1年目:8月

cp24 [近衛隊改正案]①


 街に住む殆どの人が夕食を終え、歯みがきも終えたであろう時間帯。

 夜勤がメインの第二近衛隊員達がパトロールに出向いたのを見計らって、誰もいない駐屯地で合流したお騒がせ隊長ペア。2人はこっそりというか堂々というか、朝の事件の報告会を開いていた。

「つまり、あのパソコンはあの犯人が作ったもんじゃないってことか?」

 小太郎の分までパトロールと報告書の製作を終えた義希が、夜勤の倫祐が作ってきてくれた弁当を貪りながら問い掛ける。

「そう。誰かから送られて来たものだとよ」

 対して小太郎は、食べ損ねた昼の弁当をつつきながら、ため息混じりに尋問などから得た情報を話して聞かせた。

 への字に曲がった小太郎の口から出た言葉に、えのきの豚バラ巻きを飲み込んだ義希が問い返す。

「誰かって…誰?」

 間の抜けたそれに、小太郎は先程より数倍は大きなため息を吐いてから身を乗り出して答えた。

「それがよぉ、あの男も知らねえっつーんだわ」

「知らない?」

「そ。知らん奴から送られて来たって」

「そんなことあんの?」

「そりゃあ、きちんと調べてみねえとなんとも」

「沢也がそう言ってた?」

「あいつはただ、あり得ないことではねえって」

「じゃあ、あり得るってことじゃん」

 義希にしては深読みして、弾き出された答えに小太郎の顔が渋くなる。ハート型に敷き詰められたピンクのデンブの回りを切り崩しながら、彼は不貞腐れたように言い分けた。

「…でもよお…腑に落ちねえんだわ」

「なにが?」

「ん?動機がな」

「動機?なんだったん?」

「近衛隊への恨み」

「…まじか」

「まぁ、そっちも掘り下げねえと詳しいことまではわかんねえけど。とにかくよ、そうやって危ない考え持ってる奴に、ピンポイントで爆弾が送られてくる…しかも使ってください、って。ご丁寧に説明書つきで」

「見つかったん?その説明書」

「まだだ。でもあの男はそう言ってやがる」

「うぬぬ…それはまぁ…確かに…」

「今の段階じゃなんとも言えんがなぁ…」

 揃って唸り、纏まらない考えを切り上げた後。食料をかっ込んで味わいながら、義希は小太郎の鼻先に指を向け、新たな考えを口にする。

「とにかくさ、もしかしたら他にもそーいう恨みを持ってる奴がいるかもしんねえってこと?」

「そうとは限らねえけどよぉ、まあ注意しとくに越したことはねえかもな…だがしかし」

「…今のまんまじゃ無理かなぁ…」

「だねぇ」

 重いため息の最後にくっついてきた声に、二人の目が丸くなる。揃って振り向くと、ドアの隙間から定一の顔半分だけが覗いていた。

「いっさん!」

「盗み聞きすんなし」

 二人の抗議を受けて入室した彼は、悪びれもなく言ってのける。

「だってこんなとこで話してちゃあ…こっちはいつまで経っても入れないだろうー?」

「うぁ…ごめんごめん、まさか戻ってくる人がいるとは…」

「そーだぞ。てかいっさん朝番じゃん!こんな時間になんだってんだ」

「いやあ、この時間ならいるだろうと思って」

「確信犯じゃねえか!」

 小太郎のツッコミを笑って流し、適当な椅子を引いて腰かける定一に、義希は嬉しそうに言った。

「でも珍しいなぁ?いっさんが事件のこと気にするなんて」

「悪いけど、そこじゃないんだなぁ」

 ふぁぁあぁ、と。大きな欠伸の合間を二人の瞬きが埋める。定一はそのまま眠そうに、目尻に欠伸涙を溜めたままふにゃりと笑った。

「僕はね。平和主義者なの」

 事務椅子の背もたれに両腕を起き、今にも寝てしまいそうな体勢の彼を見て、小太郎が呆れた声を出す。

「自分で言うかよ…それを」

「まぁ聞いておくれって。それでさ、今の隊の状況…正直凄くめんどくさいんだよねぇ」

「どこの本隊長だよ!」

「おや、あの人にもそんな一面があるのか」

「そうそう、口を開けばめんどくさいってな」

「それはなかなか面白い情報だと感心したいところだし…喋るんだなぁなんてツッコミも入れたいところなんだけど…今はその話は横に置いといて」

 二人が無意識のうちに某無口さんの話題にすり替えようとするのを軽く阻止して、定一はやる気なく、しかし真面目な調子で問い掛けた。

「隊員があんな感じだと、いづらいんだよね。分かる?」

「おれ様は寧ろいっさんの場合、カモフラージュになって喜んでるもんだと思ってたぜ」

「それは心外だなぁ。いいかい?やる気のない人間ってのは、集団の中に一人や二人いればいいんだよ。みんながみんな怠けていたら、僕の怠けどころがなくなってしまうだろう?」

「いやいや…言ってることはわかるけど、そもそも怠けんなって話をだなぁ…」

「わっかんないかなぁ…僕は僕に出来ることはちゃーんとやってるよ?その中でいかに怠けるか。これこそが怠け者の美学ってやつでだねぇ…」

「あー、わーったわーった!分かったから!」

「本当に分かってるのかねぇ…小太郎くんは」

「まあ、確かにいっさんはちゃんとやってくれてるよな。パトロールサボったり、報告書投げたりしないし」

「そうそう。寧ろ最近は他の奴等が怠けているせいで、やらなくていい仕事までやってるくらいだよ」

 義希のフォローに頷いて、欠伸で一息置いた定一は更に話を続ける。

「だからね、いつまでもこの調子が続くようなら…もっと平和な部署に移動しようと思ってるのさ」

 あまりにも平然と言うので、一瞬聞き流しそうになりながらも。二人は一拍置いてぎょっとする。

「な…」

「ちょ…!困る、困るって!いっさんが抜けたら色々と困るから!」

 慌てて腕を掴んだ義希から引き気味に、定一は困ったようで嬉しそうな顔をした。

「おや、隊長の中での僕の評価は意外と高いみたいだねぇ」

「当たり前じゃんか!なんていうか、こう…バランスって大事じゃん?なぁ小太郎!」

「まぁ…確かに、お前んとこは生きる弾丸みてえな奴が多いからなぁ」

「変わった部下ばっかな小太郎に言われたくないけど…まあ、そゆこと。いっさんみたいに一歩引いて見ててくれるような人がいないとさぁ…」

「それはほら、圓くんに任せようかなぁと」

 定一の発言に二人が動きを止める。事件の後の圓の様子を思い出し、義希は短く唸って腕を組んだ。

「それは…まぁ、悪くないにしても…戦力的にも不安だしさぁ…」

「それなら言う事は一つ」

 定一は崩れた体勢をやる気なく直すと、適当に人差し指を立てる。集まった視線を交互に確認し、若干の威圧を含む発言をした。

「この状況、いい加減なんとかしておくれ?」

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