第037話 ぶほっ!? ブルー◯ス、お前もか

 俺は体を起こして育成牧場のボードを呼び出した。


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 育成牧場

 ◆施設の増設・改築

 ◆厩舎

 ◆倉庫

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 施設の増設・改築を選び、育成牧場の施設を増設する。


『治療院を増設しますか?(使用BP200P) はい いいえ』


 治療院を選択すると、ボードが浮かび上がってきたので『はい』を意識して選ぶ。


 これまで付与されたBPは300ポイントとちょっと。


 少なくないポイントを使うことになるけど、誰かを助けるためなら惜しくない。


『治療院が増設されました』


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 育成牧場

 ◆施設の増設・改築アップグレード

 ◆厩舎

 ◆治療院

 ◆倉庫

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 ボードの中に治療院の項目が増えた。


 俺はそれを選択する。


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 治療院 (レベル1)

 ・入院(入院数0/2)

 ・急速治療

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 ボードが切り替わり、二つの項目が表示された。


「なるほどな」


 説明によると、入院は怪我や病気からの回復速度が治療院のレベルに応じて早くなる。レベル1の場合、2倍速で回復でき、入院できるのは2体までだ。


 急速治療は、治療院のレベル、モンスターのランク、怪我の度合いなどによって計算されたBPを支払うことで、対象を一瞬で治療できる機能だ。


『個体名:リタは根源が損傷しています。完全に治療しますか?(BP100ポイント使用) はい いいえ』


 リタの場合、大怪我にもかかわらず、たった100ポイントで済んだ。これは最低ランクだけの格安ポイントらしい。これが同じ怪我でFランクだった場合1000ポイント必要になる。それ以上になると、さらに桁が増えてもう見たくもない数字が並んでいた。


 入院でも治療できるけど、それには長い時間を要する。俺は一秒でも早く辛い状態から回復させてやりたかった。


 厩舎と倉庫だけでも十分に役に立っているし、元々持っていなかった力だ。しばらく使えなかったとしても何も問題ない。


 だから俺は迷わず『はい』を選択した。


 リタが俺の前に出現して金色の光に包まれる。


 数十秒後、光が端からボロボロと崩れ、花びらのように散って消えた。


 全身がふっくらとして肌に赤みを帯び、健康的な状態になったリタが現れる。


 リタはゆっくりと落ちてきて、俺は手を器型にしてそっと受け止めた。


『なんと……!? 根源を損傷し、死に瀕していたリタがこれほど容易く治るとは……』


 万年樹様がその様子を見て、驚いているような声を出した。


「万年樹様も知らないんですか?」

『うむ。このような凄まじい力は見たことも聞いたこともない。やはりお主に頼んで正解だったのう』

 

 万年樹様でも俺のブリーダー能力は見たことがないらしい。


「ん……んん……」


 そうこうしている内に、掌の中のリタがもぞもぞと動き始めた。


 俺たちは、その様子を見守る。


「ひぅ……」


 目を開けた途端、俺の顔を見てリタは怯えるような声を出し、手の上で四つん這いになって頭を抱えて蹲る。


「怖がらなくても大丈夫だ。お前に酷いことをするやつはいないからな」

「ぶたない? いじめない?」


 俺の言葉を聞いたリタが体を震わせながら顔を上げ、怯えた表情で尋ねる。


 手乗り妖精が他のモンスターたち一番違うのは、その見た目のせいか、舌足らずだけど、人の言葉を話せることだ。


 言葉が話せないからってコミュニケーションを取れないわけじゃないけど、話せた方がより伝わりやすいのは間違いない。


 そんなリタの反応を見て、彼女が置かれていた状況が想像できた。


 憤りを叫びたくなるのを堪えて唇をグッと噛む。


「あぁ。そんなことしない。だから、安心してくれ」

「……はい」


 一呼吸おいて、安堵させるように精一杯笑みを作って返事をすると、リタは少しだけ警戒を解いた。


「あっ、そうだ。覚えているか分からないけど、キミの新しい名前はリタだ」


 契約した時、彼女はほぼ意識がない状態だった。あれでは碌に覚えていない可能性がある。


「はい、あるじしゃま、よろしくお願いしましゅ」

「そんなに畏まらなくていい。リタの仲間を紹介するよ」


 すると、まるで小間使いのように跪いて頭を下げるリタ。


 その姿を見て、また苛立ちがぶり返してくる。


 これからはもっと気楽に過ごせるようにしてやりたい。


 そのためにも俺の仲間たちを紹介しよう。彼らと仲良くなれば、少しずつ心の傷もよくなるだろう。


 俺はリタを手に載せたまま、リリたちがいる方に体の向きを変える。


 彼らは興味津々でこちらを見て並んでいた。


「左からリリ、ポーラ、ルナ、プルー、クロロだ。仲良くしてやってくれ」

「チィ」

「プー」

「クゥ」

「ピッ」

「ニャ」


 リリたちはリタを驚かさないように小さな声でご挨拶。皆微笑ましくリタを見ている。


「よろしくでしゅ」


 リタは再び土下座のような形で頭を下げた。


「リタ、すぐには難しいだろうけど、皆と同じように接していいからな」

「はい」


 リリたちを見てほんの少し固さが取れたように見えた。


『リタよ、元気になってよかったのう』

「おおきなしゃん?」


 俺たちの挨拶が終わった後、リタを包み込むような優しさに溢れた声で、万年樹様がリタに語りかける。


 俺はリタを手に乗せたまま万年樹様の方を向いた。


 リタは助けてもらったことを覚えているようだ。


『そうじゃ。酷い状態じゃったお主をこの者が助けてくれたのじゃ。もう安心してもええ。この者なら大丈夫じゃ』

「ふぇ……ふぇーんっ」


 万年樹様の言葉を聞いたリタは泣き出してしまった。


 俺はリタを虐げた契約主と同じ人間。俺に言われてもなかなか信じられなかったに違いない。でも万年樹様は人間じゃない。その言葉はリタの心に届いたんだろうな。


 リタはしばらくの間、泣き続けた。


「大丈夫か」

「はい」

「じゃあ、皆が気になっているみたいだから、少し相手をしてやってくれるか?」

「わかりましゅた」


 リタは俺の指示に従い、宙を飛んでリリたちの許に移動した。


 俺はリリたちがリタを嬉しそうに受け入れる光景を見守りながら、リタのステータスを確認する。


 ――――――――――――――

 個体名:リタ

 種族 :手乗り妖精

 属性 :なし

 レベル:1/5

 ランク:G

 スキル:なし

 状態 :良好

 進化条件

 ①魔力供給(100%/100%)

 ②親愛度80%以上(30%/100%)

 ③Fランクの魔石×5

 ④レベル上限

 ――――――――――――――


 プルーの最初の時とほとんど同じだ。やっぱりGランクモンスターのステータスはあまり変わらないみたいだな。


 ただ、親愛度が低い。これは人間不信が大きな原因だろう。これから少しずつ人間にも良い人と悪い人がいることが分かってもらえたらいいな。


 後は潜在ランク。


 あれだけボロボロだったところを見るとあまり高くないだろうな。


 ――――――――――――

 リタ  潜在ランク:SSS

 ――――――――――――

 

「ぶほっ!!」


 しかし、俺の予想は完全に外れていた。

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