第042話 祝福と急転

「と、いうと?」

「お主たちに祝福を与えてみよう」

「おおっ。それは楽しみだな!!」


 サーシャの新スキルは祝福と加護。化身は今の体なので除外する。


 加護は恒久的な効果のあるスキルなので、消去法で使えるのは祝福だけになる。


 祝福は最上位の強化魔法。どれだけ能力が強化されるのか興味がある。


「モンスターの群れを見つけたぞ」

「げっ。ダイヤウルフの群れじゃないか……」


 サーシャにそう言って連れてこられた場所にはグレイウルフではなく、Cランクモンスターのダイヤウルフのみで構成された群れがあった。


 しかも、全部で10体。


 今までこれほど多数のCランクモンスターを同時に相手にしたことはない。


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 レベル  :37/40

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 レベル  :36/40

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 レベル  :28/40

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 レベル  :27/40

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 レベル  :40/40

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 レベル  :32/40

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 レベル  :27/40

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 レベル  :35/40

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 レベル  :32/40

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 レベル  :29/40

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 しかも全員総じてレベルが高い。


 つまり、それだけ長く生き、経験を積んでいて、相当強いということだ。もしかしたら、今のこの森のぬしの群れの可能性がある。


「さ、流石にこの群れはちょっと止めといた方がいいんじゃないか?」

「このくらい余裕じゃ。世界最強を目指すおのこがこの程度何を言っておる。しゃきっとせんか」


 弱気なこと言う俺の背中をサーシャがバシンと叩く。


 痛すぎる……SSランクの力、半端ない……。


「はぁ……分かったよ……」


 サーシャが意見を変えてくれるわけもなく、俺たちは諦めてダイヤウルフの群れと戦うことにした。


「ではゆくぞ? "祝福"」

「な、なんだこれは!?」


 サーシャが祝福を発動させた途端、俺たちを淡い緑色の光が体全体を包み込む。それと同時に、体の奥底から力が沸き上がってくるのを感じた。


 その力は、クリスの強化魔法とDランクモンスター3体の力を受けた時よりも遥かに大きい。


「これが祝福か……」


 今ならどんな敵だって倒せるような気がする。


「ワシが骨を拾ってやる。安心していってくるがいい」

「骨になる前に助けてくれよな」


 軽口を言い合った後、俺たちはダイヤウルフの群れに襲い掛かった。リタとポーラはサーシャと一緒にお留守番だ。


 まずは、プルーとルナによる遠距離攻撃。アクアブレットとアイスニードルがダイヤウルフに襲い掛かる。


「キャンッ!?」

「グガァアッ!?」


 2人の攻撃を受けたダイヤウルフはたったそれだけで瀕死になった。周りの8体のダイヤウルフたちが混乱に陥りながら辺りを警戒する。


 次に俺とクロロによる奇襲。


 最初にシャドウムーブやミラージュで襲い掛かると、匂いでバレてしまう可能性があったため、魔法攻撃ができる2人に先制攻撃してもらった。


 混乱していれば匂いどころではない。


「ヒィンッ!?」

「ギャンッ!?」


 俺とクロロは8体の内の2体に忍び寄り、俺は剣を振り下ろし、クロロは影から飛び出して前脚の爪で胴体を斬り裂いた。


 振り下ろした剣がスッと体に入っていき、気付けば胴体を両断していた。クロロも腹を大きく斬り裂き、ダイヤウルフの腹からドクドクと血が流れ出している。


 残りの6体は、仲間が突然4体も戦闘不能に陥ったことで危険を感じて逃げ出そうとした。


「チィイイイイッ!!」


 しかし、俺たちが逃がす訳もなく、木の上に待機していたリリが飛び上がり、羽を針のように飛ばすフェザーニードルをおみまいする。


『キャンキャンッ』


 祝福で威力が増幅されたフェザーニードルが顔に降り注ぎ、視界を失ったダイヤウルフたちはその場で暴れて動きを止めた。


 こうなったこっちのものだ。


 俺たちは全員で襲い掛かり、あっという間に殲滅してしまった。


「まさかCランクモンスターの群れを何もさせずに倒せるとは……」


 いくら奇襲を仕掛けたからといって、祝福がなければこうはならなかっただろう。


 本当に一方的だった。


 俺の攻撃力がCランクを一撃で倒せるくらいまで上昇し、他の皆の攻撃も、ダイヤウルフ相手に瀕死か大きな傷を残す結果となっている。


 今の俺たちならBランクモンスターさえ相手にできるかもしれない。


 祝福……ヤバいな……。


 それが祝福を受けた俺の感想だった。


「どうじゃ? 言った通りだったじゃろ?」


 遠くから見守っていたサーシャが近づいてきてにやけ顔をする。


「あぁ。とんでもない効果だな」

「ワシもここまで能力が上昇するとは思わなかったがな。悪くないスキルじゃ」


 スキルの効果を試すことができたサーシャは満足そうに笑った。


 その後、俺たちはサーシャの祝福を受けて、神秘の祈りを探しながらモンスターを倒しまくった。


 その結果、皆のレベルが沢山あがった。しかし、神秘の祈りは見つからなかった。




「そろそろ6日か……」


 そして、森の中に入ってもう6日が過ぎた。


「どうしたのじゃ?」

「いや、そろそろ家に帰らないと妹が心配するから一度帰ろうと思う」


 妹と母さんの容体が心配だ。


「そうか。付きおうてくれてありがとうな」


 サーシャが少し残念そうな笑みを浮かべる。


 初めて得た肉体で、誰かと一緒に遊べたことが嬉しかったんだろうな。


「気にしないでくれ。サーシャのおかげで楽しかった。こちらこそ、俺たちだけでアイテムを探していたら多分気が滅入ってたと思う。またすぐに薬の材料を探しに来るよ」


 神秘の祈りはまだ見つかっていないので、また森に入る必要がある。


「分かった。それじゃあ、森の出口まで送ってやろう」


 また会えると分かったサーシャは、嬉しそうな顔で手を横にふるった。


「おわっと!?」


 すると、木々が海が割れるように分かれて道を作り、草がザワザワと動いて俺たちを運ぶ。


 気づけば、あっという間に俺たちは森の入り口の近くまでやってきていた。

 

 SSランク……本当に凄い。


「それじゃあ、またな」

「うむ、ではな」


 人気のない場所で別れ、街に入る。


 アイリもさぞ心配しているに違いない。


 ギルドで換金を済ませ、妹のためにお菓子を購入して急いで家に走った。


 家の前にたどり着くと、いつものようにドアを開ける。


「ただいま~」

「お兄ちゃん!!」


 すると、妹が血相を変えて飛び出してきた。

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