第6話

「ウソなんですよ」


 動画を止めると、川一かわいちは言った。


江金えがねさん、金飯かないいさんと寝てなんかいないです」

「えっ?」

「江金さん、言ってたんですよ。どうにかして戸田とださんを引き留めたい。戸田さんにやる気を出して欲しいんだって。戸田さんには自分よりももっと、才能も可能性もある。だから、もっと貪欲になって欲しいんだって。だからきっと発破かけるつもりで、あんなこと」

「うそ、そんな、先輩……」

「俺、警察にこの動画提出します。戸田さんも、ちゃんと話してくださいね、本当のこと」


 座り込んだままの杏をその場に残し、川一は劇団員たちの所へと戻って行く。


「先輩なんかより、私の方がよっぽど合ってたじゃないですか。【地に堕ちた天使】って」


 追いかけても追いかけても、届かなかった清美の背中。

 伸ばせば届いたはずなのに、届かなかった清美の背中。

 もう、追いかけることもできない、背中。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 清美という存在を失って初めて、杏の目から涙が零れ落ちた。


【終】

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