第6話

***


 この曲が、あの夏の夜に出逢った少年に届きますように……


 私がありったけの想いを乗せた音の粒たちは、天空に導かれるように、きらきらと輝きながら、ホールを夏の夜空へと変えた。


―― 『星の夜』 C.ドビュッシー作


 この曲は、ドビュッシーが16歳の時に歌曲用に作った曲を、私が、ピアノソロ用に編曲した曲だ。


 私は、音大を卒業してから、病院や介護施設などの慰問コンサートを中心に、ピアニストとして音楽活動をしている。幼い頃から憧れ、敬愛し続けている、超一流のピアニスト、マルタ・アルゲリッチとは、比べ物にならないくらい凡庸な二流のピアニストだけれども、私は、あの夜、少年に託された……いや、少年が思い出させてくれた、本来の私の夢を叶えるために、ピアノを弾き続けている。


 暫しの静寂の後、会場からは、割れんばかりの拍手が鳴り響いた。


 私は、ゆっくりと立ち上がり、グランドピアノに左手を優しく添えながら、私のピアノを聴きに来てくださったお客様に感謝の気持ちを込めてお辞儀をした。顔を上げ、ホール全体を見渡すと、皆、蕾がほころぶような笑顔を浮かべていた。あの夏の夜、月見草たちが、光に導かれ花を咲かせたかのように……

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