第4話

戸田とださん、ちょっといいですか」


 あんに声を掛けてきたのは、第一発見者の川一かわいちだった。

 川一は杏より後にこの劇団に入った団員だ。劇団員ではあるが、主に大道具などの裏方を担当していた。


「なに?」

清美きよみさんのことで」


 杏の心臓がドキリと跳ねる。

 だが、おくびにもださず、杏は小さく頷いた。


 他の劇団員から少し離れた場所で、川一は黙ったまま杏にスマホの動画を見るよう促した。だが、動画には、非常階段へと繋がる扉が映ったまま。


「なに?これ」

「このまま、聞いていてください」


 言われたとおりに、杏は動きの無い動画に目を落とす。映っている扉が杏の不安を掻き立てたが、やがて聞こえてきた声に、杏は思わず目を見開いた。


『誰にも見られなかった?』

『はい』

『川一君にも?』

『はい』


 それは間違いなく、前日に非常階段で清美と杏が交わした会話だった。


「川一君、なんで、これ……」


 震えそうになる声を抑えて、杏は川一に尋ねた。すると、思いもかけない答えが返ってきた。


江金えがねさんに頼まれてたんですよ。戸田とださんの密着動画作ってくれって」

「えっ?」

「戸田さんは将来必ず大物になるから、今のうちに撮っておいたらお宝映像になるって、江金さん言ってたんです」

「ウソ……」

「ホントですよ」


 腰から力が抜けていく感覚に襲われ、杏はその場にヘナヘナと座り込んだ。

 川一のスマホからは、清美と杏の会話が流れ続けていた。

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