第030話 別れと更なる成長

「君たちが今回オークキングを倒してくれた傭兵か。すまなかったな。こっちの落ち度でまだ傭兵になって日の浅いお前たちを危険に晒してしまって」


 次の日、傭兵ギルドに報酬を受け取りに行くと、ギルドマスターの部屋に呼び出された。


 その理由は、昨日の作戦の失敗を謝罪するためだったようだ。


 でもよく傭兵ギルドの一番上の人が、一介の、それも最近Dランクになったばかりの俺たちに頭を下げる気になったな。


 普通上に立つ人であればあるほどそういうことはしないはずだ。テイマー学院の上層部もそうだった。


 この人は一味違うらしい。


「いえ、傭兵は自己責任。謝っていただく必要はありません」


 エルが代表して応える。


「いや、職員を兼任している傭兵が駆けつけた時、相当にボロボロだったと聞いている。まさかオークキングがお前たちのいる方に逃げるとは思わなかった。完全に裏をかかれてしまった形だ。本当にすまんな。その代わりと言ってはなんだが、オークキングと亜種の討伐の貢献度を加味した上で、迷惑料も上乗せして今回の報酬を出させてもらう。ぜひ受け取ってくれ」


 ここまで言われて受け取らないのは失礼だろうな。


「分かりました。ありがたく頂戴します」

「うむ。これからも君たちの活躍を期待している。もし何か困ったことがあったら私を頼るがいい。できる範囲で力になろう」


 エルが返事をすると、ギルドマスターはその強面の顔を歪めてニッコリと笑った。


「ありがとうございます」


 こうして俺たちはギルドマスターとの邂逅を終えた。




「緊張したわね」

「そうだな」


 間近で見ると、ギルドマスターの迫力はこの前遠くから見た時とは比べ物にならないくらい圧倒的だった。


 あの人だったら、オークキングなんて一撃で倒せるだろう。


 今回呼ばれたのは、俺たちの力や人柄を見定めるつもりだったのかもしれない。


 反応を見る限り、合格だったと思いたい。


「あの人は相当強い。今度手合わせしてもらいたいな。頼っていいって言ってたし」

「そんなこと絶対頼むんじゃないわよ!!」

「そんなことじゃねぇよ!! 強くなるためには必要なことだ!!」


 またエルとキースが喧嘩を始める。この2人にも少し慣れてきた。


「そんなことよりも今回の報酬の分配をしましょう」

「そうだな」


 クリスはどこまでもお金にシビアだった。


 俺たちはエルたちが泊まっている宿で報酬を分配することにした。


「おおっ。ギルドマスター、めっちゃ奮発してくれたみたいじゃねぇか」

「そうね」

「素晴らしいですね!!」


 彼らの部屋に設置されたテーブルに報酬を出すと、予想よりもはるかに多かった。


 4分の1でもいい稼ぎになる。これだけあれば、また薬代に近づく。


「このほとんどはイクスに渡そうと思う。皆はどう?」


 しかし、エルが突然意味不明なことを言い始めた。


「いいぜ。イクスがいなかったら、どうなってたか分からないからな」

「そうですね。私も賛成します。お金は大事ですが、受けた恩に報いることはもっと大切なことです」


 キースと、それにまさかの守銭奴のクリスまで賛同する。


 でも、流石に俺は賛同できない。


「それは駄目だ。これは4人がいて初めて手に入れられた報酬だ。4分の1以上は受け取らないからな」


 3人がいなければ、俺は代理育成契約でオークキングを倒すことができなかった。


 それに、3人がそれぞれ必死になって自分の役割を果たしたからこそ、あのオークキングに勝てたんだ。


 皆の頑張りを見て見ぬふりなんてできない。


「でも、イクスには沢山助けてもらったし、話しあってそう決めたのよ」

「皆が俺に感謝しているように、俺も皆に感謝しているんだ。あの戦いは皆がいなければ勝てなかった。だから、絶対に4分の1以上は受け取らない」

「はぁ~、分かったわ。まさかイクスがこんなに頑固だと思わなかった」


 頑として受け取らない姿勢でいると、エルは諦めたように肩を竦める。


「4分の1ずつ。本当にそれでいいのね?」

「ああっ」


 再度確認するエルにしっかりと頷いて、4人で均等に分け合った。


「さて、今日も仕事に行こうかな」


 用件を済ませた俺は席を立つ。


「イクスは勤勉だな。今日くらい休んだって誰も文句は言わないだろ」

「そうかもな。でも、母のことを考えると休んでもいられないんだ」


 キースが呆れた顔をするけど、後少し働けば、目標額に届く。一刻も早く母さんを治療してやりたい。


「本当にどこかの誰かさんとは大違いだわ」

「おおん? 誰のことを言ってんだ?」

「さーて、誰でしょうね」


 また喧嘩を始めそうな2人。本当に仲がいいな。


「今回は世話になったな。また機会があったら一緒に仕事をしよう」


 彼らは本当に良い人たちだった。


 俺の力のことも何一つ聞いてこないし、誰にも言うつもりもなさそうだし。改めて釘を刺すのは野暮だろう。


「ええ。こちらこそ、またよろしくね」

「おう。今度は俺と手合わせしような」

「今回の借りはきちんと私の心の帳簿につけておきます。今度会った時にきちんと返させていただきますから」


 俺はエルたちに別れを告げ、いつものように森へと向かった。




 そして、2週間後。


『進化条件を達成しました。進化させますか? はい いいえ』


 俺の前に5つのボードが浮かび上がっていた。

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