Cランクモンスターと後ろ盾

第063話 シルバー峡谷

 シルバー峡谷はノワールの森の北にある。


 両側を切り立った崖が挟み、その間をグラリス川が森を避けるように南東へと流れていた。


 季節に応じて山の景色が変わり、その時々の表情を見せ、両側の崖には先人たちが歩いた軌跡が道となり、その姿を残している。


 山側には豊富な資源と様々なモンスターが生息していて、美しい景色に目を奪われていると一瞬であの世行きになってしまうこともある。


「これは今日の分な」

「うむ」


 ノワールの森の北にあるということは、当然森の中を通っていく必要があるわけで、サーシャのところを訪れ、いつものように料理とお菓子を渡して歓談する。


「ほぅ。北の峡谷へのう」

「あぁ。そろそろ、いい頃合いだと思ってな」

「そうじゃのう。お主には加護も与えておるし、問題なかろう」


 そして、探索地を変える話をした。


 シルバー峡谷は、ノワールの森を通り抜けなければ到達できず、Cランクモンスターのみならず、奥地にはBランクモンスターが生息しているため危険度が高い。


 そのおかげで、そこで獲れる資源の価値はノワールの森とは比較にならないくらい高く、貰える報酬も増える。


 時間をかけて行って帰ってくるだけの価値がある。


 より沢山稼ぐためにはシルバー峡谷かイービル山で依頼を受ける必要があった。


「お主の仕事に同行できなくなるのは残念じゃのう」

「それは我慢してもらう他ないな」

「ワシの伴侶はいけずじゃの」

「誰が伴侶だ。誰が」


 サーシャは俺が森で仕事をする時についてきては一緒に戦ったり、アイテムを探したりしていた。


『ワシがもろうても意味がないじゃろ。料理とお菓子を持ってくるのじゃ』


 そう言ってサーシャの取り分は全て料理とお菓子に消えている。


 でも、峡谷に行ってしまったら、一緒に探索することはできなくなる。俺もずっと森でだけ仕事をしているわけにもいかないので、諦めてもらう他ない。


「まぁこうして来てくれるのであればそれでよい。端まで送ってやろう」

「いつもありがとう」

「気にするでない。こうしないと人間の足ではここまで来るのに時間が掛かってしまうからのう」


 森に入ると、草木が勝手に俺をサーシャのところに案内してくれるおかげで移動時間を短縮することができている。


 本来なら森を抜けるのに4日くらい掛かるけど、サーシャのおかげで数十分も掛からない。


 しなくてもいいと言っているんだけど、サーシャは俺の言葉も聞かずにやってしまう。その分も料理とお菓子で返すくらいしかできないのがもどかしい。


「それではまたの」

「ああ。また」


 いつかなんらかの形で返せたらいいなと思う。


 森の北の端で別れ、皆を育成牧場から出して山道に足を踏み入れる。徐々に標高が高くなり、川を見下ろす方になっていく。


 ある程度進んでいくと、人間の手では生み出すことができない、自然の織り成す景色に目を奪われる。


「これは景色に夢中になっている間に死ぬって言われるのも頷けるな」


 しかし、俺には7人も仲間がいる。


 そうそう不意打ちを受けることはない。


「来たか」


 そうこうしているうちに、モンスターの気配が背後から近づいてきた。


「グルルルルッ」


 それは黒い4足歩行の獣。猫をより大きくして獰猛にしたような姿をしているブラックパンサーと呼ばれるモンスターだ。


 Cランクに属していて、山のように足場が不安定な場所でも縦横無尽に駆け抜けて相手を翻弄する機動力を武器としている。


「グガァアアアッ!!」


 すぐに俺たちに襲い掛かってくるブラックパンサー。


 しかし、すでにCランクモンスターの動きは見慣れている。それどころか、たまにサーシャに手加減してもらって、皆で戦いを挑んでは返り討ちにされているので、むしろ遅く見えるくらいだ。


「はっ!!」

「ギャアアアァ……」


 ブラックパンサーは一撃で絶命した。


 どうやらここでも問題なく戦えそうだ。


 俺たちは依頼のアイテムを探しながら、本来の目的の進化に必要な素材を探し始めた。

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