第057話 決断

 上空で3匹のハーピィが旋回している。


 寝ているところを襲われたらひとたまりもない。皆が準備を整えるまで時間を稼ぐ必要がある。


「リリ、ハーピィを引き付けてくれ」

「チィッ!!」


 リリが指示に従って飛び上がり、ハーピィたちを追いかけ回す。


 スピードも小回りもリリに軍配が上がり、ハーピィたちは戸惑い、空中で右往左往して動きを止めた。


 よし、今だ!!


「エル、キース、クリス、起きてるか!!」


 その隙にエルたちが休むテントに近づいてもう一度呼びかける。


「わりぃ、すぐに行く!!」

「あと少しだけ待って!!」

「私ももう少しです!!」


 全員からの返事が聞こえた。


 これならそう時間の掛からないうちに来てくれるだろう。


「了解!! カロンとチャコはペドロさんを守ってくれ」

「ガァッ」

「ウォンッ」


 俺は従魔に指示を出してリリの援護に戻った。


「ファイヤーボール!!」


 複数の火球を連続で飛ばし、ハーピィの動きを制限する。


「チチッ!!」

「ピュイイイイッ!!」


 その間に近づいていたリリがファイヤーブレスを放ち、間近で受けたハーピィが燃え上がって地上に落下する。


「はぁっ!!」


 俺は剣を抜き、地面に落ちたハーピィに駆け寄って止めを刺した。


 これで後2匹。


「ピュイイッ!!」


 仲間が殺されたのを見て1匹のハーピィが俺に襲い掛かってくる。


「ふっ!!」

「ピュイィ……」


 向かって来てくれるなら楽なもの。俺はそのハーピィを真っ二つに斬り裂いた。


 後1匹。


 これなら皆が来る前に終わるかもしれない。


 しかし、俺の楽観的な予想はすぐに外れることになった。


「ピィイイイイヒョロロロロッ」


 最後に残ったハーピィが、ひと際大きな声で誰かに呼びかけるような声を上げる。


 ――ピィイイイイヒョロロロロッ

 ――ピィイイイイヒョロロロロッ

 ――ピィイイイイヒョロロロロッ


 すると、どこからともなく幾つものハーピィの声が木霊した。


「ちっ。群れか!!」


 どうやら今回この峠に棲みついたモンスターはハーピィの群れだったらしい。


 山に棲みつくモンスターは数あれど、最悪な部類だ。


 ハーピィはDランクのモンスターだけど、リリと同様に開けた場所では無類の強さを発揮する。Cランク――いや、攻撃を当てるのが難しいことを考えれば、それ以上に厄介な相手だ。


 数十匹の影が空に浮かび上がり、こちらに向かってくるのを捉えた。


「わりぃ、遅くなった!!」

「お待たせ」

「すみません、遅くなりました」


 ちょうどその時、皆が集まってくる。


「聞いてくれ。ハーピィの群れがこっちに向かってくる。おそらく逃げられそうにない。すぐにペドロさんを起こして迎撃態勢を整えるぞ」


 俺だけならまだしも、誰かを守りながら数十匹のハーピィと戦うのは自殺行為だ。本来なら全員で逃げたい。しかし、空を飛ぶ彼らから逃げるのは難しい。


 戦う以外の選択肢はない。


 俺の言葉を聞いたエルたちは険しい顔つきになった。


 かなり危険な状況だと理解したようだ。


 俺たちは急いでペドロさんを起こす。


「ど、どうしたんですか!?」


 急に起こされて気が動転しているペドロさん。


「ハーピィの群れです。荷台で身を低くして隠れていてください」

「ハーピィ……」


 ペドロさんはハーピィの群れと聞いて顔を真っ青にした。


 彼もここでハーピィと出会ってしまった意味を理解したのだろう。通常こんな場所でハーピィの群れと遭遇したら命はない。当然の反応だと思う。


 俺たちは荷台周りを取り囲むように布陣する。


 その頃には上空がハーピィの群れに包囲されていた。その数50以上。


 クリスとラッキーが戦えないことを考えると、実質6対50以上だ。


 かなり分が悪い。


「パワーアップ、ディフェンスアップ、スピードアップ、マジックアップ、シャープエッジ、ハードアーマー」


 クリスがラッキーと分担して準備をしていた強化魔法を俺たちに掛ける。


 以前よりも能力が上昇する幅が大きくなっているように感じた。彼らも会わない間に色んな依頼をこなして強くなったんだろうな。


 これだけ強化されれば、大分マシだ。


「ピュイイイイッ」


 リーダーらしき個体が鳴くと、奴らは俺たちに向かって急降下してくる。


「しゃらくせぇえええっ!!」

「はぁああああっ!!」

「せいっ!!」


 近接戦闘なら俺たちの方が上だ。近づいてきた個体はキースとエル、俺の攻撃によって落下し、従魔たちが追撃することで絶命する。


 何度か同じ光景が繰り返された。


「ピュイイイイッ」


 それを見たハーピィは戦い方を変える。


 数匹で一直線に襲い掛かるのではなく、多くの個体が距離を保ちながら、的を絞らせないようにして、隙をついては攻撃を仕掛けてくるようになった。


「うざってぇっ!!」

「くっ」


 攻撃が当たらないキースが苛立ち、近すぎて矢を撃つ隙がなくなったエルが顔を歪めた。


 リリもあの数が相手では厳しい。


 浅いながらも俺たちは傷を増やし、徐々に窮地に追い込まれていく。


 クリスも顔を強張らせながら強化魔法を切らさないようにいつでも発動可能な状態を保ち、ペドロさんは蹲って頭を抱えて震えていた。


「……」


 このままじゃジリ貧だ。どうにかしないといけない。


 ここがノワールの森ならサーシャの力を借りてどうにかできたと思う。しかし、ここにサーシャはいない。


 仕方ない……命には代えられない。


 ここで俺は決断した。


「召喚」


 隠していた従魔を全員呼び出し、全ての能力を使うことを。

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