかあさんに起されている。毎朝の7時ごろ、真奈津の母親の由紀子は娘の真奈津をいつも起させている。由紀子の毎日の平均起床時間は朝6時半ごろで、仕事に行く前に簡単な皿洗いなど、日頃貯まった家事をやっている。それからまた、朝7時半ごろ、もう一度真奈津の部屋のドアをノックしながら起こして自分の仕事に行く。
2回目もおかあさんに起さられるのがあまり好きじゃない真奈津だが「どうせまた起こしにくるから1回目で起きろう」ともう少し寝たいのを諦めて頑張って起きるようにしている。
それで「もう起きたよ」という意味で、一応おかあさんに顔をみせるためダイニングに行く。
これを真奈津は「うちのおかあさんはなんでこればっかりこだわるのか」と小さい頃から時々疑問に思っていた。けれど、理由を聞くのもアレだからおかあさんのことを理解しようとしている。何故なら、これ以外にはこれまで勉強や仕事、趣味、また交友関係などを一切干渉されたことないからだ。今努てる会社だってそうだった。就活のとき「この会社に行きたい」とおかあさんに言ったら「そうなの」と聞かれただけで、内定が決まったときも「頑張ったね」など短い返事以外、なにも言われてない。ゆえに、今まで散々好き勝手にさせてもらったから、おかあさんの朝早起きへのこだわりだけは理解しようと、ついていこうと頑張っている真奈津だった。
「おアぁよぉ。。」
「あら、起きた、今日は早いね」
「いつも起さられてるから」
「夕べは何時からベッド入った」
「10時半、たぶん」
「いつもながらすごいね。そんな眠たいの」
「わたし寝るの大好きだから」
「でも昔より寝る時間増えてない」
「そうかな。自覚ないけど」
「そうよ。ほんと、誰に似たのかしら」
「おとうさんかおかあさん、それともどっちからじゃない」
「わたしの帰りなんじだと思ってるの」
「そういえば。。」
「おとうさんも仕事忙しくて寝る時間削ってまで仕事やってるの知ってるでしょ」
「じゃ、誰からかな」
「うん、もう、知らないよ」
「私も知らない」
「とにかく早く仕事の支度しなさい」
「わかった。わかった。ごはんはイイよ」
「きょうもたべない。ちゃんと食べてる。なっちゃんいつも食が細いからさ」
「うん。なんとなく」
「まあ冷蔵庫確認してる限りなんとなく食べているみたいけど」
「少しずつだけどね」
「ならいいけど。仕事は」
「ぼちぼちやってる」
「そうか」
「うん」
「今何時」とおかあさんは会話するときずっと娘の顔も見ずがたがた家事をやっている。それがら最後に時間を聞いてくる。これが朝の会話の後、おかあさんに聞く最後のことだ。
「今はね、7時20分ぐらい」
「ダメ。そろそろ準備しなきゃ」
「おかあさんはいつも早いね」
「そうね。はやいね。あ、忙しい」
と今の時刻を聞いてから母親の由紀子は自分の部屋に入って仕事に行く準備をする。真奈津は時々この母親の様子をみて「まだ時間的余裕があるのになんであんなにばたばしているのか」と変に思っている。とにかくそのばたばた音がし始めると真奈津も自分の部屋に戻って仕事の準備を済ませる。それでちょうど時間が朝8時を回ろうとするとき、おかあさんが家を出る音が聞こえて、それを聞いた真奈津もそろそろ仕事に出かけようとする。
朝8時15分頃、真奈津は家から出る。仕事先へのバスに乗りに歩いていく。家から約5分くらいの距離にあるバス停だ。大学生ととき授業にいくため、このバス停でよくバスを待っていた。大学生のとき授業にいくため、よくこのバス停でバスを待っていた。社会人になっても大学生のときみたいに同じバス停で同じバスで同じ方面に行くのは、不思議な気分だ。しかし、これを夢見た真奈津にはこの上のない日常の楽しみとも言える。
真奈津の仕事先はこのバス停から約15分くらいの場所にある。その会社のビルは真奈津の卒業した大学に隣接しており、毎日仕事に行くバスから降りると、右手には自分が卒業した大学の正門が見えて左手には会社があるビルが見える。真奈津はこのバス亭から見る光景が好きだ。大学生時代から何百回も見てきた光景。大学生の時、バスから降りるといつも右手に行っていて、授業にいくのが当たり前で自分は永遠の学生でありたい気持でいた。それとともに、ここをのどこかでは左手にある会社には行けない自分の未熟さを、なんとなく心細く思ってもいた。それが大人になり今の会社に勤めはじめてからは心細い思いがなくなり、どっちへも行けるという自分の成長ぷりを満足していた。それでこれが永遠に続けてほしかった。
他の人にはどうでもいいかも知れないこだわりが、真奈津には大切だった。社会人になった今もこの光景を毎朝みて安堵する自分がいた。これは今真奈津に残ってる唯一の人生の生き甲斐だ。これこそが今の真奈津に残された唯一の趣味であり、心の拠り所だと信じているからだ。それで今日も左手にあるビルへ足を運び、努ている部署に入り、できるだけ元気な声を出して挨拶してみる。
「おはようございます」と
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