第12話 カフェのバイトさんと「あの人」#12

明美と「あの人」は見つめ合っていた。明美ははじめて「あの人」と顔を合わせている状態だ。いや正確にいうと、明美の望んでいたスローモーション演出の中の恋人みたいに顔を合わせるのがはじめてだ。バイトすすときは「あの人」と何回か対話した時はあったものの、短かったしほとんど忙しさのせいで簡単に挨拶を交わす程度だった。それが今は言葉どおりふたりだけの空間、時間ができたのを自覚した。それであの夢見てたスローモーション演出がはじまったのを感じはじめた。


両思いの二人がはじめて恋に落ち、お互いの気持を確認する場面またははじめてのデートに出かけた時のドキドキ感、目を合わせているだけで幸せな瞬間だ。二人だけの空間が作られ回りと違う時間の流れが感じられる場面だ。回りの風景がスローモーションで流れるシーンだそれが今の明美に感じられるとは想像もできなかった。今まで感じたことのない経験したことがない感覚。それがこの瞬間だった。


「あの人」は笑顔をみせた。何か挨拶の言葉をかけながら明美に声をかけた。明美は適当に返事した。それで色々言われたし、聞かれた。しかし緊張のあまり何を言われたのか聞かれたのかあまり覚えてない。それで自分がなににどんな返事をしたのかも思いだせない。「はい」とか「いいえ」とか簡単な返事だけ、それ以外はなんにも思いだせなかった。まるで明美と「あの人」がバリアーに包まれて守られている感覚だった。なので音など回りの邪悪なものがすべてを遮断してくれてるような気がした。それのせいで明美自分や「あの人」の声をも聞き取れない感じだった。ホントに不思議な経験だと自覚する以外ににはなんにも覚えないようになったしまったのだ。


それでこう思った。これがまさにあのスローモーションだ。それで今自分は本当にスローモーション演出を現実で経験している。ドキドキで心臓の鼓動を感じてその音が大きく聞こえた。これがあのスローモーションなのだ。明美は幸せだった。それが「あの人」と鉢合わせして話しているせいか、それともスローモーション演出を経験してるからか、明美自分がこっそり「あの人」のことを好きなってそれがはじめて確認できたからか、どっちも知らない。これは単に吊り橋効果かも知れない。もしそうだったら「あの人」もこの吊り橋効果で明美のことを好きになるのかな。「あの人」にもそうなってほしいとなんとなく願ってもみた。何分過ぎただろ「あの人」とこう立ち話している時間が短く感じられた。どれだけ時間が過ぎたのかわからない。けれど明美的にはこの瞬間が永遠であってほしかった。


吊り橋効果でもいい、「あの人」とこのスローモーション演出の空間でふたりだけ居れば十分だった。その願いこそ、明美が最近思っていた「タイミング」的なものではないかと気づいた。明美にとって今日は人生初、そして最後の「タイミングのイタズラ」が一番発動した日であった。


そのとき、明美は手に持っているスマホの振動を感じた。それを感じたとたんはっと我に返った。桜ちゃんから電話がかかってきたと直感でわかったのだ。それで思った。これも桜ちゃんの勘ってものかなと「あの人」にバレないようにため息を漏らしんがら明美考えた。


「勘がよすぎるのもこういうときには全然役に立たない」と文句っぽいことを思ってしまう明美だった。しかたなく「あの人」には謝っておこうと思っい。「すみません」といいながら持っているスマホの画面を見せて電話に出なければならない状況を認知させた。そして、この場を去ろうとした。しかし、こういうときも「あの人」は優しかった。「ニコっと笑いながら気にしないと言ってくれた」と後になって思いだすも、実は何を言われたのかあんまり覚えてない。ただそう言われたのかなというろ覚えだった。そんなにテンパっていたし桜ちゃんからの電話で動揺してたからだ。


それで足早に繁華街の入り口まで戻り家の方向の道に歩きながら電話に出ようとしたが、その時一度桜ちゃんからの電話が切れた。それをヤバいと思い明美自分から折り返しよとしたが、一度深呼吸をしてからしよときめた。そう決めて一応「あの人」と別れた場所を一回ふりかえてみるとした。このまま「あの人」と別れてしまうともう2度と合えないような気がしたからだ。はじめて感じる名残惜しさだった。


それで「あの人」と話していた場所をちらっと振り替えてみたが、「あの人」の姿は見当たらなかった。明美は「あの人」にちゃんと見送られたいと期待をしてみたのだ。それが叶わなかった。


それで仕方ないと思い、桜ちゃんの電話に折り返そうとし明美自分から桜ちゃんに電話をかけてみた。一回目のコールが鳴り終わらないうちに桜ちゃんはすぐ電話に出た。それでそのときも、もしやと思いもう一度「あの人」と話していた場所をちらっと振り替えてみた。けれど、「あの人」の姿は見当たらなかった。それが何となく悲しくなった。


それとともに「もう少し見てくれればいいのに」と桜ちゃんには聞こえないよう小声で呟きてみた。

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