第2話 承

「お待ちしておりました。募集を見た方が酒場でお待ちしております」


「ああ、どうも」


結局夜まで時間を費やすことになった俺は、ぐったりしながらパーティー専用の酒場に向かう。すると、既に結構な人数がいた。丁度11人。さて、俺のガチャ運を祈るとするか。


「あ、あなたは!」


なんだと思って目を向ければ、出たな、さっき助けた少女だ。


「先ほどは助けていただいてありがとうございました。お礼も言えず、ずっと探しておりましたの。ここで会えるなんて、これも神の導きに違いありません。わたくし、クレア・マーシェリーで宜しければお供しますわ」


綺麗なカーテシーをとる彼女は、どうやら有名人らしく、まわりの冒険者たちも騒いでいる。


「クレア・マーシェリーって、公爵家なのに修道院に入った稀代の聖女だろ、なんで冒険者に......?」


「勇者パーティー結成のために呼び集められたんじゃなかったか?」


ああ、聖女クレアか!いたなそんなキャラ。聖女のステータスは回復魔法特化型で、固有魔法は聖域展開。一時期は最推しだったが、やりこんでいく内に使わなくなった記憶がある。


「いかかでしょう。わたくしがいれば勇者様を死なせることはありませんわ」


「勇者?今勇者って言わなかったか?」


「じゃあ、あの目つきの悪い男が......?」


ああ、面倒なことになった。勇者パーティーのために呼び出されたなら、そりゃ俺の外見も知られているか。


「お、おい。流石に勇者様のパーティーなんて入れないぞ......」


「魔王相手に立ち向かうってことだろ?俺嫌だよ......」


まずい、せっかく集めた多様性が!

「待ってくれ、パーティーに必要かどうかは俺が判断する。ひとまず全員役職ごとにわかれてくれないか?」


「......っ!」


ん、今役職ごとってのに反応した冒険者がいたな。これは当たりか?


ぞろぞろと役職ごとに分かれていく。修道服を着た女僧侶、屈強な筋肉を持つ男戦士、ローブを身にまとった女魔法使いできれいに性別がわかれている。が、二人だけ様子がおかしい。さっきも反応していた二人だ。


「なるほど。......戦士の列と魔法使いの列、それぞれの最後尾だけ残ってくれ」


ビクッとした二人。これは間違いなく当たりを引いたな。

後の冒険者たちはゾロゾロと階段を降りていく。そして何故か聖女だけ当たり前のように残っている。なんでだよ。


いくつか聞こえる舌打ち。冒険者達もケアしないとな。


「君たち、お詫びと言っては何だが集まってくれた全員に一杯エールを奢ろう。ぜひともこの機会に親睦を深め合ってくれ」


早い話、お前ら同士でパーティー組んでくれってことだ。ガチャを引いた身として、彼らの命にも多少責任を持つ必要がある。......おかげで軍資金も報酬もパーだが。




「それで、君達」


「はいっ」


体を固くする少年少女。どちらも不安げな顔をしている。

俺は少女の方を見据えて尋ねる。


「君、魔法使いの列に並んでいたのに杖をもっていなかったな」


「あっ」


焦る少女。

今度は少年の方に向き直る。


「君はその逆だ。戦士の列にいたのに杖を持っている」


「こ、これは」


「本当は二人とも逆の列に並びたかった。違うか?」


黙り込む二人。その沈黙が答えだ。

違う列に並んだ理由は単純。それは何故か残っている聖女の反応を見れば明らかだ。


「え、男の魔法使いに女の戦士?ふふ、なにそれ、すっごくおかしい!」


ケラケラと笑う聖女を前に二人は赤面している。何も言い返さないのを見るに、そんな反応をされるのは今日が初めてではないのだろう。


「クレアとか言ったか、うるさいぞ」


「え?」


俺の不満げな声に呆気にとられる聖女。


「そもそもお前に残れとは言っていないだろ。なんでいるんだ?」


「いえ、わたくしは聖女ですのよ?勇者様には当然必要でしょう?」


「いらん。帰れ」


「んなっ」


ぎゃーぎゃーとうるさい聖女。無理に帰らせるのも面倒なので、とりあえず無視しておこう。目の前の二人の方がよっぽど大事だ。なにせ、最強ネームドの一角だからな。


「二人とも、名前と役職を教えてくれ」


「私はユウキ。これでも戦士だ」

健康的な褐色肌に短い銀髪の少女は、その碧眼でまっすぐに俺の顔を見つめ、自分は戦士だと言う。


「僕はチエ。一応魔法使い志望、です」

白く細い腕に杖を大事そうに抱えた少年は、長い黒髪の隙間から理知的な翡翠の目を覗かせ、自分は魔法使いでありたいと願う。


そして二人は見た。

目の前の勇者だという男。黒目黒髪の少年が、まるで魔王のようにニヤリと笑ったのを。




俺は確信した。ユウキとチエ、二人は最強ネームドだ。キャラクターのステータスの中でも、この二人はそれぞれ戦士、賢者としての適性が非常に高い。少なくとも聖女よりは確定で使える。


「いいか、俺は人の強さを測ることが出来る」


嘘ではない。キャラクターのステータスは名前さえ分かれば詳細な数値を返せるレベルで覚えている。


「君たちは強い。それは実力だけではない。周囲の反対の声にも負けず、自分の夢に向かって鍛錬し続けてきた、その心の強さもだ」


俺は二人の目を見つめる。


「共に魔王を倒す冒険に出ないか」


背中を押す言葉は初めてなのだろう、二人は勇気づけられたように見つめてくる。だが、積み重ねてきた枷は固く、容易く解けるものではない。


「ゆ、勇者様のパーティーにそんな変人を?世間に叩かれますわよ!?」


聖女は糾弾する。

なんでこのお嬢様は世論に怯えてるんだよ......。


「......言葉は嬉しい。だが、女は魔法使いになるものだ。勇者パーティーに女戦士だなんてふさわしくない」


「僕も、男は戦士だと教わってきたし、自分でもそれが普通だと思う。僕みたいな色物なんて......」


俯く二人。

きっと今までもこうしてきたのだろう。たとえ力が強くとも、心が強くとも、積もりに積もった言葉の暴力には為すすべがない。どの時代も、恐ろしいのは他人だ。


だが、それでは夢がない。


「女は魔法使い、男は戦士?うっせぇ、偏見なんてぶっ壊せ!!!」


「なっ!」

余りの言い草に驚く一同。だが、そんな反応はどうでも良い。


「俺は勇者なんて辞めた!それでも魔王を倒そうと思えば倒せるんだよ!」


「そんなめちゃくちゃな!」

聖女は言い返す。だが俺は止まらない。


「いいか、この先だってお前達のような奴らは出てくる。そんな時、そいつらにこんな夢も希望もない世界なんて俺は見せたくないッ!」


ハッと息をのむ声。

もう少し、もう少しだけ。その強い心を勇気づけるだけで良い。


「お前らはこの世界の希望だ!誰もが性別、人種、外見に囚われず夢を口にできるんだって、そんな世界を!お前達がッ!作るんだッッ!!」


顔を上げる二人。その目は輝いていて、どこまでも力強い。


「僕は、僕は魔法使いだ!魔王を倒す、魔法使いのチエだ!」


「......私は戦士だ。魔王殺しの戦士、ユウキだ!」


ここから作るのだ。多様性の社会を。

何一つ問題はない。今のところはルート通りなのだから。

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