第023話 想定外

「次が来たぞ!!」

「任せて!!」


 オークたちが壊れた塀を乗り越えて散発的に抜けてくる。


 俺の声に合わせてエルが矢を放った。


「ウォンッ!!」


 それと同時に、パートナーのチャコもオークに向かって走り出す。


 エルの矢が先に届き、オークの肩を貫いた。


「フゴォオオオオッ」


 よろめきながら叫ぶオークの足に、チャコが思いきり噛みつく。


 オークが足をブンブンと振って引きはがそうとすると、チャコは肉を噛み千切って後ろに飛んだ。


「プギィイイイイッ」


 オークが初めて悲鳴のような声を上げて立ち止まる。


 足の動かなくなったオークなんてエルにとってはただの的。


「はっ!!」


 完璧に狙いを定めたエルの矢がオークの頭を貫いた。


「プゴォ……」


 オークが白目を剥いてその場に倒れる。チャコがオークに駆け寄って油断なく首元を噛み切った。


 そして、オークは完全に息絶えた。


「お疲れ様」

「うん、ありがとう」


 1匹や2匹のオークが相手の場合、全員で戦うと完全にオーバーキルだ。そのため、クリスを除いた俺たち3人がそれぞれのパートナーとチームを組んで、交代しながら相手をしていた。


 今ちょうどエルの出番が終わったところだ。


 俺たちはもうかれこれ20匹以上のオークを倒していた。


「結構抜けてきやがるな」

「先輩たちが思ったよりも苦戦してるのかもしれませんね」


 キースのぼやきに、クリスが応じる。


 塀から少し離れていて、中での戦闘の様子がどうなっているのか分からないけど、今頃Cランクの傭兵パーティが、集落内で奮闘しているはずだ。


 そのCランクの傭兵パーティがこれだけのオークを逃がすってことは、集落に住んでいたオークの数が予想よりも多かったのかもしれない。


 いくらCランクパーティと言えども、数十匹のオークに囲まれたら1度に全員を相手にするのは難しい。


 その隙に逃がしてしまった可能性が高い。


「チチチチッ」


 リリが再びオークの接近を知らせる。


 その影は今までで一番多い4体。


「今回は私たちだけで戦ってみようか」

「それも悪くないな」


 従魔不参加の人間だけのパーティで相手をする。


 俺たちはお互いにできることを確かめながら連係を深めていった。


「やっと、途切れたわね」

「だなぁ」


 それから1時間以上経った頃、ようやく抜けてくるオークの姿が途切れたため、俺たちは一息ついた。


「うわぁあああっ!!」


 しかし、数分程経った頃、集落の方から人間の叫び声が聞こえてきた。これは恐らくCランクパーティの誰かの声だ。


 な、なんだ!? 何かあったのか!?


 俺たちは全員で身構えた。


 ――キーンッ


 内心で驚いていると、空気を切り裂く音が俺の耳元を通り抜けた。


「ぐわぁああっ!!」


 俺の後ろにいたキースが叫び声が上げる。


 それと同時に塀の奥から複数の人影が姿を現した。


「全員、構えて!!」


 エルの叫び声で全員が身構える。


 キースの方を見ると、肩を矢が貫いていた。


 こんなことができるのはオークアーチャーだけだ。


 オークアーチャーは、オークの中でも視力が良く、弓の扱いに長けている個体。Dランクだけど、弓に特化している分、遠距離ではCランクに相当する力を発揮する。


「キース!!」

「だ、大丈夫だ。敵から目を逸らすな!!」


 キースは痛みに顔を歪めながらも剣を構える。


 俺は言葉に従い、前を向く。


 ローブを着たオークの上に火球がいくつも浮かびあがる。


 オークアーチャーだけでなく、オークメイジまでいる。アーチャー同様に、魔法の扱いに長けたオークの亜種だ。こいつも距離があると、かなり手ごわい。


「ファイヤーボールが来るぞ!! 避けろ!!」


 俺は大声で叫んだ。


 ――ゴォオオオオッ


 複数の火球が俺たちに向かって飛んでくる。


「プルー、アクアブリット!!」

「ピッ!!」


 俺の方に向かってくるファイヤーボールはプルーの水魔法で相殺した。相手の魔法の方が強いけど、火は水に弱いので消え去る。


 エルたちは火球を必死に躱した。ファイヤーボールが地面に着弾して爆発を起こし、俺たちの周りに土煙が舞う。


「我慢してくださいね」

「ぐぁああああっ」


 相手がこっちを視認できない隙にクリスがキースに駆け寄って矢を引き抜く。


 キースは歯を食いしばって痛みを我慢している。


「ハイヒール!!」


 クリスがヒールの上位版であるハイヒールを唱えた。


 淡い緑色の光に包まれて、貫通して開いた腕の穴がみるみる塞がっていく。その回復力はヒールとは段違いだ。


「わりぃ、助かった……」


 キースはバツが悪そうに謝罪すると、皆の前に立って剣を構える。


 良かった。なんとか復帰できるようだ。


 俺は胸を撫でおろした。


 だけどその直後、塀の奥からひと際大きなオークが、塀の崩れた部分に手を置いてのっそりと姿を現す。


 その周りをオークアーチャーとオークメイジを含む亜種たちが、まるで親衛隊のように守っている。


「なんでこんなところに……」


 エルが呆然としながら呟く。


 その言葉の通り、この場所にいるはずのない存在がそこに立っていた。


 そんなモンスターは1体しかいない。


「フゴォオオオオオオオオッ!!」


 オークキングが俺たちの前で大きな雄叫びを上げた。

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