第038話 その頂きへ
いやいや、こんなことある? もうこれで5体目だぞ!? 5体全部SSSランクまで進化したらどうなってしまうんだ? 世界征服でもしろってのか!?
俺の許にSSSランクの潜在能力を持つモンスターが5体も集まってきたという状況についていけない。
それにあんなに可愛らしい手乗り妖精がSSSランクの凄いモンスターになるなんて想像もつかない。
『どうかしたかの?』
俺がおかしいことに気づいた万年樹様。
「あ、いえ、ちょっと状況についていけなくて。あはははは……」
俺は頭を掻きながら苦笑いを浮かべて返事をした。
『どういうことじゃ?』
「それがですね……」
誤魔化すこともできたけど、嘘はつきたくないし、せっかくだから万の時を生きる万年樹様に洗いざらい話して、相談に乗ってもらうことに。
『お主の尋常ならざる力はそういうものであったか……』
話を聞いた万年樹様が、腑に落ちたといった声色で呟く。
流石万年樹様。思い当たることがらしい。
「どういうことですか?」
『うむ。どれだけ器の広い人物であっても、SSSランクのモンスター1体だけならまだしも、5体も従えることなど到底できぬ。しかし、お主の場合、Gランクしかテイムできない代わりに、そのモンスターをSSSランクまで育てることで、Gランクをテイムするのに必要な器の容量のまま、SSSランクのモンスターを使役できるようになるのじゃ。じゃからSSSランクのモンスターを何体も従えることができるわけじゃな。それに、お主にはSSSランクの潜在能力を秘めたGランクモンスターを引き寄せる力がある。お主の優しさが彼らとの契約へと導いておるのじゃろう』
「なる……ほど……」
万年樹様から齎された説明は、目から鱗が落ちるとともに、なかなか受け入れられないものだった。
確かに才能としては凄いかもしれない。
でも、そのせいでテイマー学院で蔑まれ、父さんを助けられずに死なせ、母さんと妹にはひもじい思いをさせた挙句、母さんは体を壊して重い病気になってしまった。
そんなにとびぬけた才能はいらないから、Bランクモンスター1体をテイムできる才能が欲しかった。
そうすれば、テイマー学院を卒業していい仕事に就けたし、父さんの救援に間に合ったかもしれないし、母さんとアイリに辛い思いをさせることはなかったんじゃないかと思う。
『なんじゃ? 納得いかんか?』
考えが顔に出ていたんだろう。万年樹様が尋ねてくる。
「いえ、人生ままならないものだなと思いまして……」
『生きるとはそういうことじゃ。むしろ、ままならないことの方が多い。どうにか折り合いをつけて生きていくしかないのじゃ。過ぎ去った時はもうどうにもできん。で、あるならば、これからどう生きるかが大切なのではないか?』
1万年以上生きる万年樹様の言葉は重い。
人にしたら100倍以上の寿命だ。俺なんて比べ物にならないくらい沢山の理不尽を見てきたのだろう。
それじゃあ、俺はこれからどう生きていけばいいのだろうか。
1番大事なのは母さんとアイリが幸せに暮らすことだ。
母さんの病気を治ったら、2人にもっと良い生活をさせたい。そして、もう誰も失わないように守れる力が欲しい。
そのためにはリリたちにもっと進化してもらい、もっと強くならなければならない。でも、中途半端な力じゃモンスターの群れに襲われた時に守りきれないかもしれない。
それならいっそのこと、従魔全員をSSSランクまで進化させれば、どんな敵にだって負けないだろう。
俺にはそれを実現できる力がある。
『どうやら何かを悟ったらしいの。先程よりも良い顔をしておるぞ』
嬉しそうな声色で万年樹様が話す。
「そうですね。もっと強くなりたいと思いまして。どうせ強くなるなら、世界最強を目指してみようかなと」
『ふぉっふぉっふぉっ。良く言った!!
俺の返事を聞いた枝葉を揺らして大きく笑う。
そのためにも、まず何よりも優先するべきは、母さんの病気を治すことだ。
残りの素材である、神秘の祈りとティアードドロップを探さなければいけない。
リリたちとリタの方を再び見てみると、楽しそうに皆で戯れている。どうやら仲良くなれたみたいだな。
丁度いいタイミングだ。
「そろそろ、寝ようと思います」
『うむ。睡眠は大事じゃ。ゆっくり体を休めるがいい』
「ありがとうございます」
俺は万年樹様が用意してくれた寝床に皆を呼び寄せる。
リタはリリたちとは仲良くなれたけど、人間である俺に近づくと怯えてしまう。
無理に仲良くなろうとするのは逆効果だ。少しずつ仲良くなっていこう。
「一緒に寝るのと、育成牧場で寝るの、どっちがいい?」
リタに選択権を与える。
「……」
でも、リタは答えるのを躊躇った。
多分、選択肢を与えられてひどいことをされた過去があるのだろう。
「大丈夫だ。どっちを選んでも絶対に怒ったり、ぶったりなんてしない。だから、安心して本当に好きな方を選んでくれていい」
俺はリタを安心させるようにできるだけ優しく伝える。
「ほんとうでしゅか?」
「ああ。勿論だ」
こちらを窺うような視線を向けるリタに、俺はしっかりと頷いた。
「ぼくじょうでおねがいしましゅ」
「分かった。ポーラ、一緒に居てやってくれるか?」
やはり牧場を選んだリタ。でも、1人では寂しいだろうから一番仲良くなっていたポーラに一緒に行ってもらう。
「プー!!」
ポーラは快く引き受けてくれた。
俺はすぐに2人を牧場へと送った。
残った俺たちは身を寄せ合って眠りにつく。ふかふかの布団に包まれているように暖かかった。
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