第024話 接戦

 集落の北東で待ち構えるCランクパーティの傭兵たちと戦っているはずのオークキングがなんでこんなところに……。


 もしかして勝ち目がないのを悟り、傭兵から逃げるために、爆発地点であるここに希望を見出して賭けに出たのか?


 そして、彼らはその賭けに勝った。


 流石、Cランクモンスターともなると頭も回る。


 ここは最も安全であると同時に、最も包囲が手薄な場所。


 ここにいるのは、集落内の爆破された塀の傍で戦っていた先輩パーティと俺たちだけ。先輩と俺たちを倒せば、包囲網を突破して逃げることができる。


 先ほどの悲鳴を聞いた後、誰も駆けつけてこないってことは恐らく全員やられてしまった可能性が高い。


 気を抜いたら一瞬であの世行きだ。


 俺は目の前の脅威から生き延びるために頭を切り替える。


 塀の奥から姿を現したモンスターは6体。


 オークアーチャー、オークファイター、オークタンカー、オークメイジ、オークヒーラーの5体のDランクモンスターと、オークキングという1体のCランクモンスター。


 この中で一番厄介なのはオークヒーラーだ。


 オークヒーラーは、名前の通り、回復魔法を使うことができる。ダメージを与えても回復されてしまっては元も子もない。


 その次にオークアーチャーとオークメイジ。やはり遠距離攻撃は驚異。特にメイジの魔法はDランクだけに威力が高いし、遠距離からの攻撃がある限り、オークキングとの戦いに集中できない。


 オークファイターは素手による近接格闘に特化したタイプで、オークタンカーは大きな盾を持っていて、防御力に優れたタイプのオークだ。


 俺たちがすべきことは、まずは相手の回復手段を奪うこと。そして、遠距離攻撃手段をなくすことだ。


 そのためにいち早く動く必要がある。


「あ、あ……」


 エルたちを見ると、呆然としてしまって動く様子がない。


 このままじゃこっちがやられてしまう。ここは俺が動くしかない。


「クリス!! 俺たち全員に強化魔法を掛けられるか!!」

「は、はい!! 勿論です!!」

「頼む」

「分かりました」


 クリスが俺の指示に従って魔法を唱え始めた。


「エル!! オークアーチャーとメイジが攻撃できないように牽制!!」

「う、うん、分かったわ!!」

「プルーはその援護を頼む!!」

「ピッ!!」


 次にエルが我に返り、プルーと共にアーチャーとメイジの出方を窺う。


「キース、カロン、チャコはなんとかしてオークタンカー、オークファイター、オークキングを押さえろ」

「りょ、了解!!」

「シャーッ!!」

「ウォンッ!!」


 最後にキースたちが、オークキングに向かって走り出した。


 キースたちが前に出ると、オークアーチャーが弓に矢をつがえ、オークメイジが魔法を唱え始めた。


「やらせないわよ!!」

「ピピッ!!」

「アクアブリット!!」


 エルの弓と、プルーの魔法で対抗してお互いに牽制し合い、キースたちへの攻撃を防ぐことに成功する。


 そのおかげでキースたちは、無事にオークキングたちの許に辿り着くことができた。


 キースがオークキング、カロンがオークファイター、チャコがオークタンカーを相手取る。


「フゴォオオオオオッ!!」

「うぉおおおおおおっ!!」


 キースがオークキングを打ち合った。


 いくら鍛えていて、Dランクモンスターの恩恵を受けていても、生粋のCランクモンスターの力には及ばない。


「くっそっ!!」


 凄まじい轟音が響き渡り、キースが押されて吹き飛ばされる。


「だりゃああああっ!!」

「フグォオオオオッ!!」


 キースは重心を移動させ、体勢を立て直して着地した。受けるより攻撃した方がいいと判断したキースは、今度はキングに飛び掛かって果敢に攻め始めた。


「フガァアアアアッ!!」

「ぐぅっ!!」


 しかし、それも長くは続かない。


 軽く受け止められて反撃されてしまい、再び防戦一方に。


 しかし、その攻防の中で、キースは相手の真正面から受けるのではなく、オークキングの力を上手く利用し、受け流しながら捌けるようになった。


 カロンとチャコも同ランク帯のモンスターだけあってどうにか押さえ込んでいる。


「パワーアップ、ディフェンスアップ、スピードアップ、マジックアップ、シャープエッジ、ハードアーマー」


 オークたちを釘づけにしている間に魔法を完成させたクリスが、俺たちにありったけの強化魔法を掛けた。


 おお、武器や防具の性能を上げるだけでなく、俺たち自身の能力を引き上げる強化魔法まで使えるなんて、クリスとラッキーはとびぬけた力を持っている。


 俺たち全員をいくつもの違う色のほんのりとした光が包み込むと、力が沸き上がってきた。


 各々の攻撃力が上がり、押され気味だったキースが盛り返してオークキングと拮抗し始める。


 皆の攻撃がオークたちを斬り裂き、その体に深い傷を作っていく。


「フゴフゴフゴッ」


 しかし、せっかく付けた傷が、オークヒーラーの魔法によって治療されてしまった。


 お互いに一歩も引かない状態が続く。


 しかし、1つの攻撃をきっかけに拮抗した状態が崩れる。


「チチチチチチチチッ!!」

「ニャーッ!!」

「フゴォォ…………」


 ずっと空に居たリリとミラージュで隠れていたクロが、こっそりとオークヒーラーに近づいて思いきり奇襲攻撃を成功させたからだ。


 オークヒーラーが大きな傷を負って膝をついた。


 ここから反撃開始だ。

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