第3話 転

俺と、魔法使いのチエ、戦士のユウキ。その三人でパーティーを結成した俺達は、早速魔王討伐の旅に出ることにした。本当はいくつか依頼をこなして、使い果たした軍資金を補充しようと思ったのだが......。


「わたくし、恩は必ず返すと決めておりますわ!」


という聖女の計らいにより、無事装備を整えることが出来た。公爵家のご令嬢らしいが、国王より気前が良い。ただ、その代わりに仲間に入りたそうにこちらをみつめて、というか詰めてきた。


「ただし、わたくしをパーティーに加えてくださいな」


「断る」


「何故ですの!?」


「クレアには傷ついてほしくない。魔王は俺が倒してくるから、クレアは町の平和を守ってくれないか......?」


とキメ顔で囁いたら、顔を赤くして了承してくれた。ちょろ過ぎる。


しかし、俺の言葉に思うところがあったのか、「世論抜きにしても偽装のためにフェイクの武装をした方が良い」とのアドバイスをくれたのも彼女だ。

おかげでユウキは仕込み杖を、チエはバスタードソードを腰に提げている。敵の油断を誘うには非常に有効な手になるだろう。にしてもクレア、マジで世間を過剰に恐れ過ぎだろ。




「それで、まずは聖剣を手に入れるのかい?」

魔法使いの少年チエは、キングスライムの核を的確に撃ち抜きながら聞く。


聖剣エクスカリバー。

運命に導かれた勇者が、運命を断ち切る剣を手にするのは不思議で仕方がないが、その攻撃力は非常に高く、聖気を纏った一撃は魔族特攻をもつ。ただ問題がひとつ。


「いや、聖剣は必要ない。あれを持ってると敵が寄ってくる」

俺は魔法で眠らせたオーガに剣を付きたてながら答える。


そう、聖剣は別名魔物ホイホイと言われるほどエンカウント率が跳ね上がるのだ。


「じゃあ、武器はその剣一本で戦うのか?」

片手でワイバーンの攻撃を防ぎ、蹴りで仕留めたユウキは俺の鉄剣を指して言う。


「いや、クレアがくれた剣もかなり質が良いが、それよりも良いモノを獲りに行く」


流石は王都出発なだけあって、ここらでの経験値稼ぎは結構うまい。レベルアップも大分できたし、そろそろ次の段階に進むべきだろう。


「四天王が一人、悪逆非道のアモン・ラチル。奴の持つ魔剣を手に入れるぞ」






「ねえ、これで本当に潜入できるの?」


涙目で尋ねるチエの頭には犬耳が付いている。

ここは四天王アモンのお膝元、その一歩手前だ。


「やってみればわかる」

角を付けながらユウキが答える。


「聖剣さえなければ容易だ。最悪、バレてもかまわんさ」


理由は単純、アモンが魔族にも嫌われているから。




「これは......ひどいな」

思わず鼻を抑えるユウキ。


それもそのはず、奥に見えるアモンの屋敷とは対照的に、目の前に広がる街はスラム街がかわいく見えるほど汚れていて、辺りに転がる何かの死体の量から、その不衛生さが良くわかる。


「あ、あの!」


すると、一人の少女がユウキに声をかける。


「えと、御貴族様、ですよね。あ、わたし、チカって言います!その、急に弟が倒れて!それで......」

おどおどと怯えながら話す女の子。


上等な防具ではあるが、いかにも冒険者という恰好の俺たち。それを貴族と間違えるほど、この町でまともな恰好ってのは珍しいのだろう。


「安心しろ、ゆっくりでいい。どうしたいか言うんだ」

話しかけられたユウキは、魔族の女の子に目線を合わせて優しく話しかける。


「あ、あの、わたし何でもします!だから、弟を助けて!」

ぽろぽろと涙をこぼす少女。


振り返るユウキの目は決意に満ちていた。

「ねえ、」


「分かってる。君、弟のところに案内してくれるかい?」


とはいえ、魔族に人間族の回復魔法は効かない。現代の医療知識があればワンチャンといったところか。


だが、連れてこられた廃教会に入ってユウキもチエもビックリ。その少年は魔族と人間のハーフだったのだ。


「私の回復魔法、全然効かなくて......」


さらに驚いたのがチカ。魔族にも関わらず聖職者顔負けの超回復魔法を行使して見せた。


「だがそれでも効かないということは......」


少年の服を脱がしてみれば、あった、呪いの跡だ。


「君、この呪いに心当たりは?」


「これはアモン・ラチル様が......。お母さんを殺したときに、汚れた弟の方も浄化してやるって......」


思わず拳に力がこもる。アモンめ、多様性の塊をこんな雑に扱うとは......!決意を胸に立ち上がれば、チエもユウキも力強い目で応えてくれる。


「アモンを倒しに行くんだね?」


「ああ、あの愚か者を成敗してくれる!」


「じゃあ早速襲撃しようか」

逸るユウキを制止する。このパーティーは命だいじに、だ。


「いいや、忍び込むぞ!」




夜に紛れ、アモンの屋敷の中を走り抜ける三人の冒険者達。真っ黒な外套に身を包むその姿はさながら盗賊である。無事に忍び込めたのはでかい。が、中に誰もいないことが不安を加速させる。


「妙だな......」

俺の声にチエが反応する。


「アモンは嫌われているんですよね?ボイコットでもされたのでは?」


「確かめてみれば良い」


言うや否やドアを乱暴に開け放つユウキ。あまりの大胆さに驚嘆するが、その先の光景にもっと驚いてしまう。


「これは、魔族の死体......?」


倒れ伏す魔族の死体。俺はその魔族を知っていた。


悪逆非道のアモン・ラチル。

夥しいほどのドス黒い血はまだ固まっておらず、殺されてからそう時間が経っていないことが分かる。


「まさか、がもう......?いや、転生している様子はなかったはず......」


「ねえ、魔剣ってこれのこと?」


考える俺をよそに、おぞましい見た目のナイフを見つけるユウキ。それは確かに俺が求めていた、界隈では確殺棒として有名な魔剣だった。


「ああ、で超火力が出る最強の魔剣だ。しかし、アモンを殺してこの魔剣を回収しなかっただと......?」


不穏な空気に冷汗が止まらないが、確殺棒を回収出来たならここに留まる理由はない。死体をそのままに早々に立ち去ろうとするも、それを呼び止める声。


「どこに行くのだ、我が息子よ。いや、お前は一体何だ?」


浴びせられた言葉に反射的に距離をとる。それぞれの武器を構えるより先に、溢れ出す禍々しい気配でその正体に気づく。


「お前は、魔王......!?」


馬鹿な、こんなのにないぞ!?

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