第047話 取り戻したもの
「サーシャ、か……」
「うむ。ちと待っておれ」
足音が近づいてくる。
「"森癒"」
サーシャが俺の体に手を置いて一言呟いた瞬間、痛みが消え、意識がハッキリとしてきた。
体を起こしてあちこち触って確かめてみると、怪我が完全に治っている。その間に、ルナとプルーも治していく。
「こんなスキル持ってなかっただろ」
「覚えたわ」
SSランクおそるべし。
「森に来たのなら、ワシを呼べばよかろうに」
「ちょっと焦り過ぎてて思いつかなかった……」
確かにサーシャがいれば、もっと簡単に見つかったかもしれない。
でも、迷惑を掛けたくなかったから呼ぶつもりはなかった。こうやって助けられてちゃ世話ないけど。
「まぁ、ワシも寝ておったから気づかなかったじゃろうがな。ふぉっふぉっふぉっ」
「それじゃあ、どっちみち呼んでも意味なかっただろ」
サーシャの笑みで場が思いきり弛緩する。
彼女がいるとそれだけで安心感が違った。
見ると、ワーウルフが木々の根や蔓に体を雁字搦めにされていた。
「ガゥッ、ガッ!?」
ジタバタとして振りほどこうとしているけど、全く動く様子はない。
Bランクモンスター相手にこんなことができるなんて流石サーシャだ。
「して、何をしておったのじゃ?」
「神秘の祈りを見つけたところでアイツに見つかってな。殺されそうになっていた」
「そういうことであったか。それならば急いで戻らねばならんな」
サーシャが手を振う。
それだけでワーウルフに巻き付いていた根や蔓がやつを締めあげていく。
「ガァアアアアアッ!! ガッ……」
悲鳴にも等しい咆哮を上げるワーウルフ。しかし、どこからともなく現れる木の根や蔓がさらに絡みついて埋もれ、聞こえなくなっていく。
「ふんっ」
そして、手を握りつぶすような仕草をすると、卵のような形となった蔓の塊がさらに小さく収縮し、隙間から血が一気に噴き出してきた。
あれは絶対生きてないな……。
「……」
圧殺。あまりの殺し方にゾクリと背筋に寒気が走った。
「うむ。これでよし。それでは、また森の外まで送ってやろう」
「いやいや、良いって。助けてもらっただけで十分だ。走れば間に合うだろうしな」
たった今命を救ってもらったところだ。ただでさえ恩を返せそうにないのに、これ以上頼るわけにはいかない。
「早く帰れるにこしたことはないじゃろ。それに、ワシがやりたくてやっていることじゃ。気にするでない」
「それはそうだけど、クロも探さないといけないしな」
「途中で拾っていけばよかろう。ゆくぞ」
食い下がってみたけど、有無を言わさずに草に乗せられて森の中を移動していく。
「お主のシャドウキャットはかなり優秀じゃの。探すのにほんの少し苦労したわ」
サーシャが呟くと、道と草が方向を変えた。
SSランクのサーシャが苦労するなんてクロは将来凄い護衛猫になるかもしれないな。
俺は代理契約でクロと繋がっているので隠れていても気配がわかる。徐々にクロとの距離が近づいてくる。
「クロ!!」
「ニャッ!?」
声をかけて呼び止めると、クロは驚いて影から顔を出した。
「心配かけたな……」
「ニャーンッ!!」
クロは顔を見た途端、俺に駆け寄り、飛び掛かってきた。
「ニャッニャッニャーッ!!」
抱きとめると、クロは俺の胸に頭を擦り付ける。
しばらく好きなようにさせた。
「出発してくれ」
「うむ」
クロが落ち着いたところで俺たちはサーシャの力で移動を再開。数分後には森の端に辿り着いた。
「ありがとう。このお礼は必ずするから」
「ふぉっふぉっふぉっ。本当に気にせんでいいんじゃがの。それではお主の気が晴れまい。楽しみに待っておるぞ」
「ああ。それじゃあ、またな!!」
必ず恩返しすることを約束してサーシャと別れ、俺は街へと走る。
「おおっ!! 帰って来たか!! 見つかったか?」
城門でロイクさんに呼び止められた。
「はい」
「そうか。急げ」
「ありがとうございます!!」
すぐに通してくれたロイクさんに礼を言って、薬屋に寄って薬を作ってもらった。
「これがあれば母さんが……」
俺は薬を育成牧場の倉庫に仕舞い、家へと急いだ。
「アイリ」
「お兄ちゃん!!」
家に戻って寝室に入ると、俺を見てアイリの表情が明るくなる。
「薬持ってきたぞ」
「早くお母さんに飲ませて!!」
「分かってるよ」
アイリに急かされて母さんに近寄ると、
「ポーラしゃん、がんばってくだしゃい!!」
ポーラが母さんの枕もとで辛そうな顔でキュアを掛け、リタがその応援をしていた。
「2人ともありがとう。もう大丈夫だ」
「プーッ」
「は、はいです」
俺が声をかけると、ポーラは嬉しそうに、リタは少し委縮しながら返事をして俺に場を譲った。
「グロースさんは?」
「今日も来てくれて、さっき帰ってったよ」
「そうか」
2人に代わって母さんの傍に腰を下ろし、育成倉庫から薬を出した。
「母さん……」
母さんの頭を優しく持ち上げて、口に少しずつ薬を流し込む。
――ゴクリッ
母さんは意識を失いながらも少しずつ、少しずつ薬を嚥下していく。そして、時間をかけて全て飲み干した。
「うう……ここ……は?」
その効果は劇的で、数分経った後、ついに母さんが意識を取り戻した。
「母さん!!」
「お母さん!!」
俺とアイリはその姿を見て叫んでいた。
「……あなたたち、心配かけたわね……」
少しして状況を理解したらしい母さんが、弱々しく手を伸ばしてアイリの頬に手を添えて弱々しく微笑む。
「ううん、そんなことないよ。お母さんが元気になって良かった!!」
アイリは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらニッコリと笑みを作った。
その笑みは、今までのどんな笑顔よりも嬉しそうだった。
……そして、1週間が経った。
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