第14話 カフェのバイトさんと「あの人」#14
「うん、明美ちゃんなに」
「ううん、なにもないよ」
「空耳かな。わたし」
「そうよ。ソラミミよ。耳弱くなってる、桜ちゃん」
「もうわたしそんな歳か。それはダメじゃの」
「また出た。今日ポケすぎ」と少し笑いながら言った。
「ほら、それよ。やっと笑った」
「何が。わたしなんかした」
「あのさ、今更言うけどさ。明美ちゃん今朝からずっと機嫌よくなるように見えたよ」と桜ちゃんの話を聞いて後ろめたさをかんじた。桜ちゃんにはバレないよう頑張って隠したけどわかっていたのかと。「やっぱり桜ちゃんは勘がいい」いや、これは桜ちゃんだけでなく誰にでもできることかもしれない。けれど、親友の桜ちゃんだからこそできる気配りはあると明美は思った。しかし本当のことは伏せておこうとした。
「今日はなんか疲れがたまったのか。疲れ気味だったし、ただそれだけだよ」
「ほんとぉー」
「うん、ほんとうだもん」
「ほんとかな。だって今年は冬学期も受けてないし、最近ため息とかつくよにもなったし。よく疲れれるし。なんかあんのかなって心配よ」
さすがここまで突っ込まれると本当のことを言わざるをえないのかと思ってはいるものの、話を違う話題に変えてごまかしてみようと頑張った。
「気のせいだって。心配しなくていいよ。てか桜ちゃんまだうち帰ってないの」
「もう着いたよ。あ、今日も寒いね。こんな寒いのに歩くとするのしんどい」
「でも約束したでしょ。お互いに頑張ってダイエットしようって」
「だがらガマンして歩いて帰ってきたじゃん」
「桜ちゃん、えらい」
「明美の方は彼氏のほしいものみつかった」
「ううん。ないっぽい。それでちょうど桜ちゃんの電話が来たとき、家帰ってるとこだった」
「無かったらネットで買えばいいし。無理して探しまわる必要ないしね」
「うん」
「だらかなんにも無理にする必要はないって」
「ただダイエットしたくないから言ってるだけでしょ」と桜ちゃんにきづかれないようにさらっと話題を自分から桜ちゃんのことに変えた。
「だから違うってば」
「桜ちゃん彼氏は帰ってない」
「うん今日も遅くなるって」
「そうか。桜ちゃんのいい彼氏大事にしといて」と自分にはできないかもしれないことを何となく桜ちゃんにはしてほしい気持で言ってあげてみた明美だった。
「大事にしてる。少しガマンもしてるけど。でも誤解しないで。これはあくまで未来のためのガマンだから。普通のイヤな気持をガマンするほうのガマンじゃないから」
「わたしなんもおもってないよ。てか興奮してるっぽい桜ちゃん」
「興奮してないって」
「ほおーら。またしてる」
「うん、もう。明美ちゃんの意地悪」
「あ、楽しい」
「わたしも楽しい」
「桜ちゃん。ありがと」
「なにがあー」
「色々。桜ちゃんがわたしの友達でよかった」
「わたしもの明美ちゃんみたいな友達がずっとわたしの付き合ってくれてラッキーよ」
「お互い様ね。これも似てるかもね」
「似てるてどういう意味」
「ううん、なんにもない。独り言」
「そっか」
「わたしもそろそろついた」
「今日も無事ついたみたいね。お疲れ」
「桜ちゃんもおつかれ」
「あ、いきなりお腹空いてきたー」
「何たべたい」
「さあね。別に食べたいものはないけど、さっき商店街回ってるとき見たどんぷりとかどうかなって思ってた」
「今日みたいに疲れた日はスタミナ─つくの食べたくなるわね」
「彼氏と食べる」
「ううん。今日も遅くなるって。明美ちゃんは」
「わたしもたべないかも」
「なんで」
「彼氏まだ戻ってないみたいし、灯りついてないから」と予想していたことが現実になったときの驚きのショックは大きかった。けれど、それは電話越しの桜ちゃんにバレないように最後までいとも普通のことかのごとく頑張って隠した。
「それもお互いさまね。ホント男って自分の彼女どう思ってるかよね」
「だよねーゴメンわたしもうついたし、一応切っていい」
「うん。わかった。またメッセージで話そうね」
「うん。じゃ」
「じゃ」と桜ちゃんから電話が切られてふうと安心のためいきをついた明美だった。
それで自分の部屋を見上げてみた。桜ちゃんと電話で話しがらうちへ帰って行ったときどんどん近づく灯りがついてない自分の部屋の窓をじっとみながら何か考えていた。けれど電話に集中してるからそれをまとめる余裕がなかった。それで電話を切ってから少し外でで考えながら頭の整理をする時間がほしくなったのだ。
いくら彼氏が帰ってこない部屋だとしても今のまま入るのはなんか気持が落ちつかないしこのままなんにも纏まらず部屋に戻っても以前のまま適当に時間の流れに任せて物事が落ち着くのを待つだけに鳴るかも知れない。それで結局また同じことの繰り返しになる一方だ。一生逃げるようなことになるからだった。
何に逃げるのか、何がダメなのか頭の整理をする時間がほしい。それが今でないとだめなのだと思い一応暗くて寒い入り口の階段に尻をつき、座ってみた。
「あ、しんどい」とつぶやきながら。
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