第050話 従魔との団欒
サーシャに加護を授かった数日後、街から少し離れた場所にある小さな林にやってきた。
周りに誰もいないのを確認してキーワードを唱える。
「召喚」
俺の言葉と共にリリ以外の従魔たちが育成牧場の中から姿を現した。
厩舎には現在5体までしか預けられないので、普段はリリを連れ歩いて、俺の従魔として周りに印象付けている。
皆進化して珍しい種族になったため、変な奴らに狙われないようにするためだ。
従魔を他の人間が従えることはできないけど、人質にとったり、俺自身を殺して契約を破棄させたり、やりようはいくらでもある。
俺は弱い。まだまだ大きな力から皆を守れるような力はない。リスクはできるだけ避ける必要があった。
「プー」
「クゥ」
「ピ」
「ナーン」
リリとリタを除いた皆が、俺に近寄ってきて身体を擦り付けてくる。
モフモフ、プニプニの素晴らしい感触によって心の中から癒されるのを感じた。
「おー、ヨシヨシ。窮屈な思いさせてごめんな」
俺はしゃがんで皆の頭を撫でる。
最近従魔たちに育成牧場で窮屈な思いをさせているのと、これまでずっと探索ばかりでちゃんと構ってやれなかったので、今日は労おうと思って連れてきた。
「ご、ごしゅじんしゃま……」
ただ、リタはやはり恐怖が勝ってしまい、俺に近づくのを躊躇ってしまう。
「リタ、無理しなくていいからな」
「だ、だいじょうぶでしゅ」
でも、今日は意を決したようにゆっくりと飛行して俺の方に近づいてきた。
「プー」
「ありがとうでしゅ」
ポーラが背中を差し出して、リタはその上に載る。
「勇気を出してくれてありがとな」
「は、はい」
指で頭を撫でると、体をビクリと硬直させたものの、慣れてくると力を抜いた。
おおっ。以前より大分進歩したな。
――――――――――――――
個体名:リタ
進化条件
②親愛度80%以上(40%/100%)
――――――――――――――
ステータスボードを確認すると、親愛度が40%を超えていた。
無理をせずに関わるようにしていたのが功を奏したみたいだ。これからもゆっくり仲良くなっていこうと思う。
「チチチッ」
リリも空から降りてきて、皆と並ぶように着地。これで全員そろった。
「今日は遊ぶぞ!!」
「チィッ!!」
「プーッ!!」
「クゥッ!!」
「ピッ!!」
「ニャッ!!」
「は、はい」
俺は林の中で皆を追いかけまわしたり、撫でまわしたりして目一杯戯れた。
「ふぅ……そろそろお昼だな」
最近ずっと適当な物を買って食べさせていたけど、今日は皆に好物を食べさせる。
ファイヤーカイトであるリリと、フロストフォックスのルナはモンスターの肉。キュアラビットのポーラは人参。スリープスライムのプルーはお菓子。シャドウキャットのクロロは焼き魚。
皆美味しそうに食べ始める。
その姿を見るだけで頬が緩む。
「リタは木の実だったな?」
「はい」
「それじゃあ、これだ」
「ありがとうございましゅ」
リタでも持てる大きさの木の実を渡すと、彼女は嬉しそうに胸に抱いて、ポーラの背中の上でパクパクと食べ始めた。
俺も皆の横に腰を下ろしてパンを頬張りながら、木々の隙間から覗く空を見上げる。
思えば、学院時代には考えられなかったような生活だな。こんな穏やかな生活を送れる日が来るとは思わなかった。
退学させられてからというもの、色んなものに追われるような生活をしてきた。でも、もうそのほとんどは解決したと言ってもいい。
「ん?」
食べ終わった後、眠くなって木に背中を預けると、皆が俺の周りを固めるように身を寄せてきた。
「はははっ。しょうがないな……」
微笑ましくなって思わず笑い声がこぼれる。
俺は久しぶりに心の底から安らぎを感じた。
「よーし、これから皆の体を洗うからな」
ひと眠りした後、大きな桶を取り出してプルーと一緒に水を溜める。そして、リリと一緒に冷たい水を火魔法で温めて小さなお風呂を作った。
一般家庭にお風呂はない。あるのは裕福な商人や貴族の家くらいだ。
でも、テイマー学院は国が力をいれて運営しているだけあって、寮には寮生用のお風呂があった。俺も毎日入っていた。
皆が進化したおかげで今はそれを自分の力で実現できる。
だから俺は皆をお風呂に入れてやりたかった。アレはいいものだ。
「チチチィッ!!」
「ププププッ!!」
「こ、こら、暴れるな!!」
慣れないお風呂に、皆が水を振り払ったり、暴れたりして大変だったけど、日ごろの労いの気持ちを込めて一生懸命洗った。
「これでよし」
しばらく洗っていなかったこともあって、皆の体は結構汚れていたので、何度も水を入れ替える羽目に。
でも、その甲斐あって皆見違えるように綺麗になった。
最後にお湯を張り替えた桶に皆を入れる。
「チィ~……」
「プゥ~……」
「クゥ~……」
「ピィ~……」
「ニャァ……」
「気持ちいいでしゅ……」
皆気持ちよさそうな顔をしていた。
「そろそろ帰ろうか」
気づけば、もうすっかり日が傾いている。
皆少し残念そうな顔をするけど、これで最後じゃない。皆の嬉しそうな顔はもっと沢山みたい。だから、これから何度でもこういう機会はつくるつもりだ。
それに、家には快活さが戻ったアイリと、体調がすっかり良くなった母さんが待っている。
帰りが遅くなって心配をかけるわけにもいかない。
「また来ような」
そう言って皆をひと撫ですると、俺はリリ以外を育成牧場に送り、家路についた。
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