第2話 パワハラ上司と女騎士

 羽輪原ぱわはらがしばらく歩くと、5mはあろう巨大な動物を取り囲む、鎧姿の一団に遭遇した。

「こいつは熊か? 」


 鎧の戦士は全部で5人。うち一人は指揮官なのだろうか、白い鎧でブロンドの髪の長い女性で、残りの4人は銀色鎧の若い男性だった。

「いいか! 落ち着いて隙を窺がえ! 」

「ひぃ…… 」

「どこをどうしたら…… 」


 どうも戦いに不慣れな様子で、一応剣は構えているが、常におどおどしている。


 羽輪原ぱわはらは離れた場所から、しばらくその様子を見学していたが、いつまでたっても先に進めないイライラで

「ちっ、見ていられん。 おい! はやく刺せ! 」

 とヤジを飛ばし始めた。


「誰ですかあなたは?! 危険なので下がっていてください」

 女騎士は羽輪原を止めるが、そんなことお構いなしで


「そこの長髪のお前! さっきからなに手を止めてんだ‼ ガキの遊びでも、もっといい動きで剣を振れるだろうが! 」

「ひぃ! 」


「そこの髭面! 棒立ちで呆けた面しやがって、そんなんだったら家に帰っとけよ、なんの役にも立てないでよぉ! 」

「そんなことっ…… 」


「あぁもうじれったい! 貸せ! 」

 羽輪原は、男の一人から剣を奪うと、熊の背後に小走りで回り込み、後ろ足に剣を突き刺した。

「ずいぶん動きが鈍いじゃないか、この熊。 しかし、なかなか良く切れる剣だな」

 

その様子を見ていた女騎士は

「気配を悟られることもなく、なんと素早い動き……! それに、あの硬い後ろ足の毛皮を、こうも簡単に切り裂くなんて! 」

羽輪原の動きに対して、驚きを隠せない。


 銀鎧の男たちも

「すげぇ…… 」

「くそ! あんな風に言われっぱなしで居られるか! 行くぞ! 」

「「おぉ!! 」」

 と羽輪原に感化されて、先ほどまで無かった気迫で、熊に切りかかる。


 最初の傷が大きかったのか、勢い付いた騎士たちによって、獣はあっという間に討伐された。



「これでようやく先に進めるな。 おい! お前ら! 」

「はい!? な、なんでしょうか? 」

 またもやいきなり羽輪原に声をかけられ、怯える騎士たち。

「ここはどこの公園だ、一番近い駅か道路は、こっちでいいのか? 」

「こうえん? いえ、ここは城壁東、魔の森の手前ですが…… 」

「は? 何を言っている? いいから、町はどっちなんだ? 」


 要領を得ない騎士の言葉に、イライラし始めた羽輪原へ、女騎士が

であればここからすぐです。 先ほどのお礼もさせていただきたいので、馬車でお送りしましょう」

 と声をかけた。

「馬車? まぁいいか。 頼む」

「はい! 先ほどの剣や、指揮についてもぜひお話させていただきたい!」

 女騎士はずいぶんと興奮した様子で、羽輪原の手を、自分の胸の前で握った。


「あっ、失礼しました。 私はレイナ・フリューナと申します」

「俺は羽輪原。 羽輪原ぱわはらあつしだ」


 転生したことにも気付かないまま、羽輪原は、異世界の騎士と仲良くなった。

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