第059話 従魔師イクスは見えている
「チィイイイイイッ!!」
「ピィイイイイイッ!!」
リリとプルーがハーピィに向かって一気に飛び出した。
プルーが体にしっかりと固定されていることで、飛ぶのに支障はなさそうだ。
「ピュイイイイッ!!」
自分たちの領域に侵入してきた2人にハーピィが襲い掛かる。
「チッ!!」
「ピピッ!!」
リリが口からファイヤーブレスを吐いて牽制し、プルーがポイズンショットを打ち出した。
「ピュワッ!?」
見た目はリリ一体にしか見えないので、全く予想外の攻撃にハーピィは驚き、そのまま攻撃を受けた。
その瞬間、顔が真っ青になり、毒によって体調が悪くなったせいで飛べなくなって地面に落下する。
高所から落下したハーピィは頭から激突して、そのまま絶命した。
効果は抜群だ!!
思った以上の成果に嬉しくなる。
「チッチッチッチッチッチッチッチッ」
「ピッピッピッピッピッピッピッピッ」
驚きで固まったハーピィたちの間を2人が通り抜ける。
リリのファイヤーボールと、プルーのポイズンショットとスリープによって、ハーピィはどんどん地面に落下していく。
下ではチャコ、キース、カロンが待ち構え、確実に仕留めていた。
「ピュイイイイッ」
その光景を見ていたリーダーは2人を止めるため、より多くの仲間を向かわせる。
「させないわよ!!」
「そうはいくか!!」
「クゥッ!!」
邪魔をさせないようにエルが矢を放ち、俺とルナが魔法を撃って進路を塞ぎ、リリとプルーに辿り着くのを遅らせた。
その間にリリとプルーはハーピィに次々と襲い掛かって撃墜していく。
気づけば、すでに半分近くのハーピィが2人の合体攻撃にやられてしまっていた。
地上の獲物だけに集中できなくなったハーピィたちは脆い。
リーダーがリリたちと俺たちどちらに集中するか迷い、統率がとれなくなって俺たちの魔法も当たるようになった。
どんどん地面に墜落してくる。
ここまでくれば危機的な状況は脱したと言ってもいいだろう。
「リリ、プルー!! アイツを倒せ!!」
「チィイイイイッ!!」
「ピィイイイイッ!!」
最後の仕上げにリーダーを始末させる。
「ピュロロロロ!!」
迫りくる2人を見て、リーダー個体が逃げようと振り返った。しかし、強化魔法と鼓舞によって引き上げられたリリのスピードからは逃げられない。
「ピッ、ピッ!!」
あっさり距離を詰められてプルーの毒と睡眠のダブルコンボで撃沈した。
リーダーを失ったハーピィは烏合の衆。
恐れをなした彼らは俺たちから散り散りになって逃げ出した。
「チィッ!!」
「ピィッ!!」
「深追いはしなくていいぞ!!」
リリとプルーはその後を追いかけようとするも、俺は2人を呼び止める。
今回は俺たちはあくまで護衛。一番大事なのはペドロさんの身の安全と依頼を達成することだ。モンスターを殲滅することが目的じゃない。護衛を手薄にしてまでやる必要はない。
そういう仕事は騎士団に任せよう。
2人が俺の許に降りてくる。
掲げた腕に留まるリリ。
「2人ともありがとな。お手柄だったぞ」
「チィッ!!」
「ピピピィッ!!」
俺が2人を撫でると嬉しそうに鳴き声を上げた。
「皆お疲れ」
「ええ、どうにか死なずに済んだわね」
「本当に。あれだけのハーピィに取り囲まれた時は死を覚悟しました」
「俺も飛行モンスター相手じゃ役立たずだから悔しいぜ」
皆の許に戻り、声をかけると、それぞれ安堵した表情で返事をする。
そして、誰もリリ以外の従魔のことを話題に出さない。隠していたということは探られたくないってこと。傭兵の能力や過去を探るのはご法度。それを律儀に守る彼らには頭が上がらない。
「ペドロさん、安心してください。ハーピィは撃退しましたよ」
エルがしゃがんでへたり込んでいるペドロさんに声を掛けた。
「あ、ありがとうございます。あなた方のおかげで命拾いしました……」
「うふふっ。まだ依頼は終わってませんよ」
「あはははっ。そうでしたね」
すでに依頼が終わったかのように話すペドロさんにエルが突っ込むと、彼は恥ずかしそうにはにかんで頭を掻いた。
その後は大きな事件もなく、目的地の街にたどり着くことができた。
道中、ペドロさんが興味津々といった表情で俺の力を根掘り葉掘り聞こうとしてきたけど、適当に誤魔化しておいた。
「それでは明日の朝出発しますのでそれまでは自由にしていてください」
「分かりました」
宿で一時的に自由の身になった俺たち。
「皆はどうするんだ?」
「流石にあの戦いの後だもの。ゆっくり休むわ」
「俺もだ」
「私もです」
全員の精神的な疲労が大きかったらしく、全員自室で休むことを選ぶ。
「イクスは?」
「俺は少しこの街を見て回るよ」
「分かったわ。気を付けて出かけてきてね、まだ依頼はおわってないんだから」
「了解」
釘を刺されつつ、俺は街に繰り出した。
故郷と王都以外はろくに見て回ったことないけど、この街アルベスタは交通の要所になっていることで、そこそこ賑わっている。
「そこのお兄さん、ちょっと見ていきませんか?」
適当に出店を冷かしつつ、見て回っていると一人の男に声を掛けられた。
「なんですか?」
「モンスターの卵くじをしているんですよ。一回銀貨50枚。いかがですか?」
話を聞くと、彼の店に並んでいる卵は全てモンスターの卵で、最高でCランクモンスターの卵があるらしい。
何が当たるかは生まれてからのお楽しみ。
卵から育てれば懐くモンスターもいるけど、テイムできるかはその人の容量次第だし、気性の荒いモンスターは危険だ。
なかなか面白い商売だけど、よくもまぁやろうと思ったな。物凄く高いし。
「それじゃあ一回選ばせてもらおうかな」
「おおっ!! 本当ですか!! ありがとうございます」
話に乗ると、男は嬉しそうに笑う。
「それじゃあ、俺はこの卵にします」
俺は銀貨50枚を支払って一つの卵を選んだ。
この男は俺を上手く騙せたと思っているかもしれない。
でも、俺はそうは思わない。
―――――――――――――
個体名 :なし
種族 :クロトカゲ
属性 :なし
レベル :0/5
ランク :G
スキル :なし
状態 :卵
弱点 :強い衝撃
潜在ランク:SSS
―――――――――――――
だって俺には見えていたから。
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