第29話 古書

「エルフと勇者と姫」

王立図書館で、俺は一冊の本を手に取った。

著者はミレーヌ・ローズ・ブレイド。


「あら、随分古い言葉みたいね」

リアナが一目見て呟いた。

年代が変わると、表現する文章も変わる。

何故か俺は、問題なく読めていたが。


「ここに記すのは私の日記、私の気持ちをここに留めて置きたい。」


俺は言葉に出して読んでみた。

「え?読めるの?私には所々しか解からないのに・・」

何故、俺に解るのか?

そういえば、この世界の言葉も日本語じゃないにもかかわらず話せている。

だから、読めてしまうのだろうか?


「日記みたいだな」

「そうなんだ・・」

「これ借りて持って行けるかな?」


司書に見せたら、借りられるようだ。

俺は宿屋に持ち帰り、読むことにした。


「本当に日記だな・・」


深月の5日

今年初めて雪が降った。

勇者ウラノは、はしゃいでいる。

私は寒くて仕方ないのに、何が楽しいのかよく分からない。


10日

私が落ち込んでいたら、ウラノは私の顔を引っ張った。

私と対等の友人と言ってくれるのは彼だけ。

私はウラノが気になった。


15日

ウラノが違う世界から来た事を知った。

どおりで私への態度が他の人と違うわけだ。

みなに平等で優しいウラノが好きになった。


「本当に日記みたいだな。何でこんな本が図書館にあるのだろう」


俺は最後のページをめくってみた。


微光月の10日

教会の儀式で魔法が発動した。

月明かりの中、ウラノは私にお別れだと言った。

夜の闇に消えていくウラノ。

私は彼を見送った。

もう二度と会えないのだろうか。


ここで終わっていた。

「教会の儀式ってなんだ?」

「その本の作者の名前は誰になってるの?」

リアナが訊ねる。

「ミレーヌ・ローズ・ブレイド」

「それ、初代ネツィーの王女よ。割と有名よ」



****



「ミレーヌ」

テントの中で、オレは王女の名前を呼んだ。

王宮にいれば気軽に呼べない名前だ

今は一緒に旅をしているから、気軽に呼べるが。


「ファンどうかした?」

「ウラノが元の世界に帰るという話は本当か?」


ミレーヌは黙って俯いた。

「信じたくはないけど・・そうらしいわ。神殿へ行って儀式を行うと、帰れると言っていたわ」

「そうか・・」


神殿でそんな事が出来るのだろうか。

今まで、聞いたことが無いが。


**


「お別れだ。今まで有難う」

ウラノは泣き顔で感謝の言葉を伝える。

聖女の唱える魔法で、まばゆい光がウラノを包み込んだ。

ウラノが見えなくなっていった・・・・。



****



「行くな・・・」


「ファン様?うなされておりましたが、大丈夫ですか?」

エリーゼが心配して俺を見つめる。

全身汗をかいていたようだ。


「・・・久しぶりに夢を見た・・・」

全く、オレは未練たらしいな。

毛布がベッドからずり落ちていた。


「大丈夫だから、心配するな・・」

エリーゼの頭に手を乗せて撫でる。

思い出したのは、あのウラノに会ったせいだな。


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