第021話 情報共有

「それでは出発します」


 準備が整ったらしく、パーティの番号順で森の中に入っていく。


 1~5が集落の北側、6~10が東側、11~15が西側、16~20が南側を担当する。北側と東側を担当するパーティの実力が高く、西側と南側は新人が多い。


 予定では集落の南西側の塀を爆破して、南側と西側に配置された部隊のCランクパーティが何組か中に侵入してオークを北東に追い立てることになっている。


 つまり、西側と南側はオークが来なくて安全なため、新人が多く配置されていた。


「おっと、俺たちも行こうぜ」

「そうね」

「分かりました」

「了解です」


 俺たちも後を追って森に入る。


「イクスは沢山の従魔を従えてるわね。羨ましいわ」


 奥へと進みながらエルラさんが振り返って話しかけてきた。


「それを言うのなら、エルラさんたちは皆Dランク以上のモンスターをテイムしてるじゃないですか。そっちの方が羨ましいと思いますけど……」

「あぁ、やめやめ、ちょっと待って」


 返事を聞いたエルラさんが鬱陶しそうな顔で両手を顔の前で振った。


 もしかして俺気に障るようなことでも言ったかな……。


「な、なんですか?」

「それよ、それ。丁寧な言葉遣い。背中がムズムズするから止めてくれない? それにさん付けもいらないから。エルって呼んで」


 不安なまま尋ねると、エルラさんが体を抱くようにして体を振るわせて答えた。


 そこまで丁寧語を毛嫌いするなんて何かあったのかな。


 勿論初対面で聞けるわけもないので、無理やりアイリに話すように修正する。


「そ、そういうことでしたか。分かり……分かった。これでいいか?」

「うぷぷ。ええ、それでいいわ」

「ちょ、ちょっと笑うなよ。慣れてないんだ」

「そうね、私が悪かったわ。ぷぷぷ」


 どうにか直したのにエルに笑われてしまう。他の二人も顔を隠してクスクスと笑っていた。


 皆ひどくないか?


 でも、そのおかげで緊張はどこかにいってしまった。


「さっきも言ったけど、沢山の種類を従魔にしているのは羨ましいわ」


 笑い終えたエルが話を戻す。


「そうかな。皆大事な従魔だけど、それでもEランクだぞ?」


 皆とても可愛い上に、役に立っているし、俺の最高の仲間たちであることは間違いない。


 でも、まだEランク。沢山テイムしているからと言って他の人たちから羨ましがられるようなモンスターではないはず。


「そうは言うけど、どの子もあまり見かけない珍しい種族だわ」

「そんなに珍しいか?」


 メディカルラビットのポーラは珍しいとは思うけど、他のモンスターも珍しいと言えるレベルなのか。


 本でよくかけるモンスターだから、てっきりある程度認知度の高いモンスターだと勘違いしていた。


 ちょっと認識を改めないといけないな。


「そうよ。それに各々で役割分担できるじゃない? 1体だけだとどうしても苦手な部分ができてしまうのよね」

「確かに複数いるとかなり有利に立ち回れるな。でもだからエルたちはパーティを組んでるんだろ?」

「まぁそうなんだけどね」


 まぁ、いわゆるない物ねだりって奴なんだろうな、お互いに。


 その後もキースとクリスも交えて話しながら森の奥へと進んでいく。


 3人は同じ町で育った幼馴染で隣の町出身らしい。各々がテイマーとしての能力に目覚めた。


 でも、テイマー学院には興味がなくて、テイムモンスターと自分の能力を活かして、お金を稼ぐために傭兵になったそうだ。


「命の危険がある仕事なのによくやろうと思ったな」

「冒険しなければ死ぬ可能性は低いし、テイマーとしての力があるから割と稼ぎやすいし、自分の好きなように生きられる。他の職業じゃ上下関係厳しいし、稼ぎも限られてる。今みたいな生活はできないと思うぜ」


 俺の疑問にキースが答える。


 確かに彼の言う通りかもしれない。彼らくらいのテイマーなら傭兵をしている方が普通の仕事よりもはるかに稼げるだろうな。


 Eランクモンスターを5体テイムしている俺でも結構稼げるようになってきたし。


「逆にイクスの話も聞かせてくれよ」

「そ、そうだな。分かった」


 相手の話を聞けば、こっちの話も気になるのは当たり前だ。話してみて分かったけど、彼らは良い人たちだ……でも、俺には本当のことを言う勇気はなかった。


「そうだな。俺は……」


 できるだけ退学には触れないように傭兵をやるまでの経緯を話した。


「へぇ、テイマー学院の卒業できなかった組か」

「まぁね」


 テイマー学院を卒業できない生徒はごまんといる。


 エルたちは、俺をその生徒たちと同じだと勘違いしてくれた。俺はそれを良いことに、上手いこと話を取り繕うことに成功した。


「それにしても退屈ね」


 ずっと皆と話しながら進んでいると、エルがポツリと呟く。


「そうだな。でも、気は抜くなよ」

「分かってるわ」


 エルの言いたいことも分かる。


 100人くらい森に入っているので、弱いモンスターは逃げてしまい、全然近づいてこない。逆に強いモンスターは実力のある先輩傭兵たちが狩ってしまって近くにはいない。


 それに、リリたちに各々の得意分野で警戒してもらっているし、チャコたちもいる。よっぽど隠れるのが得意なモンスターでもない限り襲ってくることはない。


 こんな風に話しながらのんびりと進めるのもそのせいだ。


 でも、逆に緊張がなくなりすぎて良くない気がする。


 俺たちはそのまま目的地まで何事もなくたどり着くことができた。


 しかし、その時の俺は気づかなかった。


 それが嵐の前の静けさだということを。

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