第045話 家に帰るまでが探索
「くそっ!!」
見つけ出せなければ、母さんが死んでしまうというになんで見つからないんだ!!
俺は神秘の祈りが見つからないことに腹を立てて悪態をつく。
「クゥ……」
「ピィ……」
「ナーン……」
苛立つ俺に心配そうに寄り添ってくるルナ、プルー、クロロ。
あぁ、皆を不安にさせてしまったみたいだな……。
そうだ、俺は1人じゃない。俺には皆がいる。1人でちょっと焦りすぎていた。
「ありがとうな……」
俺はしゃがんで皆をモフる。ルナたちも少し安堵して嬉しそうな顔をした。
モフモフ、プニプニなルナたちに癒されて少し気持ちが楽になる。
「すー……はー……」
冷静になれ。苛立ったところで問題は解決しない。
1週間探しても見つからなかった薬草だ。そう簡単に見つかるはずがない。
それにまだ1日ある。
帰る時間と調合の時間を考えても今日中に見つかればギリギリ間に合うはずだ。
俺は深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
「少しだけ休もう」
2日間一時も休まずにずっと動きっぱなしだった。
疲労や焦りで視野が狭くなっている可能性がある。ここで水分を取って少しだけ体を休ませて、気持ちをリセットしよう。
俺は近場にあった丁度いい大きさの岩に腰を下ろし、倉庫に入れていた水筒を取り出した。
ルナたちにも器を出して水を注ぐ。
その途端、ルナたちは物凄い勢いで器に顔を突っ込んだ。
そうだよな……俺に付き合って一生懸命に神秘の祈りを探してくれてたんだ。当然喉も乾くし、お腹もすく。
それなのに文句の1つも言わずに探し続けてくれた。本当に俺には勿体ないくらいいい子たちだ。
「母さんが治ったら、少しゆっくりしような」
一心不乱に水を飲む彼らの頭を撫で、倉庫に入っていた保存食も出してやる。
俺も、保存食を食べながらお茶を飲み、少し気を休める。
もう探していない場所はそう多くない。後はそこに全てを掛けるしかない。
「ん?」
考え事をしながらぼんやりと辺りを見回していると、ふと何かに目が留まった。
そこにはほんのりと発光している植物があった。
気になって焦点を合わせると、それはまるで人が祈るように手を合わせた状態にそっくりな形をしていた。
俺は信じられなくて目を擦ってもう一度その場所を見る。
「ある……」
その薬草は消えずに確かにそこにあった。
それでもなお信じがたい俺はもう一度、目を擦って再び、その場所を見つめた。
「ある……」
幻想ではなく、その植物はそこに存在している。
「図鑑の見た目と全く一緒だし、神秘の祈りで間違いない……」
俺は薬屋で取ったメモを取り出して照らし合わせ、それが確実に俺が求めている薬草だと判断した。
「……これって夢じゃないよな?」
まさかこんな風に気を抜いた時に見つかるとは思わず、2日間まとも寝てないせいで、少し腰を落ち着けた矢先に寝落ちしてしまったのではないかと疑ってしまう。
俺は自分の頬を思いきり
「いったぁ!! 夢じゃない……」
頬に刺すような痛みが走る。
紛れもない現実だ……。
徐々に実感がこみあげてくる。
「夢じゃない!! 見つけたぞ、見つけたんだ俺は!! やったぁあああああっ!!」
そして俺は、立ち上がって勝ち
うぉおおおおおおおっ!! これで母さんが助けられるぞ!! やった!! 良かった!! 間に合った!!
こうしちゃいられない。早く持って帰ってアイリを安心させないと。
「クククゥッ!?」
「ピピピッ!?」
「ニャーッ!?」
俺が突然立ち上がったことに驚いて体をビクリとさせる3人。
「あ、ごめんごめん。神秘の祈りを見つけたんだよ、ほら、あそこだ」
3人に謝り、俺が立ち上がった理由を告げて指をさす。
「クゥッ!!」
「ピューイ!!」
「ニャッ!!」
指し示した方向に顔を向けて神秘の祈りを見つけると、3人は嬉しそうに飛び跳ねた。
俺たちはゆっくりと神秘の祈りに近づいていく。
そして、恐る恐るそばにしゃがみ、4人で神秘の祈りを見下ろす。
「これが神秘の祈り……」
「クゥ」
「ピ」
「ンン」
珍しい薬草にルナたちも興味津々だ。
確かに見た目だけに留まらず、何か暖かな不思議な力を感じる。
神秘の祈りとは誰が付けた名前なのか分からないけど、この薬草にピッタリな名称だと思った。
俺は慎重に触れて育成牧場の倉庫に入れた。これで帰っている途中で落とす心配もないし、誰かに盗られることもない。
きちんと倉庫内にあることも確認した。
「よし、後は帰って薬を作ってもらうだけだ。皆帰ろう」
「クゥッ!!」
「ピッ!!」
「ニャーンッ!!」
俺たちは休憩を終えると、荷物を片付けて意気揚々とした気持ちで帰路に就いた。
しかし、俺たちは皆神秘の祈りに夢中で気づいていなかった。
「ワオォオオオオオオンッ」
モンスターが近寄ってきていたことに。
「ま、まさかアレは……!?」
しかもそのモンスターは今までのモンスターとは一線と画す存在。
「ワーウルフ……!?」
Bランクモンスターのワーウルフが、俺たちの帰り道を塞ぐように立っていた。
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