第7話 カフェのバイトさんと「あの人」#7
季節が移り変わり寒さが増す時期に入った。冬学期、もともと明美は秋学期がおわるとすぐ冬学期の授業を受けるつもりだった。それで冬学期の準備やバイトなどで忙しくなるはずだった。人より早く就職してお金を稼ぎたい思いで大学一年生から授業もバイトも頑張ってきた明美だった。それを今年は諦めることにした。今年の冬学期は受けずバイトのシフトを増やしたりしてお金を貯めておく必要があった。今の彼氏とつきあって1年がすぎてすぐカレの態度がいっぺんして喧嘩ばかりしている時が来た。その喧嘩の中には金銭トラブルもあった。
明美の彼氏はいつのまにかお金がないと言い訳しながらお金を貸してほしいと言ってきた。親からのしおくりももらってるし週に何回はバイトはしてるはず。なのにお金がたりないってことは理解できなかったけどたまたまそうなってしまったのかと思い少し貸した。最初は軽い気持で彼氏だし一緒にすんでるからすぐ返してくれると思っていた、信じていた。金額が少なかったからだった。しかし、それがどんどんエスカレートした。
最初は何千円くらいで月一回程度で、少しは返してくれた。それで安心して次頼まれたときも信じて貸してあげた。それがだめだった。
次は月一回が三回まで増えて金額もぐんとあがった。これが約半年間つづいて今になってみると何十万円もなったのだ。正確には20万を越えてしまったのだ。結果として大金を彼氏につぎ込んでしまった羽目になったのだ。
テレビニュースでよく見掛ける金銭トラブル、それが明美にも起きたのだ。これは明美がここ何ヵ月ずっと悩んでいたことだった。なんでも一人でやりたがる明美にも解決できないこと、親友の桜ちゃんにも言えないことだ。それをいつまで隠せるかそわそわしながら日々をすごしていたのだ。それで今朝彼氏に「別れてほしい」と言われたとき限界が来たような気がしたのだ。それがストレスになり挙げ句のはて、明美にとって人生初の嫌みを漏らす結果となったのだ。
「いつからこうなったんだろ。何がまちがったんだろ」
「最初からお金を貸してはいけなかったのかな」
「わたしがもっとしっかりしていれば。。」
など自分をせめてきた。何十回も。
それで言ってしまったのだ。「ほんとにいやだ」と。たまりにたまったストレスのせいで性格が変わるのをはじめて自覚した。それでこのいやな気持の原因は彼氏のことがいやだからか、それとも自分の性格がいやだからかなにもがわからないまま、できないまま一日が終わるのは避けたかった。けれど、今は言葉どおり八方塞がり状態に陥っているのだ。
「なんでこうなったんだろ」「わたしの彼氏はいつからこうなってしまったんだろ」
「あの人なら。。」と嫌みを漏らした後すぐまた同じことを呟いた明美だ。
「あの人なら。。ちがったかな」
「この前の桜ちゃんみたいに携帯聞かれようとする時教えてあげるべきだったのかな」など明美は後悔までしてしまっている。
桜ちゃんには言えてないこと、実際には明美と「あの人」との間で何かがあった。
普段からよくバイトに遅刻する桜ちゃんは「あの日」も明美と同じバイトシフトの時間に20分も遅刻したのだ。それでその日は偶然にも「あの人」が普段より早く店に来た。
それでまた偶然にも店へ来るお客も「あの人」意外にはいなかったので、また偶然少しながら二人きりのおしゃべりの時間ができたのだ。そこで明美は「あの人」とおしゃべりしながらなんとなく、もしかしたら「あの人」に携帯番号聞かれるのではないかという雰囲気を感じたことがあった。過去何回も経験したことで、普通にある男女同士のそういう雰囲気をなんとなく感じたのだ、予想したのだ。
そこを明美はなぜか分からない期待感半分で「携帯を聞かれたら教えてもいい」と心をきめていたのだ。けれど、そこを桜ちゃんに邪魔された。ちょうど「あの人」に携帯を聞かれようと予測していたタイミングに桜ちゃんが店に現れてきたのだ。
「ごめん遅れた。忙しかった。店長は」を言いながら店を入ってくる桜ちゃん。
「あれ、おはようございます。今日は珍しく早いですね。もし私が遅刻するの知って早く来ましたか」と嫌みっぽくいう桜ちゃんのクセ。「あ、そうじゃないですか。残念。知っていてたらよかったのに。あ、別になんにもありません」「明美ちゃんごめんね。早く着替えてくるから」とまた一方的にしゃべったあと、桜ちゃんは更衣室に入った。その肝心なタイミングを一度桜ちゃんにじゃまされてしまってからは同じ機会は2度と訪れなかった。それが人生であり、世の中はタイミングすべてだということをはじめて実感した明美だった。
「今の彼氏もそのタイミングに入る人なのかな」今の彼氏との喧嘩が増えはじめたころから何度も考えていたことだ。
しかし、いくら人生はタイミングで、世の中のできごとはタイミングだというのを知っていても、理解していても今晩明美に起きろとすることを、明美は夢にもみたことがない。想像もできないことだった。それでその予想だにできないできごとが今後の明美の人生観に大きい影響を与えることになる。それをわからないまま、目指す方向へ歩いていく明美だった。
「わたしの彼氏もそのタイミングに入る人なのかな」と呟きながら。
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