第3話 町の冒険者ギルド

彼女の事が忘れられない。

俺は夢にうなされているようだった。

何もやる気が起きない。

前は畑仕事も率先してやっていたのに。


「俺、どうしちゃったんだろ」

虚空を見つめる。

両親は俺を心配している。

心配をかけたい訳ではないのに。


母さんは家の掃除をしている。

椅子に座って、惚けている俺に言った。

「会いに行けば?」

「誰に?」

「そりゃ、リアナさんでしょ」

俺の顔が熱くなった。

本当どうしたんだよ俺。


「あらあら、気づいてないみたいだね。ノアは、リアナさんの事が好きなんだよ」

俺が彼女を好き?

そうなのか??

何しろ今まで経験が無い・・と思うからよくわからない。


「会いに行ってきなさいよ!」

背中をバシンと叩かれる。

両親が言うにはそんなに遠くにはいないはずと言っていた。

村の近くには少し大きい町がある。

きっと冒険者ギルドへいけば会えるのではないかと。

そんな簡単にいくかよ。

と思っていたのだけど。


村の隣町、ラズリーに訪れた。

冒険者ギルドは町の中心地にあると聞いて、ひときわ大きい円形の建物を目指す。

大きい扉をあけて中に入る。


奥にひときわ目を引く女性。

金髪が肩まであり、青い澄んだ瞳。腰には雰囲気に似つかわしくない剣が差さっている。

「いた」

彼女は隣の少女と談笑していた。

そういえば冒険者っていってたっけ。

だからか。

かといって声をかける勇気もない。


「冒険者ギルドに行くのだったら登録して来いって言われてたっけ」

俺はリアナさんを見つつ、案内と書かれたカウンターへ向かった。

初めて来たが、ギルド内は広かった。

人も大勢いたけれど。


「何か御用ですか?」

ギルドの女性職員に聞かれる。

「冒険者登録をお願いします」

とりあえず、これでいい。

近くにいれば話しかけられるかもしれない。


「これに記入してください。名前とそれと・・」

ギルドの女性職員が、俺の視線に気づいたのか一言付け加える。

「リアナさんはやめておいたほうがいいですよ。私のひとりごとですが」

何を言っているのだろう?

俺はその時意味がまったくわからなかった。

彼女は忠告してくれていたことに。


****


「おい!」

登録が終わり帰ろうとしたとき、青い髪の男に声をかけられた。

「お前、何俺の女見てんの?見てんじゃねえよ」

足を蹴とばされる。

俺はすっ転んだ。

「いたた・・急になにするんですか」

青い髪の男は上から見下して、


「何だガキじゃねえか・・。勘違いしちまった」

つぶやくと何処かへいってしまった。

「大丈夫?」

リアナさんが俺の元に駆け付けた。

「怪我してないから平気ですよ」

顔が少し緩んだ。


「・・わたし、彼の恋人だから、あまりわたしの事見ない方がいいかも。彼、嫉妬深いから。知らない人ってことにしておいて」


「え?」

俺はせっかく会えた彼女に、頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。

「・・そ、そうですか」


彼氏いたのか・・・。

俺は何とか立ち上がり、出口へ急ぐ。

きっと平静を保っていられない。

今にも体がくずれ落ちそうだ。

出口がやけに遠く感じる。

重い体を引きずり、ようやく重い扉を開けた。

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