第041話 未来の光景と新しいスキル
「さて、治療に必要な素材はなんじゃ?」
何か考えがあるのかサーシャが聞いてきた。
「ティアードロップ、神秘の祈りというアイテムだな」
「ティアードロップならワシがある場所を知っておる。案内してやろう」
「本当か!! ありがとう」
なるほど。流石この森の中心にあるだけある。
「リタは戦闘に参加しなくていいし、ポーラと一緒にいればいいからな」
「は、はいでしゅ」
牧場から出したポーラとリタは一緒に居てもらう。
まだ怯えているけど、安堵した表情になった。
これでいい。
――――――――――――――――
個体名 :サーシャ
種族 :万年樹(ドライアド)
属性 :木
レベル :1/80
ランク :SS
スキル :聖域、浄化、安息、
隠蔽、偽装、植物支配、
化身、祝福、加護
状態 :良好
弱点 :火属性攻撃
潜在ランク:SS
――――――――――――――――
「新しいスキルが3つもある……」
化身は、本体の木から離れ、人型として外に姿を現す能力だ。今の姿をとっているサーシャはこのスキルで生み出されている。
祝福は、対象者の全ての能力を一時的に大幅にアップさせるスキルだ。各々の強化魔法をまとめてさらに強力にしたものだ。クリスとラッキーが使った強化魔法の何倍もの効果がある。
加護は、自分が気に入った相手に与えることで、能力を恒久的に向上させ、自分の能力の一部を使えるようにするスキル。ただし、与えられる数は限られている。
どの能力も森の守り神に相応しい能力だと思う。
「ふぉっふぉっふぉっ。どうじゃ?」
「ああ、こんなに強い存在は見たことがないよ」
自慢げな顔をするサーシャに俺は呆然としながら返事をした。
俺が見た今までで一番高いランクのモンスターはSランク。テイマー学院の学院長が使役していたモンスターだ。
グリフォンという獅子の胴体にワシの頭と翼が持つ幻獣で、体高が2メートル以上あって、凄まじい威圧感を放っていた。
グリフォンは低級のドラゴンすら追い払う力があると言われている。でも、サーシャから感じる力はそれ以上だ。
「もっと褒めてもいいのじゃぞ?」
サーシャは俺に褒められてご満悦だ。
「それにしてもモンスターが一向に寄ってこないな」
「そりゃあ、ワシがおるからのう。恐れて近づいてこんのじゃ」
「それもそうか」
ただでさえSランクだったサーシャが、SSランクに上がったことでさらにその存在感を増している。
Sランクだった時から近づくモンスターがいなかったのに、SSランクになった彼女なんて恐ろしくて誰も近づこうとは思わないか。
「それではつまらんな。少し力を抑えよう」
サーシャがそう言った途端、彼女の気配が凄く小さくなった。
すると、モンスターの気配がちらほらと現れ始める。
「グォオオオオッ!!」
「おおっ!! ブルーベアではないか」
しばらく森を歩いていると、モンスターが襲ってきた。
――――――――――――――
個体名 :なし
種族 :ブルーベア
属性 :なし
レベル :31/40
ランク :C
スキル :パワーアップ
状態 :空腹
弱点 :なし
潜在ランク:B
――――――――――――――
ブルーベアは、青い毛並みをしている熊型のCランクモンスターだ。クリスが使っていたパワーアップの強化魔法を自分に掛けて強化することができる。
「サーシャは下がってて」
「何を言うておる。せっかくこの体を試すために呼び寄せたのじゃ。ワシが相手をするぞ」
思わず前に出て庇ってしまったけど、サーシャに肩を掴まれて後ろに下げられてしまった。
見た目はか弱そうな女性だけど、SSランクモンスターだもんな。俺が守る必要なんてなかったな。
サーシャは腕をグルグルと回しながらブルーベアに近づいていく。
「でも、まぁ普段守る側のワシが、守られるのも悪くなかったぞ」
彼女は立ち止まって振り返り、俺の考えを見透かすのようにニンマリと笑った。
敵わないなぁ……。
「待たせたのう。それじゃあ、この体の慣らしに付きおうてもらおうか」
「グォオオオオオッ!!」
警戒して近づいてこなかったブルーベアの前に立ち、拳を胸の前で打ち鳴らすサーシャ。ブルーベアもそれに応えるように吠えた。
そして、お互いに動いたと思った瞬間、サーシャの体が一瞬でブルーべアの前に現れ、拳を振っていた。
――ボンッ
ブルーベアに拳が当たった瞬間、まるで爆発するようにブルーベアの体が消し飛んだ。
「うぉっ」
――ゴォオオオオオッ
その後、強風が吹き荒れ、木々がグラグラと揺れる。
「ちと加減が難しいのう」
サーシャは自分の手を見ながら悩ましげに呟いた。
いやいやいや、なんだよ今の……Cランクモンスターが軽く殴っただけで体が無くなったぞ。
それに動きが全く見えなかった……分かっていたことだけど、SSランクって本当にとんでもないな……。
俺は唖然とするほかなかった。
「あったぞ」
「……そうだな」
それから何度かモンスターに遭遇しながら歩くこと1時間程。そこには涙のような形をした白い花が1輪だけ咲いていた。
ここに到着するまでに遭遇したモンスターはサーシャによって消し飛ばされた。
俺は意気消沈している。
「なんじゃ、そんなに暗い顔をして」
「いや、サーシャがモンスターを跡形もなく消滅させるのを見て、俺は弱いなって思っただけだよ」
美少女にしか見えないサーシャが、俺よりも圧倒的に強いのを見ると自信を失う。
「何を言っておる。今はワシの方が強いかもしれぬが、そう遠くない未来にワシなど足許にも及ばぬ強さを手に入れるじゃろうに」
「そうか……俺もサーシャみたいになれるのか……」
サーシャに言われて俺は気づいた。
今日のサーシャの姿は、いずれ通過する俺の未来の姿なのだと。
そう思うと、少し元気が出てきた。
俺に姉はいないけど、姉がいたらサーシャみたいな感じなのだろうか。
「ほれ、分かったらさっさと最後のアイテムを探しに行くぞ」
「わ、分かったよ」
俺は慌てて先に歩き出したサーシャの後を追った。
「どうやらここのモンスターではワシの力を試すのは難しいようじゃな」
それからモンスターに会うたびに体を上手く扱う練習していたサーシャ。
しかし、SSランクの彼女がどれだけ力を抑えたところで、DランクモンスターやCランクモンスターが相手になるわけもなく、手加減してもほぼ一撃で死んでしまう。
彼女はモンスター相手に体を試すのを諦めた。
そして今日も神秘の祈りを見つけることはできなかった。
明くる日。
「今日は新しいスキルを試してみようと思う」
彼女はそんなことを言った。
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