異世界転移して記憶を失った俺とパーティを追い出された彼女

月城 夕実

第1話 記憶

喧嘩なんかしなければよかった。

俺は後悔をしていた。

この後『会いたくても会えない場所』へ行ってしまうなんて、想像すら出来るわけがない。

いくらイラついていたとはいえ。

俺の唯一の肉親なのだから・・・。



****



俺は目を覚ました。

あれ?頭にもやがかかっているような・・。

見たことのない天井は木で出来ているようだった。

体がだるい。俺はベッドに寝ていたようだった。

ベッドの近くに初老の夫婦がいて俺を心配そうに見つめている。


「目を覚ましたんだね。ここがどこだかわかるかい?」

優しい声の女性が語り掛けてきた。

俺は首を横に振る。

見覚えのないところ、窓から見える景色は畑が広がっていた。

俺は・・名前が出てこない。

言いようのない不安感が押し寄せる。


****


あれから三年。

俺は三年前、村の外で倒れていたのだ。

今は助けてもらった夫婦にお世話になっている。

ここはラクノ村。


俺は記憶が戻らないので、ノアと名を付けてもらった。

何となく名前に違和感があるが仕方ない。

年齢は恐らく15歳くらいだろう。

父ハイムと母ナタリアに感謝している。

両親が銀髪で俺が黒髪、どう見ても親子ではないけど。


この村に俺のような黒髪で黒目の人はいなかった。

他の所に行けばいるのかもしれない。

いつか村の外に出てみてもいいのかもしれない。

淡いそんな気持ちを抱いていた。


あの事があるまでは・・・。


俺は今朝もナタリアに魔法を教わっていた。

庭には大きな木が生えている。


風の矢ウィンドアロー

手のひらからつむじ風が出現し、庭の木の枝を揺らす。

風は矢となり、葉っぱを数枚落下させる。


「だいぶコントロールのコツが掴めてきたみたいだわね。町で冒険者とかやっていけそうね」


「そうかな?」

俺は頬を手でかいた。


「ノアは天才だとおもうぞ。誉め言葉じゃなくてな」

隣で見ていた、ハイムが口をひらいた。


「まあ、確かに、火、水、風、治癒魔法まで出来る人は稀でしょうね」


俺にはさっぱりわからない。

母は昔、名の知れた魔法使いだったらしく他の人より優秀なのだろう。

比較する他の人がいないから分かりようがないのだけど。


「とにかく!これでお仕事は出来るってことだね?」

俺は素直に喜んでいた。

出来ないよりできたほうがいいに決まっている。

「色々な人がいるから、能力を見せびらかさないほうがいいかもね」

母は他の事で心配をしているようだった。


夕暮れ時、何故か村の外に行ってみようと思った。

予感がしたのだ。

「こんな事初めてだな」

村を少し出て周囲を見渡す。

「魔物も最近はめっきり減ったっていうし、大丈夫だと思うけど」


俺はある塊に気が付いた。

遠くから見ても人のような気がする。

怪我して動けなくなっているのかもしれない。

慌てて、その人に駆け寄った。


「女性?」

金色の髪が土で汚れていた。

肌が青白い。

腰からぶら下がっている剣を見ると剣士なのだろうか。

俺より少し年上?

20歳位なのだろうか。

よく見ると、体には傷が複数あり血が流れていた。


「た、大変だ!治療しないと!」

俺は意識を集中して手のひらを傷口にかざす。

手から出た淡い光は女性の傷口を癒していった。


****


「大丈夫ですか?」


「・・え?」

女性が目を覚ました。

あれから女性を家に運び込んで寝かせておいた。

俺が、女性を抱えた姿を見た両親は慌てていたが、事情を話すと快く了解してくれた。


「村の外で倒れていて、早く気が付いてよかったです」

人を助けられた安心感でほっとした。

(俺の魔法は役に立つんだ)

少し自信が付いた気がした。

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