第060話 試験は?

 卵を人目につかない所で育成牧場の厩舎に預け、代わりにプルーを呼び出してリュックの中に入れておく。


 その後も色々物色しながら街を回り、宿へと帰り着いた。


「あ、おかえり。一緒にどう?」

「ああ。いただくよ」


 中に入ると、一階にある食堂兼酒場でエルたちがご飯を食べていて、俺を見るなり声を掛けてきた。


 俺は空いてる席に腰を下ろし、料理を注文する。皆お酒を飲んでいて顔を少し赤らめていた。


 まだ依頼は終わっていないけど、いいんだろうか。


「前回に引き続き、今回も本当にありがとう」

「マジだぜ。イクスがいなかったら、この依頼も相当危なかった。本当に助かった」

「はい。イクスさんがいなければ、今頃全員あの世でした」


 俺の心配をよそに皆が俺に頭を下げる。


 その行為が周囲の視線を集めた。


「ちょっと止めてくれ。一緒に依頼を受けて生き残った。それでいいじゃないか?」


 恥ずかしくなって頭を上げさせる。


「それでは、私たちの気が済みません。せめて食事くらい奢らせてください」

「はぁ……分かったよ」


 3人から絶対譲らないという強い意志を感じ、諦めて奢られることにした。


 クリスが奢るだなんて明日は槍でも降るのかもしれない。


 程よくお酒を飲んで食事を楽しんだ後、俺たちは明日に向けて早めに就寝した。


「それでは帰りもよろしくお願いします」

「任せてください」


 翌朝、俺たちは街を出発した。


 2日目に人喰い峠に差し掛かると全員に緊張が走る。


『……』


 全員無言で周囲を警戒しながら峠を登っていく。


 しかし、結果から言うと何もなかった。ハーピィたちは別のところに行ったまま帰って来なかったらしい。


 あれだけ手痛い反撃を受ければそれも当然か。


 それから散発的なモンスターの襲撃以外何も起こらないまま俺たちは辺境の街へと帰り着いた。


「それじゃあ、またね」

「今度こそ手合わせしろよ」

「今度は必ず恩を返しますので」


 傭兵ギルドで依頼の完了報告を行い、皆と別れて家に帰る。


「おっと、今はこっちだったな」


 一瞬、元の家の方に帰ろうとしてしまった。


 新しい家に引っ越したのに、なかなか慣れない。


「プーッ!!」

「ニャーッ!!」


 家の中に入るなり、ポーラとクロロが俺に飛び掛かってきて、頭を擦り付けたり、頬をぺろぺろと舐めたりする。


 ははははっ。7日間会ってなかったからな。こんなに長い期間離れることは今までなかった。寂しかったんだろう。


「もう2人ともどこに――あっ、お兄ちゃん!!」


 そこに後を追ってきたアイリがやってきて俺に気付き、抱き着いてきた。ポーラたちと同じように頭を擦り付けてくる。


 俺はようやく帰ってきたという気持ちになった。


「ほら、皆離れてくれ。お土産を渡すからな」


 アイリたちを体から離れさせ、皆にアルベスタで買ったお土産を渡す。


「2人にはこれ。アイリにはこれな」


 ポーラとクロロにはこっちで見かけなかった野菜と魚。アイリには似合いそうな髪飾りを買ってきた。


「プププーッ!!」

「ニャオーンッ!!」


 2人はそれを見て興奮して飛び跳ねる。


「お兄ちゃん付けて」

「はいはい」


 お願いを聞いて髪飾りを付けてやった。


「どう?」


 アイリは俺から離れてクルリとターンする。


「ああ。似合ってるぞ。天使みたいだ」

「わぁーい!! ありがとね、お兄ちゃん!!」


 アイリはそこだけ明かりが灯ったかように明るい笑みを見せた。


 あぁ……うちの妹は可愛いな。


「騒がしいと思ったら帰ってきてたのね。おかえりなさい、イクス」


 育成牧場から皆も外に出して戯れていると、母さんもやってくる。


「ただいま、母さん」

「無事で何より。お腹減ってない?」

「もうペコペコだよ」

「それならまずは食事にしましょう」

「了解」


 アイリと母さんは俺の依頼の話を聞きながら楽しそうに笑う。


 俺は久しぶりの家族そろっての食事に心から安らぎを感じた。

 

「今日は一緒に寝るからね!!」

「はいはい、分かったよ」


 アイリも寂しかったのか、夜俺の部屋にやってくる。


「あっ、忘れてた」

「ん? どうしたの?」

「ちょっと待ってくれ」


 俺はテーブルの上に分厚いクッションを敷き、その上に卵を置いた。


「卵?」

「あぁ、モンスターの卵だ」

「え、また拾ってきたの!?」


 アイリは少し呆れたような顔で驚く。


「またとは失敬な」


 まだたったの6匹じゃないか。家も広くなったし、これくらい問題ないはず。


 そう思ったのは束の間。


「少しは考えてよね!! お兄ちゃんの自由にさせてたら、この家もパンパンになっちゃうよ!!」

「分かった、分かったって……」


 がみがみと説教してくるアイリにタジタジになりながら平謝りするしかなかった。



 次の日。


 俺はいつものように傭兵ギルドにやってきた。


「こんにちは。この依頼をお願いします」

「あ、イクスさん、こんにちは。その依頼は受理させていただきますが、その前に重大な発表があります」

「な、なんですか……?」


 依頼書を取って受付嬢の所に持っていくと、急に真剣な表情をされて息をのむ。


 それからどれだけ待っただろうか。


 何を言われるか分からず、心臓がバクバクと大きな音を鳴らす。


 そして、ものすごく溜めた後で受付嬢はこう言った。


「イクスさんは、Cランクに昇格しました。おめでとうございます!!」

「へ?」

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