第022話 将来性

「お前たちの持ち場はここだ。作戦が始まるまで待機していろ」


 南側の一番西側を任された俺たち。


 つまり、爆破される塀の一番近く。


 ここがこの作戦で最も安全だと判断された場所だ。


 俺たちが一番実績がなくて若い傭兵になる。


 だからこそ、ここに配置されたわけだ。


「後、どれくらいかかるのかな」

「慎重に大回りするならまだかかるだろうな」


 しかし、待機してからが長かった。


 オークは鼻が良い。気づかれないように離れた場所から包囲する必要があった。


 数時間後、ようやく作戦を開始される。


 ――ドォオオオンッ


 百メートル程先で、大きな爆発音と爆炎が上がる。それなりに離れているのに、その熱気が爆風と共に俺たちの体を撫でた。


 これが作戦開始の合図。


 壁が崩れたところからCランクパーティが侵入する。オークたちは爆発とCランクパーティから逃げるため大半が北東に向かうはずだ。


「皆、準備して!!」

「「「了解!!」」」


 エルがリーダーになって指示を出す。


 一番引っ張っていくタイプの性格なので彼女が適任だと思う。


「リリ、空から偵察して来てくれ。くれぐれも煙に巻かれるなよ?」

「チチチッ」


 リリは俺の肩から飛び立ち、空から状況を把握する。


「やっぱり飛行能力のあるモンスターはそれだけで羨ましいわね」

「それには完全に同意する」


 空を飛べるってだけで、そのアドバンテージは計り知れない。


 地上から攻撃できない位置から攻撃できる手段があれば、それだけで空を飛べない種族は太刀打ちできないし、相手が空を飛んでいる限り奇襲も難しい。


 それに、今みたいに空から地上を偵察させて視界を共有し、情報を得ることもできる。地上に居る時さえ気を付ければ、限りなく無敵に近い。


「弱くてもいいから、またテイムに挑戦してみようかな」

「いいと思うぞ」

「チィイイイイイイッ!!」


 俺たちが話していると、リリの大きな鳴き声が聞こえてきた。


 殺し損ねたオークが爆破されたところを越えて、こっちにやってきたようだ。


「フゴォオオッ」

「フゴフゴッ」


 抜けてきたのは2体。


「イクス、先制!!」

「リリ、ファイヤーボール!!」


 指示に従って空を飛んでいるリリが口から火球を2発吐き出した。


「「プギィイイイッ」」


 上空からオークたちにファイヤーボールが降り注ぐ。


 無防備な顔に火の玉が直撃してオークの顔を焼く。


「よし、イクスとキースは近接攻撃」

「おうよ」

「了解。ルナ、クロ、いくぞ!!」


 キースが大剣を肩に担いで走り、俺はルナとクロを連れてその後を追った。


「おりゃあああっ!!」


 キースの横なぎがオークに襲い掛かる。


「プギィ……」


 その強力な一撃は、硬そうなオークの鎧すら切り裂いて、胴体を一刀両断してしまった。


 上半身が地面に落ち、下半身がヨロヨロと不安定な動きをした後、ぱたりと倒れた。


 たった一撃。たった一撃でオークは物言わぬ死体へと生まれ変わった。


 強い……これがDランクモンスターの恩恵を受け、鍛えた剣士の力。


 負けてられない。


「はぁああっ!!」

「クゥッ!!」

「ニャァアアッ!!」


 俺たちは下半身の同じ場所に攻撃を仕掛ける。


 数日前よりも従魔たちのレベルが上がり、力が増したおかげで、深々と足を切り裂き、その傷をルナとクロがさらに抉った。


「フゴォオオオッ!!」


 それだけでオークはその場に膝を付く。


「プルー、ポイズンショット」

「ピッ」


 傷口に毒を当てて沁みさせた上に毒も体内に摂取させた。


 切り傷でも相当痛いのに、骨まで達しているであろう傷の場合、その痛みは想像を絶するはずだ。その上、体内に直接注入された毒で具合が悪くなって体を震わせている。


「フグゥウウウッ!!」

「止めだ!!」


 俺はうずくまって隙だらけのオークの脳髄に剣を思いきり振り下ろした。


「プギィイイイイッ……」


 オークは断末魔と共に動かなくなった。


「チィイイイイッ!!」


 2体倒した後ですぐにまたオークが1体抜けてくる。


「やるじゃない!! 今度は私に任せて!!」


 エルが構えたのは、引くのにかなり力のいる長弓。


 Dランクモンスターのチャコからの恩恵があれば、余裕で引くことができる。


「やぁっ!!」


 ギリギリと引かれた弓の標準を合せ、解き放った。


「プギィイイイイイ……」


 その矢はオークの目を貫き、矢の半ば程で止まる。


 うわぁ……あれえぐいな……。


 自分がもしそうなったときのことを想像してゾッとした。


「それでは私も。シャープエッジ、ハードアーマー」


 二人の活躍を見たクリスが従魔のラッキーと共に魔法を唱えた。


 俺たちの武器と防具が淡く光を纏う。


 付与魔法か!!


 シャープエッジは武器の切れ味を鋭くして、ハードアーマーは鎧の防御力を高かめる魔法だ。この効果は一定時間続く。


「プギィィ……」


 その直後に抜けてきたオークに斬りかかると、先程は切断できなかった足を切り落とすことができた。


 素晴らしい魔法だ。俺も使えるようになりたい。


 機動力を失ったモンスターなど死んだも同然。


 頭を切り落とし、すぐに止めを刺した。


「3人とも凄いな!!」

「イクスのモンスターの指揮と剣術もいい線いってると思うわ」


 戦いが終わった後、俺たちはお互いに認め合う。


 エルのパーティは凄い。


 Dランクだなんて言ってるけど、3人揃っていればCランクにだってなれそうだ。


 キースの攻撃力とエルの貫通力は特筆すべきところがある。それに、クリスの付与魔法と回復魔法も驚異的だ。


 チャコとカロンも攻撃に参加したら、数匹のオークくらい楽勝だな。


 彼らはこれから頭角を現していくに違いない。


 俺はそう思った。

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