第039話 奇跡の瞬間
「んあ……」
俺は目を覚ます。
今日はなんだか物凄く暖かいな。
そう思って目を開けると、俺の両脇をリリたちが固めているのが視界に入った。
そうだ。昨日は許可を貰って万年樹様の近くで寝たんだ。万年樹様の力が強いおかげで他のモンスターが寄りつかないので、見張りも置かず皆一緒に。
どうりで暖かいはずだ。
『おはよう』
「あっ、おはようございます、万年樹様」
皆の様子を微笑ましく思っていると、万年樹様が声を掛けてくる。
『よく眠れたようじゃな』
「はい、おかげさまで。とても体が軽くなりました」
昨日まで毎日探索して疲労がたまっていたはずなのに、不思議と綺麗さっぱり消えていた。
『ふぉっふぉっふぉっ。お主には世話になったからの。少しだけおせっかいさせてもらったわ』
「そうでしたか。ありがとうございました」
『よいよい。微々たる力しか消費せんからの』
どうやら万年樹様のおかげだったらしい。
そんな力まであるなんて万年樹様って本当に凄いな。そういえば、万年樹様って普通の木じゃないけど、ステータスボード見れるのかな。
「あの、私には見た対象の情報や能力を見る力があるんですが、万年樹様の情報を見てみてもいいでしょうか?」
気になった俺はダメもとで頼んでみる。
勝手に見てもいいかもしれないけど、万年樹様の前では正直でいたい。
『そのようなことができるのか? うむ。構わんぞ』
「ありがとうございます」
――――――――――――――――
個体名 :なし
種族 :万年樹(半ドライアド)
属性 :木
レベル :70/70
ランク :S
スキル :聖域、浄化、安息、
隠蔽、偽装、植物支配
状態 :良好
弱点 :火属性攻撃
潜在ランク:SS
――――――――――――――――
「うぉおおおおっ!?」
ステータスボードを見た瞬間、衝撃で叫んでしまった。
まさかのSランクでレベルも上限。そりゃあ、この森に棲んでいるCランクやDランクのモンスター程度が近寄れるはずもない。
それに、スキルが6つも使える。
聖域は悪しき者が侵入できない領域を形成するスキル。ここに普通のモンスターが入って来れないのはこの力のお陰だろう。
浄化は、生物に害を及ぼす瘴気というエネルギーを吸収して、無害な魔力として放出するスキルだ。万年樹様の周囲が清浄が空気で満ちているのは、このスキルの力に違いない。
安息は、自身の力の及ぶ範囲内にいるものをリラックスさせ、精神的にも肉体的にも回復を早めてくれる効果がある。俺の疲れがなくなっていたのはこのスキルの効果だろう。
隠蔽は、能力を隠したり、気配を消したりでき、偽装は見た目を偽ることができる。この2つの力で何百年も普通の木のふりをしてきたみたいだ。
植物支配は、その名前の通り、植物ならなんでも自分の思いのままに支配して操ることができるスキル。奇襲や罠との相性が良くて、森の中なら最強と言っても良い力だ。
しかも条件が整えばSSまで進化できるポテンシャルの持ち主。今の種族が半ドライアドってことは、SSランクに進化したら、完全なドライアドになるのかな。
可能ならドライアドに進化した万年樹様を見て見たかったな。でも、それは叶わない。一万年以上生きて今の状態なら、おそらく次に進化するのは数百年単位で先のことだろうから。
いや、Sランクモンスターをテイムできるテイマーが万年樹様と契約し、その人と代理契約を結べれば、俺の願いも叶う。
でも、Sランクのモンスターをテイムできる人なんて世界的に見てもごく少数。俺が生きている内に見つかる可能性はほとんどない。
どっちにしても無理だろう。
『どうじゃ?』
「はい、とても素晴らしい力をお持ちだと分かりました。でも、万年樹様もお名前はないんですね?」
ふと不思議に思って尋ねる。
種族名の通り、一万年以上生きているのなら名前の1つや2つあってもよさそうなものだ。
『うむ。生まれてから様々な呼び名で呼ばれることはあったが、気に入るものがなくてのう。全て拒んだのじゃ』
「なるほど。そういうことでしたか」
モンスターの名前は自分が受け入れなければ、勝手に付くことはない。
万年樹様の答えを聞いて俺は納得した。
『しかし、そろそろ種族名で呼ばれるのも飽いてきたのう。あっ、そうじゃ、お主が名前を付けてくれぬか?』
「え、俺がですか!?」
『うむ。昨日、手乗り妖精にリタという名前をつけていたのを見てピーンと来たのじゃ。お主ならワシ好みの名前を付けてくれるとな』
我ながらいい考えだと自慢げな顔でふんぞり返っている老婆が思い浮かぶ。
1万年以上名づけを拒んできた万年樹様が気に入る名前とかハードル高すぎないか?
でも、万年樹様たっての願いだ。やるだけやってみよう。
「分かりました。でも、気に入らなくても文句は言わないでくださいね」
『まぁ、その時はその時じゃ』
うーむ。
やっぱり、この雄大な姿を見ていると、偉大な母に守られているような感覚になる。
そう考えると、守護者、みたいな名前がいいか。声が女性っぽいので女性らしい名前で。
「それじゃあ、サーシャ、なんて名前はどうですか? 守る者という意味があるんですが。人には考えられない程長い間、この森を見守ってきた万年樹様にピッタリかと思うんですけど、いかがでしょうか」
『……』
俺の提案を聞いた万年樹様は何も言わずに黙ってしまった。
やっぱりこんな良くある名前は気に入らなかったかな? 他にどんな名前があるだろう。
他にはやはり森を守る神様のようなイメージだからアルテミスとか? もしくは森は癒されるところもあるしアルテアとか?
『気に入った!!』
俺がうんうんと頭を悩ませていると、突然万年樹様が大声で叫んだ。
「え?」
『だから、気に入ったと言っておる。今後、ワシはサーシャじゃ。お主もそう呼ぶのじゃぞ?』
「わ、分かりました」
気に入ってたのか……良かった。黙っていたからてっきり気に入らないものとばかり……。
俺は頼みを果たすことができてホッとした。
「ちなみに、昔の人たちはなんて名前をつけようとしていたんですか?」
思ったよりも簡単に受け入れてもらえたので、1万年も受け入れられなかった理由が気になった。
『それはな。アレキサンダーとか、バロンとか、ボリスとか、いかつい名前ばかりつけようとするのじゃ』
「そ、そうなんですね……」
俺は昔の人たちのネーミングセンスに困惑しかなかった。
そりゃあ、1万年以上名前を付けられないはずだ。
『むっ……これは!?』
俺が安堵していると、サーシャ様が突然光り輝き始めた。
それは俺が最近よく見る光景によく似ていた。
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