第4話

「ぼくね……ピアノ大好きなんだけど……弾けなくなっちゃったんだ」


「どういうこと?」


 少年は、寂しそうに微笑むだけで、私の質問には答えてくれなかった。


「ぼくね、毎日、ここの丘の上から、“街の音”を聴いているんだ」


「毎日? おうちはないの?」


「うん……今はね、ここが、ぼくのおうち」


「そう……」


 おかしなことを言う子だと思ったけれど、少年を問い質すことはしなかった。“おかしい”のはお互い様だという、妙な親近感が少年に対して芽生えはじめていたからだ。


「ここにいると、ぼくは退屈しないんだ。ねこの鳴き声、人々の笑い声、トーストが焼ける音、よっぱらいのおじさんの鼻唄……聴いているだけで、楽しくなっちゃう」


「でも、楽しい音だけじゃないでしょう?」


「うん……」


「そんな時はどうするの?」


「こうするの!」


 少年は、年齢に見合わぬ大きな両手で両耳を塞いで、体育座りをし、膝の間に小さな頭を埋めた。


「それは良いね……世界中から、悲しい音が無くなったらいいのにね」


「うん! ぼくの夢はね、ぼくのピアノで、皆を笑顔にすることんだ」

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