第2話 剣士リアナ

「・・ん、帰らないと・・」

女性は体を起こそうとした。

「だめですよ!しばらく寝ていないと!」

俺は強制的に女性の体を抑えつけた。


「す、すみません!でもこうしないと無理して起きそうなので・・」


「はぁ、わかりました。しばらく休ませてもらいますね」


「ノア、今日寝るベッドはどうする?」

ナタリアが小声で俺に聞いてきた。


「俺は今日は居間の長椅子で寝るから平気だよ」

「?わたしのせいですね。やっぱり悪い・・」


「ちょっと、無理しちゃダメだって!」

再び起きようとするので、制止しようとしたが、体が動けないようだった。


「一日くらい平気ですよ。女性を無理させるわけにいきませんからね」

「すみません・・・」

その後、彼女はあきらめて眠り込んでしまったようだった。


「ねぇノア」

「なあに母さん」

「彼女、治癒魔法で直したのかい?」

「ああ、うん、そうだけど」


血が沢山出ていたから、きっと貧血なんだろう。

しばらくすれば元に戻るはず。

あれ貧血って何だろう?

ここに来てからそんな言葉聞いたことなかった。

記憶をなくしていた頃の記憶だろうか。


「彼女は回復魔法で治すところ見ていないね。見た感じ冒険者みたいだけど、王都の騎士団とかだったら、ちょっとやっかいだからねぇ」

「何が?」

「ノアは知らないだろうけど、回復魔法って使える人が少ないから、城の連中に見つかったら連れていかれるだろうねぇ」


勅命ちょくめいってやつ?」

「そうそれ!」

「逆らうと最悪、殺されたりするからやっかいなんだよねぇ」

ふぅとため息をつくナタリア。

「もしかして、逆らったことあるの?」

「・・・まあ、若気の至りってとこだわね」

母はだいぶ破天荒な性格だったらしい。


****


翌日になり、彼女は少し良くなったようだった。

「助けていただいてすみません。お礼を言うのが遅くなってしまって・・・」


彼女は昨日より少し柔らかい物腰になっていた。

「わたしはリアナです。冒険者をしています。昨日は助けていただき有難うございました」

金色の髪が朝日に照らされて輝いていた。

瞳は遠い空の色をしている。


「ノア?」


ナタリアが声をかける。

俺は意識が飛んでしまったらしい。

初めての経験だった。


「元気になったようで、なによりです」

俺は顔に笑顔を張り付けた。

変な感じ・・元気になって嬉しいはずなのになんでだろう。


小鳥が怪我を治して羽ばたいて行ってしまう。

まるで行くのを邪魔したいみたいだ。


「もし、良ければですけど、ここで一緒に暮らしませんか?」

俺はおもわずそんな言葉を彼女にかけていた。


「・・申し出は有難いけれど、帰らないといけないので」


リアナは帰っていった。

俺はただ見送る。

それしか出来なかった。

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