第5話 カフェのバイトさんと「あの人」#5
一通り客の数が減って一息つける暇の時間がまた来たとき
桜ちゃんの終わらない一方的なおしゃべりがまた始まった。
「で、さっきの話のつづきだけどさ」
「えーまだあるの。桜ちゃんってほんと一度しゃべりだすと終わらないね」
「今日ばっかりは違うの。やつのせいで、あ、耳塞がないで、ほら」
「はーい、はーい」と耳を塞ぎならが返事をした。しかし心中、「今朝起きた彼氏とことが桜ちゃんにバレないで済むならば、このまま桜ちゃんの話に付き合えば十分だ」と安心する明美だった。今日明美に起こった「事件」とも言える彼氏との喧嘩や別れ話のことはどうしても隠しておきたいからだ。こっちのほうがマシだったので適当に桜ちゃんの話に合わせるのが得策だったのだ。
「男ってマジわがままよね」
「それな。なんでそうなるのかね」と明美は自分の彼氏のことを思いだしながら言った。
「でしょー。ホント自分の女って知りたがるとこがあるよね」
「そうそう、なぜだろ。桜ちゃんの結婚の話もその一種って気がするね」
「マジそうよ。わたしの彼氏も他の男と同じかなと少し不安になっちゃう」
「でもさ、桜ちゃんの彼氏ってそんな軽い気持で聞いたようには思わないし、どうかな」
「それが問題なのよ」
「問題ってなんのこと」
「明美ちゃんもよくしってるでしょ。私の彼氏のこと」
「なんとなく」
「そう。わたしの彼氏って実家はそんな富裕じゃないけどさ、カレなりに頑張って勉強しているしバイトや色々活動にも一所懸命し」
「冬学期もかよってるもんね」
「そー。凄くない。こんな寒いのに週何回も授業行ってて、授業ない日は図書館で勉強熱心で」
「やばいね」
「マジヤバい。わたしには無理。ホントわたしの彼氏って背も高いし顔は、ま、そこそこ可愛いかな」といつもながらこういうときも、彼氏の自慢ばなしをするのが桜ちゃんの悪い癖だ。
「そうね」とまた適当に返事しておいた。
「そ。しかも理系だし、将来起業してIT企業の社長になったりすると将来安定だしね」
「まだ話はやすぎない」
「まだ先なんだけどさ、とにかく今のカレのこと優良物件ってか色々考えちゃうよね。今朝アレ言われてからはさ特に」
「やばい。彼氏のこと優良物件とかいう人はじめてみた」
「まあ、実際にそうだし、ただ思ってるだけなんだけどぉー」
「でもなんとなくわかる。アレ聞かれるとそう思っちゃうよね」
「でしょ」
「で、なんって言った」
「それはもちろん。結婚できたら凄く幸せって感じでソク返事した」
「それはちょっとよくないかな。なんでそんなこと聞いたのかカレの本心聞いてからならともかく」
「だからさ、カレがなんでそんなこと言い出したのか、聞いてきたのか気になったけどバイト行かなければならないし、そのまま聞き流した感じで部屋でてしまったんだよね」
「タイミング悪かったよね。で、それと今日のバイトジャストで来たってのは関係ある話」
「そう。だからソレを聞いて色々考えながら家でたけどさ、あ、普段より早く、それで色々考えながら歩いてきたら、すぐ店着いてしまったわけ」
「なんだ結局早く出かけたからじゃん、でも気になるね」桜ちゃんの言いたいことはあまり理解できなかったけど一応相づちだけはちゃんとしとこうと頑張って返事している明美だ。
「ね、どう思う。今の話」
「そうね。一応わたしの考えだけどさ、普通に言ってみたかったって感じかな」
「つまり」
「つまり、将来結婚していいほど今の関係満足してるし、桜ちゃんの彼氏って自分が決めたことはとことんやりたがる性格じゃん」
「うん。そ、そ。そこはわたしと似ている。酷似、やはいほど」
「それな。さくらちゃんも昔からそうだったよね」
「昔ばなしはやめてよ、約束でしょ」
「とにかく、それを桜ちゃんの彼氏は自分なりに動機づけるため言ったかもって」
「うん。。よくわかんない」
「わたしもよく知らないし、ただどこかネットでみた男性の心理なんとかのこと覚えていっただけどね」と桜ちゃんの悩みにどんどん真剣に助言する自分のことがおかしいと思いながらも、いちおう桜ちゃんの話に頑張ってつきあうようにした。また
自分の今彼、いや元かれになろうとする田中君は、明美のことをどう思っていたのか少し気になるも、聞く術がなくなった気がして少し寂しくなりはじめた。
「うん。。つまり。。ま、わたしが魅力すぎて一緒に一生を共にしたいってことでしょ。ね」
「ま、そうじゃかな」
「だから結婚もしたいから、カマをかけてみたってことかな。私はどう思うかなと」
「ありじゃない」
「そっか。そうだったんだ。やっぱうちの彼氏ステキやわ。でしょ」
「さ、ステキとか言うまでのことかな」
「うちのことうらやましがらんでちょうだい」
「変な言い方」
「別にいいじゃん。わたしもともとこうだから」
「てか桜ちゃん急にうきうきしてない。別に今すぐ結婚とかすることじゃないしさ」
「でもあと二年くらいでうちら卒業するし、就職してしごとしながら今の彼氏と、このまま付き合っていたら結婚とか将来のこととか考えてしまうから事前に考えておくのもよいかもよ」
「桜ちゃん、彼氏のこと好きだね」
「好きよ。大好き。たぶん今のカレと別れるとこれ以上いい人には出会えないと思われるほどいい人」
「いいね。うらやましい」
「てか明美ちゃんの彼氏もいいじゃん」
「わたしの彼氏もいいよ、ステキよ」とわざとらしく強く高い声で自分の彼氏のことを自慢してみた明美だった。
「お互い、いい彼氏と出会えたね。あ、幸せ。やっぱ恋ってすてきやわ」
桜ちゃんのどうでもいい雑談になんとなく対応できた気がした。今日はほんとうに色々あって長い一日であると自覚した。
そのとき、今日店に来てない「あの人」のことが気にかかっていたことをまだ自覚してしまった。「何故だろ」と思いながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます