第061話 おや、卵の様子が……
どういうことだ?
確か護衛依頼が終わったら、昇格試験の資格を手に入れられるって話だったはず。
「えっと……試験はどうなったんですか?」
「実はあの護衛依頼が試験みたいなものだったんです」
「え、そうだったんですか?」
恐る恐る尋ねると、思いがけない言葉が返ってきた。
寝耳に水とはこのことだろうか?
「はい。実績や人柄、戦闘能力はすでに申し分ないことが分かっていましたから。後は複数のパーティでの連携や、誰かを守るという状況下での行動などを見させていただきました。しかも今回はハーピィの群れと遭遇するという非常に危険なイレギュラーが起こったにもかかわらず、全員生還しています。そして、全員の報告からイクスさんの力が大きいことも分かっています。総合的に見て十分Cランクとして通用すると判断しました」
「いや、あれは皆がいたからで……」
「謙遜も行き過ぎればただの嫌味になりますよ?」
「そんなことは……」
俺が自分の力だけではないと主張しようとすると、受付嬢さんに釘を刺される。
そんなつもりはなかったけど、ずっと否定され続けていたせいか、自分の力を過小評価しすぎていたのかもしれない。
「自分の能力を客観的に評価できることもこれからも傭兵として生きていくのであれば、必要なことです。ギルドとしてはイクスさんの能力はすでにCランク上位に達しているとみています。そして、将来性はもっと高いと思っています。あまりご自分を卑下されないでくださいね」
まさかそこまで評価されているとは思わなかった。
考えてみれば、Dランクモンスターを5体、Eランクモンスターを1体、Gランクモンスターを1体、計7体ものモンスターをテイムしている人間は多くない。
その上、それらのモンスターをさらに進化させられて、SSランクのサーシャの加護までもらっているんだ。
確かにこれだけの力を持っていて謙遜すれば、嫌な顔をする人もいるだろうな。
これからはもっと自分の力をきちんと自覚していこうと思う。
「ありがとうございます。気を付けます」
受付嬢さんは嫌われるかもしれないのに苦言を呈してくれた。とてもいい人だ。
「いえ、私も差し出がましいことをいいました。申し訳ございません。それでは昇格手続きをしますので、カードを提出していただけますか?」
そして、手続きを終え、Cランク傭兵になった。
「Cランクになりますと、西のイービル山と北のシルバー峡谷に入ることができるようになります。ただし、奥にはBランクモンスターもチラホラ見かけられます。あまり深くまで入り込まないように気を付けてくださいね」
「分かりました」
これでようやく皆をCランクモンスターに進化させられる。
皆どんな進化をするのか楽しみだな。
「おーい、サーシャいるか?」
とはいえ、少し休みたいし、準備も必要だ。
数日は仕事を休みにするとして、まずはサーシャに帰還の報告にやってきた。
「おおっ。無事じゃったか。良かった良かった」
「お、おい、や、止め――ん、むぐぐっ」
サーシャは姿を現すなり、俺の頭を掻き抱く。俺はサーシャの豊満な胸の間に挟まれて息ができなくなる。
森に抱かれるような安らぐ香りと、女性特有の柔らかさ、そして、息苦しさが相まって俺は昇天しそうになる。
しかし、寸でのところで思いとどまり、俺はサーシャの腕をバシバシと叩いた。
「おお、すまぬな。お主が簡単にやられるわけがない分かっておったのじゃが、心配しておったのじゃ」
サーシャが少し恥ずかしそうに俺から離れると、ようやく俺は空気を肺に送り込むことができた。
危うく戻ってこれなくなるところだった。
「そうか。心配してくれてありがとうな。7日もいなかったから、もう料理とかお菓子はなくなっただろ?」
「うむ。1日で食べてしもうたわ」
「褒めてねぇよ。食べ過ぎだろ!!」
なぜか腕を組んでふんぞり返り、自慢げなサーシャ。
7日分だと思って保存の効く料理やお菓子を沢山買ってきたのに、それをまさかたった1日で食べ切るとは思わなかった。
人間がそんなに食べたら、病気になりそうだけど、サーシャはSSランクモンスター。問題はない……のか?
「人間の食べ物が美味いのが悪いのじゃ。ワシは悪くない!!」
つーんとそっぽを向くをサーシャ。
まぁ、本人が良いのなら大丈夫なんだろう。
「はぁ……分かったよ。ほら、今日の分だ」
「おっほーっ。待っておったのじゃ!!」
俺が諦めて育成牧場の倉庫から料理とお菓子を出してやると、不機嫌さが一瞬で吹き飛び、涎を垂らして目を輝かせる。
1万年以上生きているのに、まるで子供みたいだ。
それはもしかしたら、ドライアドになったばかりというのが影響しているのかもしれないな。
俺は従魔たちと戯れながら、サーシャとのひと時を楽しんだ。
「お兄ちゃん!! 大変だよ!!」
「ど、どうしたんだ、まさかまた母さんが!?」
「違うよ、早く来て!!」
家に帰るなり、アイリが慌てて走ってくる。
俺はまた良くないことが起こったのかと血の気が引いたけど、有無を言わさずアイリに腕を掴まれて、俺の部屋に連れていかれた。
――ピキッ
部屋に入ると、何かに罅が入るような音が耳をつついた。
「卵!! 卵が孵りそうなんだよ!!」
アイリの言葉に従って卵を見ると、表面に亀裂が入り、ガタガタと動いていた。
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