cp03 [File1”第3倉庫”]①
城下町を走る長い長い大通り。
建物が形成する道の丁度真ん中辺りに、星の数ほどある中でも一際細い小路がある。
メインストリートに面しているにも関わらず人目に付きにくい路地を進むと、両脇に聳える壁の左側に古びた扉がある。深緑色をした戸板の中央、目線の高さに下げられた木造の札が、当たり前のように傾いたまま名称を提示していた。
「近衛隊駐屯地」
その名の通り近衛隊に貸し出されたその場所は、現在国の管理下にある。
区画整備の際どうしても生まれてしまった、細い路地に面した部屋や建物。人目につかない=犯罪に使われやすいという理由から国が買い取り、管理している。その為、駐屯地も必然的にこのような場所になってしまったのだ。なお、階段は表通りの目立つ位置にあるので、上階は店舗や事務所として貸し出されている。
駐屯地の中身はというと、数年前まで某大臣が住んでいたセンターサークルのアパートに似た、それなりの広さを誇る長方形の部屋だが。その現状は、男所帯ならではの殺風景に加え、足の踏み場もないほどに散らかされていた。
煉瓦剥き出しの壁、板張りの床、吊るされた電球。部屋自体はそう悪くはない造りなのに、無造作に置かれた書類の束や、引きちぎられた茶封筒、中身の無いカップメンやコーヒー缶などなど。売れない探偵事務所のような乱雑さが、殺伐とした印象を与えるのだろうか。
そもそも駐屯地は隊員達の待機、及び休憩所として用意されたもので、休む以外にすることは報告書の制作くらい。町人からの依頼も全てを機械化している為来客自体が珍しかった。
そこそこ平和な街を巡回するだけの毎日。駐屯地は、今や暇を持て余した隊員のだらけ場になっているというわけだ。室内が散らかったまま放置されているのは怠惰が招いた結果である。
そんなどうしようもない現状を打開しようと、事務所の片隅で無い脳ミソを捻っていた第二近衛隊長こと小太郎は、いつの間にやらうたた寝の罠に嵌まってしまっていた。
部屋の隅といっても寛げるスペースは少なく、現在彼は駐屯所の端、ガラスで仕切られブラインドをかけられた小さな部屋にいる。駐屯所全体を羊羮に例えるなら、ほんの一人分切り取られたような空間だ。元から置かれていたソファやテーブルは高級そうだが、現在は残念なことに喫煙所兼仮眠室になっている。
換気不十分な扉の内側でソファに身を預けていた小太郎は、鳴り響く耳障りな音で現実に引き戻される。無理矢理開いた眠気眼を擦り、咥えたままだった煙草を弄びながら、ぼんやりと天井を眺めた。ローテーブルには吸い殻が詰まった巨大な灰皿、温くなった缶コーヒー、そして携帯電話。
隣の部屋では未だ黒電話が着信を知らせているが、誰も取る気配がない。そもそも、自分以外に誰か居たっけか?
思い直した小太郎が渋々体を起こすと、諦めたように電話が鳴り止んだ。彼がため息まじりに髪をかき上げ、テーブルの上の携帯を見ると、ランプの点滅が着信アリと知らせている。
「やっべ…結構寝てたみてえだな…」
手に取った端末の時刻を見て冷や汗を垂らした小太郎は、続けて着信履歴に連なる番号をタップした。
ワンコールもしないうちに繋がった通信。間髪入れずに会話を切り出したのは義希である。
「小太郎!?よかった、繋がって。今暇?暇だよな!?暇であってくれ」
「んぁあ?なんだよ、いきなし」
「いっさんがさ、例のふせいとりひき?の現場がどうのって、今見張ってるらしいんだ。オレも向かってるんだけど…」
「場所は?」
「第3倉庫!」
「りょーかい、すぐ向かうわ」
ソファから跳ね起き通信を切った小太郎は、腹にかけていたジャケットを羽織って、急ぎ気味に仮眠室のドアを開けた。
義希が言っていたふせいとりひき、漢字に直すと不正取引。
統治前には高価だったマジックアイテムも、開発が進んだ今は量産され、手に入りやすい品もでてきている。
モノがモノだけに、市場には国が認可したアイテムしか出回っていないが、不正に製造されたブツが裏世界で取引されており、大きな問題となっていた。
法律で「許可の無い、一般人の武器の所持を禁止」したこともあって、主に人に危害を加える魔法を込めた本や布、更には果物ナイフや包丁を剣や槍に変える物まで、攻撃特化の不正アイテムが数多く押収されている。
数日前に起きた事件でもこの手のアイテムが押収されており、製造元の割り出しを急かされていた。
マジックアイテムの製造には必ず希少な魔術師が関わる。押収したアイテムの偏った特色からしても、製造元は1箇所、多くて5箇所くらいだろうと、参謀兼大臣は分析しているようだ。
とにもかくにも、新しい効果…特に防御アイテムが開発、量産される前に大元を絶たなければ分が悪くなる。今回のミッションは必ず成功させなければ。小太郎は決意と共に目的地へと急ぐ。
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