第056話 勧誘と峠越え

 街までの距離を変更しました。


■■■


 次の日、通り道にある村に立ち寄って物資の調達を行う。


 村の中では一時的に自由行動。


「また……に……」

「こないだ……じゃない……」

「しばらく……にないな……」


 見て回っていると、村の住民たちが不安そうに何やら話している姿を見かけた。


 詳しくは聞こえなかったけど、何かあったたんだろうか。


 少し気になりながらも集合場所に戻った。


「今日は峠越えだから気を引き締めてね」

「どうかしたのか?」

「うん」


 どうやらこの先にある峠にはモンスターが棲みつく峠として有名で、よく犠牲者が出るらしい。


 そのせいか人喰い峠と呼ばれている。


 定期的に騎士団が掃討にくるものの、少し経つとまたいつの間にか別のモンスターが棲みついているという、いたちごっこを繰り返しているとのこと。


 テイマー学院から帰ってくる際も通ったはずだけど、特に何も起こらなかった。時期がよかったのかもしれない。


「なかなか厄介な場所だな」

「そうね。でも、ほんの少し前に騎士団の巡回があったみたいだから大丈夫だと思う。念のため頭の片隅に入れておいて」

「分かった」


 騎士団が来たのなら大丈夫だろうけど、一応覚えておこう。


 補給を終えた俺たちは村を出発した。


「そっち行ったわよ!!」

「任せろ!!」


 普段は口喧嘩ばかりのエルとキースも戦闘時は息ピッタリ。


 俺たちは待ち伏せしていたモンスターをあっという間に処理する。


「やっぱり飛行型のモンスターがいると楽ね」

「絶対とは言えないけど、空からの視界がある場所ならほぼ先手を取れるからな」

「オーク討伐の後、皆でもう一度テイム試したんだけど駄目だったのよね……」


 戦闘が終わった後、エルが残念そうに呟いた。


 その辺りは完全に素質になってくるから難しい。


 モンスターをテイムする容量は、成長に伴って20歳くらいまで増えると言われている。でも、その増える量もまちまちだ。


「ねぇ、イクス。いっそのこと、私たちのパーティに入らない?」

「……」


 唐突な勧誘に俺は丸くする。


 学院時代、誰からも蔑まされてきた俺にとってその誘いは正直言って嬉しい。


 でも、俺には大きな秘密がある。代理契約のことはのちのち話すとしても、それ以外にも言えないことや見せられないものが多い。


 それを考えると、今は1人で活動するのが最善だった。


「ありがとう。誘ってくれて嬉しい。でも、悪いけど、しばらくは1人でやっていくつもりなんだ」

「そっか。分かったわ。気が変わったら言ってよね。私たちはいつでも歓迎するから」


 キースとクリスもエルの言葉に頷く。


「あぁ、その時は頼むよ」


 エルたちは本当に良いやつらだ。


 もし、他人の力が必要になったら、真っ先に声を掛けようと思う。


「そういえば、イクス。お前、オーク討伐の時よりも相当強くなってないか?」

「話せば長くなるけど、数カ月の間に色々あってな」


 キースが雰囲気を変えるため、思い出したように尋ねてくる。


 リリたちが進化したことや、ドライアドに加護を貰ったことを今ここで話す訳にも行かないので話を濁す。


「ふーん。まぁいいや。あっちの街についたら手合わせしてくれよな」

「分かったよ」


 察してくれたのか、それ以上追及してくることはなかった。


「峠に入るよ。警戒を怠らないで!!」

「「「了解!!」」」


 数時間後、俺たちは遂に峠道に差し掛かった。


 エルの言葉で、より一層気を引き締めて周りを警戒する。


「何もなかったな」

「そうね。でも、峠を抜けるまでは気を抜いちゃダメよ」

「そうだな」


 しかし、拍子抜けと言うべきか、頂上付近の休憩場所までモンスターに襲われることはなかった。


 今日はここで野営することになる。


「それでは私は休ませていただきますね?」

「はい、警備は任せてください」

「よろしくお願いします」


 保存食の辛い時間を終え、ペドロさんは馬車の荷台で眠りについた。


 俺たちは従魔とともに1人ずつ交代で見張りをする。


 順番は、エル、キース、俺、クリスの順番となった。後で眠くならないようにすぐに横になる。


「おい、イクス、起きてくれ」

「……交代か。了解」


 キースに起こされて見張りを交代する。


 リリと戯れつつ、周囲を警戒しながら過ごす。


 特に何も起こらないまま時間が過ぎていく。


 もうすぐ交代の時間になるけど、周りにモンスターの気配は感じない。


 俺はふと空を見上げた。


「ふぅ、綺麗だな」

「チィ」


 今日は天気が良く、空にはまんまるの月が輝いている。そのおかげで視界が開けている。


「ん? なんだ?」


 少し気を抜いて月を眺めていると、何かが視界を横切って月の光が一瞬遮られた。


 俺はその影を追い、目を凝らす。


 今の俺は見ようと思えば、夜でもある程度遠くまで見通せる。


「あれは!?」


 視界に捉えたのは、空に浮かぶ人型の影。


 この辺りでそんな存在は1種類だけしかいない。


「ハーピィ!!」


 それは醜悪に歪む女の顔と胴体に鳥の翼のような腕と脚をもつモンスター。


 奴らは夜行性で人の肉を好む。


「皆起きろ!! ハーピィの襲撃だ!!」

「チィイイイイイイッ!!」


 俺とリリは皆を起こすため、大声で叫んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る