第3話

 あんが稽古場に着くと、所属している劇団員はほぼ揃っていて、杏の到着を待っている状態だった。


「すみません、金飯かないいさん。遅くなりまして」

「ああ、戸田とだちゃん来たね。それじゃあこれで全員」

「えっ、江金えがね先輩が」

「それはこれから話すから」


 金飯の話に、劇団員はざわついた。

 今日から公演予定の【地に堕ちた天使】主演、江金清美が、昨日亡くなったというのだ。第一発見者は、劇団員の川一誠かわいちまこと。発見場所は、稽古場の入っているビルの非常階段の踊り場だった。


「清美は階段から転落したらしい。それが事故なのか事件なのかを調べるために、これから刑事の聞き取りが始まる。みんな、協力して欲しい」


 金飯の言葉で、全員がその場で待機となった。


【地に堕ちた天使】は、金飯のツテで有名な脚本家がこの劇団のために書き下ろした話だ。そのせいか、芸能スカウトマンも多数観に来る予定だった。

 杏は、この舞台にかけていた。ラストチャンスだと思っていた。だから、主演の天使役を演じたかったのだが、選ばれたのはやはり江金清美えがねきよみ。杏はいつものように、清美の引き立て役を演じることとなった。

 この舞台を最後に、杏は劇団を退団するつもりでいた。そのことは、清美にだけは伝えてあった。

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