第020話 同業者との邂逅

 2日後。


 俺はオーク殲滅作戦に参加するため、北門を出てすぐの場所にやってきた。


「オーク集落殲滅作戦に参加される傭兵の方は、こちらで受付してください!!」


 そこでは、ギルド職員によって案内された沢山の傭兵が律儀に並んでいる。今まであまり会うことがなかった大勢の同業者に少し緊張感が高まってきた。


「イクスさんですね。こちらの番号札をお持ちください。後で使用しますので、無くさないようにお願いします。あちらでお待ちください」

「分かりました」


 俺も受付に並び、手続きをして開けた場所で待つ。


 辺りを見回すと、俺以外にも従魔を連れている人たちが何人もいた。正直学院での出来事のせいで、自分以外のテイマーに苦手意識がある。


 でも、せっかく再出発できたんだから、同じテイマーとして仲良くできたらいいなという意識もあった。


「諸君、よく集まってくれた!!」


 集合時間になったところで、50代過ぎの屈強なスキンヘッドの男が、あらかじめ用意された小さな壇の上に乗って声を張り上げる。


 その声はそれなりに距離が離れているにもかかわらず、自然と耳に届いた。


 彼はこの街の傭兵ギルドのギルドマスター、ゼルラン。


 今でこそ傭兵稼業を引退し、ギルドマスターをしているけど、昔は最強の傭兵の一人だったらしい。


 ギルドマスターからにじみ出る威圧感は、明らかにオークを軽く超えている。かなり距離があるにも肌にビリビリとした痺れが走るほどだ。


 彼一人でも今回の作戦は達成可能なのではないだろうか。


 まぁ、その辺は色々な事情で街を離れられないのかもしれないな。


「我々はこれから北の森にできたオークの集落を殲滅する。作戦内容は事前に通達していた通り……」


 今回はオークの集落を大勢の傭兵で囲んで1匹残らず殲滅するという、かなりの強引な作戦だ。


 今ちょうど西の山でも異常事態が起こっていて、高ランクの傭兵たちが軒並みそっちにかかりきりになっているため、作戦の中心が街に残っていたCランクの傭兵たちになるのが原因らしい。


 見る限り、ここには100名くらいの傭兵が結集している。数には数で対処しようということだ。


 集落内に侵入したCランクの傭兵たちが撃ち損じたオークを漏らさずに殺すのが、俺たちの主な仕事だ。


「今回は渡した番号札でパーティを組んで行動してもらう。人数が揃ったら、待機していてくれ。全部のパーティの準備が整ったら、案内係が現場まで先導する。速やかにパーティを作ってくれ。以上だ」


 必要事項を言い終えたギルドマスターは、壇降りて少し離れたで泊まり、腕をくんで目を瞑った。


「俺は1番だ!! 1番のやつは俺のところに集まってくれ!!」

「私は3番!! 3番の人は手を挙げてください!!」


 各々のやり方で自分のパーティに集まっていく。


 パーティなんて一度も組んだことがないから滅茶苦茶不安だ。


「20番の人ー!!」


 ドキドキしていると、俺と同じ番号の人の声が近くから聞こえた。


「あ、はい、同じです」

「あぁ、良かった。近くにいたのね」


 その声の主は軽装備に身を包む同年代の女の子。


 肩口ぐらいまでのオレンジがかった金髪と猫を思わせる大きな瞳をもっていて、少し気の強そうな見た目をしていた。


 胸当てなどの動きやすい防具と、背中に弓と矢筒を背負っていることから弓使いだと思われる。


 そして、彼女の横には俺と同じように従魔がいた。


 彼女の横にいるのはフォレストドッグよりも大きな狼、グレイウルフ。灰色の毛をもっているDランクのモンスターだ。


 とても強そうな上に、凄く凛々しくてかっこいい。


「ねぇ、どうしたの、そんなにチャコを見て。もしかして惚れちゃった?」

「あ、いや、そんなことは……」


 グレイウルフをジッと見つめ過ぎて変な風に誤解をされてしまった。


「でも、あげないわ。うちの子だからね」

「あははは……」


 女の子はグレイウルフを隠すように抱え込んでニッコリと笑う。


 俺は苦笑いで返すしかなかった。


「おい、困ってるだろ。いいかげんにしろよ、エル」

「そうですよ、おいたをすると、めっですよ?」


 見るに見かねて女の子の後ろに控えていた同年代の男と、自分よりももう少し年上にみえる女の子が話に割り込んでくる。


 オレンジ色のトゲトゲした髪の毛の男は、防御力よりも動きやすさを重視した革製の防具を身に着けていて、背中に巨大な剣を背負っている。


 彼にも従魔が付いていて、1メートルを超える真っ赤なトカゲ。Dランクモンスターのファイヤーリザードだ。


 もう一人の女の子は、薄紫色のロングヘアーとおっとりした瞳で、優し気な雰囲気を纏っている。白を基調としたローブを身に着けていて、まるで僧侶のように見えなくもない。


 彼女の隣にも従魔がいて、それは宙に浮かぶ真っ白な毛玉。幸運を呼ぶ言われる、光属性の幻獣系モンスター、ケサランパサラン。戦闘能力はポーラと同じように低い。その反面、回復魔法が強力で、Cランクに属している。


 3者ともに遠近揃った攻撃手段と、回復能力をもっている凄くバランスの取れたパーティだ。全員がテイマーと言うのも珍しい。


「分かってるわ。冗談よ。私はエルラ。弓使いで皆はエルって呼ぶわ。Dランクの傭兵よ。こっちの子はグレイウルフのチャコ。よろしくね」

「俺はキース。大剣使いで同じくDランク傭兵だ。こいつはファイヤーリザードのカロン。よろしくな」

「私はクリスと言います。主に回復を担当しています。この子はケサランパサランのラッキー。よろしくお願いしますね」


 近づいてきた彼らとお互いに自己紹介と握手を交わす。


「俺はイクス。剣士でDランクになったばかりだ。こいつらはレッドファルコンのリリ、メディカルラビットのポーラ、アイスフォックスのルナ、ブルースライムのプルー、サイレントキャットのクロロだ。よろしく」


 こうして俺は初めて同業者の傭兵たちと関わることになった。

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