第068話 イービル山とプルーの進化

 俺はイービル商人街を抜けてイービル山へとやってきた。暗めの紫色の葉をつけている木々と、薄く漂う黒い霧が陰気に見える主な原因だ。


 この黒い霧は調査の結果、無害だと分かっているけど、あまり吸い込みたいとは思わない。


 ただ、イービル山は何と言ってもこの辺りでも一番稼げる狩場だ。


 人気の狩場だけあって入り口の近くには数多くの傭兵たちが採集していたり、モンスターと戦ったりしていた。


 この辺りでは皆を外に出せそうにないので、先へと歩を進める。


 奥に進む途中で、成人男性程度の大きさの二足歩行のヤギのようなモンスターと戦うパーティを見かけた。


「あれがレッサーデーモンか」


 Cランクのモンスターで、ブラインドの魔法による目眩ましや、全体の防御力を低下させるディフェンスダウンを巧みに操って戦う。


 その能力ゆえに数匹で群れていることが多いはずだけど、もう倒してしまったのか、周りに仲間の存在は見られない。


「はぁああああっ!!」

「ファイヤートルネード!!」

「サンダーボルト!!」


 レッサーデーモンの攻撃を封じつつ、慣れた様子で戦っているところを見ると、ここを稼ぎ場にしているパーティなんだろうな。


 俺はそれ以上気にするのを止めて先へと進む。


 ただ、距離があり、ノワールの森を抜けなければいけないシルバー峡谷と違い、イービル山は行けども行けども傭兵の影が消えなかった。


 それだけここにきている傭兵たちが多いということだ。


 ヴェノムフライという空を飛ぶトンボのようなモンスターや、吸血コウモリと言った、イービル山でしか見かけないモンスターたちと戦う傭兵たちを見かける。


 俺たちも早く戦いたい。


「ここら辺ならいいか……」


 しかし、人が見えなくなるまで先に進んだ頃にはすっかり日が暮れてしまった。


 イービル山はかなり広大なので、この辺りでもまだまだ浅い区域だ。


 テイムモンスターを全員出して野営する。


 ここでは道中の休憩の時のように料理をするのは危険なので、買ってきていた料理を食べ、きちんと見張りを立てて交代しながら朝まで過ごす。


「キーッ!! キーッ!!」


 ただし、今回は野営中にモンスターに襲われた。


 その相手はCランクモンスター吸血コウモリの群れ。


「はぁああっ!!」


 起きていたメンバーに牽制させ、襲い掛かってきたところを俺が斬り裂いて止めをさしていき、数が少なくなった吸血コウモリは尻尾を巻いて逃げだした。


 俺たちは特に被害を受けることなく、夜襲を退けることができた。


 その後は朝まで襲撃もなく、休むことができた。


「リタ、守りの風!! ルナはアイスニードル!! アスラ、シャドウエナジー!!」


 次の日は人目を気にせずに皆に指示を出しながらモンスターを葬っていく。


 今ここにいるのは、リタ、ルナ、アスラの三体だけだ。


 この辺りだとちょっと皆を持て余し気味だったので、Cランクに進化したリリ、ポーラ、クロと、プルーは別行動で進化素材の採集をさせていた。


 4体いればまずこの辺りの敵に負けることはないはずだ。これでより効率的に素材を集めることができる。


 全員進化したら、3つに分けて探索してもいいかもしれない。


 その甲斐あって、数日探索すると、プルーの進化が始まった。


 ―――――――――――――

 個体名:プルー

 種族 :デバフスライム

 属性 :水、毒

 レベル:1/40

 ランク:C

 スキル:アクアレーザー

     ディープポイズン

     ハイスリープ

     パラライズ

 状態 :良好

 進化条件①▼

 進化条件②▼

 ―――――――――――――


 見た目は深い藍色のスライムへと変化した。それ以上の変化はない。


 ただ、ずっと見ていると、まるで底のない沼のように何処までも奥に続いていて、吸い込まれてしまいそうな恐怖を感じた。


 スキルの方が随分と変化して、アクアブレットがアクアレーザーに、ポイズンがディープポイズンに、スリープがハイスリープになった。


 アクアレーザーは水をまるで光線のように打ち出す魔法で、アクアブレットよりも格段に威力が増している。


 ディープポイズンはポイズンの上位互換で、より重い毒に侵され、耐性の低いものはそのまま死に至り、耐性が高い者でも身動きすらきつい状態に追い込むことができる。


 ハイスリープはスリープの上位互換で、より深い眠りに落とす魔法。耐性の低いものは何をしても起きないような深い眠りに誘われ、耐性のある者でもその睡魔に抗うことは難しい。


 そして、新たにパラライズの魔法を覚えた。パラライズは相手を麻痺させて身動きできなくする効果がある。


 耐性のある者は多少痺れる程度で、耐性の無い者は数分くらい体が痺れて動けなくなる。


 やはり特殊進化はかなり大きな変化をもたらしてくれるな。


 スキルを見る限り、プルーは相手を様々な状態異常に陥れて戦闘力を削ぐスペシャリストだと言っても過言ではない。


 今後の戦闘でも大きに役立ってくれると思う。


 俺たちは全員の進化素材を手に入れ、レベルを上げるため、しばらくイービル山で採集を行い、モンスターを討伐し続けた。

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