古き良き王道RPGを多様性で無双する

アオイ

第1話 起

父はいないが、母は優しく、その心は強かだった。

そんな家庭で育った私が、母を守れるようにと胸の内に正義を宿したのは、至極当然のことだろう。


しかし、のどかな『はじまりのまち』では魔物もスライムしかでないとあって、日々の鍛錬が功を奏したことは一度もない。


だが、王国の兵士が突然現れ、私を王都へと連れて行ったとき、私は初めて自身の役目を察した。


「勇者の子よ、どうかこの国を救ってはくれぬか?」


「あ、これゲームの世界だ!」





謁見の間。王様を見上げながら、俺は前世の記憶を思い出した。


そして気づいた。ここは俺が生前愛してやまなかったゲーム。その世界に俺は、勇者の息子として転生している!


......となれば当然やることは決まっている。


「勇者よ、支度金の10Gじゃ。我らを救ってくれるな?」

付き従う兵士が小さな袋を持ってきた。軽そうな音は、中に入っているのが間違いなく銅貨であることを示している。兵士をまじまじと観察するが、特におかしいと思っている様子はない。


俺は胸を張ると、深く息を吸い込み言い切った。


「お断りします!」


さあ始めよう。俺の、古き良き王道RPGを多様性で無双するを!




俺の見事な啖呵に、謁見の間はシンと静まり返る。我に返った王様がひとまず話をせねばと俺を諭しだした。


「あー、勇者よ。民の命が惜しくないのかね?」


「いえ王様。王様こそ勇者の命が惜しくないのですか?」


「なんじゃと」


俺はやれやれと説明する。

「魔王を倒せとお願いしておいて、支度金が10Gってなんですか。素手で魔物に立ち向かえとでも?」


「む、むう......」


何も言えない王様に背を向け、俺は悠々と退出する。勇者はボランティアばかりでお金も貰えなければ魔王を倒しに行く時間もない。非効率の極みだ。


「ま、待て!話は分かった、だがせめて『はじまりのまち』には送ろう!」


「いえ、結構です。ここから出発した方が武器も味方も敵の落とす経験値もうまい」


その良心はありがたいが、増額を申し出ないのがなあ。だがそれも仕方ない。なにせここは王道RPGの世界なのだから。




王道RPGでは、勇者は基本ツボを割ってお金やアイテムを稼ぐ。なぜそんな盗賊行為をするのか考えてみたが、原因は勇者が慈善活動ばかりの薄月給だからではないかと思う。ならばきちんと対価をもらって仕事をすれば良い。


「冒険者ギルドへようこそ。依頼ですか、登録ですか?」


そう、つまり冒険者だ。


「登録を頼む」


登録方法は簡単で、申請を出せばその場で冒険登録は完了する。なお、最初はブロンズランク固定だ。


受付嬢は発行したギルドカードを渡しながら、いくつかの依頼書を見せてくる。

「登録が完了いたしました。早速ご依頼を受けますか?」


いや行かないだろ。軍資金は用意しているが、こちとら見た目武装もしていない初心者だぞ。そんな奴に依頼を勧めるなよ。死ぬぞ。


初めての冒険、しかも実際に自分の命が掛かっているのであれば安全策をとるに決まっている。


「いや、パーティーメンバーを募集したい」


安全策、すなわち仲間だ。





仲間の募集、いわゆるガチャ。


「募集要項はいかがいたしますか?」


「特に制限はかけない」


「かしこまりました」


欲しいのは戦士。だが人は可能性の塊。一つたりとも見逃せない。


さて、人が集まるまでしばらくは自由時間。効率を考えれば薬草採取が一番か。


「きゃー!泥棒よ!」


聞こえてきた甲高い悲鳴。どうやら歩いていた女の子が鞄を盗られてしまったようだ。なるほど、イベント発生か。

こういうのは一個受けると次から次へと連続イベントが発生する。助けないのが一番効率的だ。そう、効率的なんだが......。


「......はぁ、おい待て盗っ人が!」


仕方がない。雀の涙くらいは報酬がもらえるはずだ。それで薬草を買えばいい。少し、いやかなり効率は落ちるが......なに、薬草を使わなければ良いだけだ。今更シナリオブレイクを気にする必要なんてないさ、多分。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る