第27話 OLさんと「あの人」#12

真奈津は今の彼氏が格好いいと思った。いわゆる目の保養的なステキな人だった。もちろんはじめからそう思ったのではない。彼氏の最初の印象こそあまりよくなかった。知らない男に助けてもらったし「なにか礼をしなければならない」と思って一応合って礼を言う程度だった。それをはじめて合ったとき奢られたことで、はじめからアタックしてくるような感じもあった。けれど、なんとなく「奢ってもらったからまたなにかしなきゃ」と思ったりしてまた合ったけどまた奢られてそれが断れず、また流れでつぎ合うことになり、何回かプライベートで合う機会が増え始めた。それのせいで彼氏の最初の印象は良くなかったと覚えがある。それとタバコを吸うしお酒を好きで典型的なチャラい男と思われたのが、それは世の中の男はもともとそうだし、いやとか言っても変わらないと思ってたから、そもそも言わないようになった。なからそれ自体は問題はなかった。


また、三回ぐらい合ったとき何となく真奈津のほうから、あの痛ましい事件のとき、自分を助けてくれた知らない男の思いを聞きたくなった。それで思いっきり聞いてみた。

「あの時ですか、そりゃ怖かったっすね。でもカワイイ娘が危ない目に遭っているとこみてなんとかしなきゃと思って踏ん張りました」みたいな返事だった。そこで「怖かった」と言う男の返事を聞いた後、ギャップを思ってそれをきっかけに知らない男のことが好きになってしまった。その返事の意外性に惚れてしまったかも知れない。それこそ妄想好きな真奈津のタイプにぴったりだったかも知れない。ああいうときこそ堂々と振り舞わなければ真奈津を襲ってきた怪しい男が素直に去ってくれないと思ったからと勝手に解釈したのもあったかも知れない。


一度自分から誰かを好きになった乙女にはなにもかもが違くみえてしまう。タバコとお酒好きなチャラい見た目の男が実は怖がりやで、自分の身の危険を顧みず、死を覚悟で女を救おうとした。これ以上ステキな出会いではないか。まさに運命的な出会いと言っていいほどだった。

妄想好きな真奈津にはそれが人より強かっただけだった。それとともに、男のほうもまんざらではなかったか、2人はどちらかでもなく自然に付き合うようになった。


真奈津に新しい彼氏ができてから、季節はいよいよ春になろうとする時期がきた。それで真奈津はそろそろ親友のミカちゃんに正式に報告するタイミングが来たと思った。が、それをする前に、新しい彼氏にできるだけ「あの時ミカちゃんと居酒屋に行って別れた後、起きた事件のことは言わないでほしい」と釘をさしておいた。それを新しい彼氏は理解してくれた。それで2人は親友のミカちゃんに会って、新しい付き合いのはじまりを告げて喜んでもらった。


それで真奈津と真奈津の彼氏、ミカちゃんとミカちゃん彼氏と人生初のダブルデートもした。お花見もした。そうこれだ。これこそが真奈津がずっと待ち望んでいたことだった。夢見ていた恋愛だった。今までの彼氏とはこういうことができなかったから恋愛に対して消極的だったのだ。それのせいで自分はただ面倒くさがりやだから恋愛がしたくなり、そういうことをしなくても恋愛できると自分に嘘をついてきたのだと思った。それでこういうことができる人とせっかく出会えた縁だと思ってた。理由は色々あったが、あの事件のことが大きいきっかけだった。「危機に遭ったオナゴを助けてくれるヒーロとの出逢い」はめったにない経験で、それをきっかけに出会った縁を振り切れる娘が世の中にはないと思われるのが自然だったからだ。それとまた、あの経験はできるだけ彼氏以外の人には知られたくもなかったし、その悪い、怖い経験を良い思い出と換えたかったからだ。彼氏と結婚しお互いおばちゃん、おじちゃんになって自分の子供に馴れ初めを語るときが訪れるならば、堂々とその馴れ初めを語れるのが良いと信じたからだ。故にただ「この人なら結婚してもいいかも」じゃなく「絶対この人と結婚したくなった。しかし、結果的にその希望が強かったせいか、それに裏切られた。真奈津と新しい彼氏の付き合いは出会いから1年くらいで終りを向えた。今回も彼氏にフラれた形で終わってしまった。それで真奈津には一生立ち直れない暗い闇に陥ってしまう結果となった。


人生4度め目の別れ、4度め目も同じフラれ方、4度目の失恋のときにふっと思いついた。それで考えてみた。「なぜだろう、自分になにか問題があるか」と。しかしその理由は話からなかった。だからつらかった理由をわかっていれば少なくとも次の機会がくるとき何か努力してみるかも知れない。それが知らないから諦めること以外に方法なかったのだ。


もちろん、真奈津自信はその理由をなんとなくわかる気もあった。一つ唯一の理由、それは大人の関係に関するものかも知れない。生まれつき鈍感な性格の真奈津は夜の営みということにあまり興味がなかった。高校2年生のときのはじめて経験や3年生のときの経験はウブだったからまだしも、大学生になってはじめての音なの彼氏との経験も楽しいとか気持いいとか思ったことがあまりなかった。それを変だと思ってもいたが、他の人はどうなのか分からないし聞くこともできないから、「これが自然だと思った。それとあまり自分からは求めることもなかった。けれど、彼氏に求められるとできるだけ合わせる努力はしてきたが、今になって考えてみれば、たぶんそれが一番の原因ではないかと思っている。


元カレのことを含め、過去の彼氏たちの言い方やフラれ方からなんとなく推測してた真奈津自分で出した結論はそれ一つしなかった。しかし、それを直接聞くのは怖い、女のほうから聞くのはもっといやだった。知っても他に方法がない、ただ自分で頑張って納得するしかないと決めた。しかしいくらそう思っても、女としてプライドに傷付けられて、どんどん自分に自信がなくなった。悲しくて悲しくて、なんにもできないの自分のことが嫌いもなった。


それをちょうど、元フラれたタイミングが助けてくれた。真奈津と彼氏は大学4年生になったばかりのとき別れた。それがあまりにも衝撃で自分一人では立ち直れない気がした。しかし真奈津には、長年の夢があった。真奈津の地元の会社、人には夢というのは恥ずかしいことが真奈津には人生はじめての夢で頑張りたいことだった。それだけは見逃したくなかった。だから頑張った。今ここで挫けてしまうと一生なんにも成し遂げれない気がした。それで自分の人生が終わる気がしてならなかった。それだけは避けたかった。だから残りの大学生生活と就活を一生懸命に頑張った。それで、その努力が高じて夢見てた会社の内定をもらい勤めることになった。その内定の結果を通じられたとき、真奈津は思った。「これで十分だ、はじめて自分の力で得た自分だけの幸せ、これは一生守って生きたい」と。それ以外ののことは考える必要もなかった。


「過去のことはもう関係ない、振り向く必要もない」と入社して心を決めた。

それでそう思う真奈津の心の傷は治されることなくそのまま2年あまりの月日が経った。ただ一つ、ずっと真奈津の胸の中には一つことが一生ついてくるようになった。


「やはり自分には恋愛と結婚の縁がない」と諦めの気持だけが。

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