第019話 強制依頼
傭兵ギルドに戻ってきた俺は顔なじみの受付嬢に話しかける。
「こんにちは」
「イクスさん、こんにちは。換金と依頼の達成ですね。魔石とアイテムのご提出をお願いします」
まずはいつものように換金と依頼の達成処理。その後でオークの集落の事を話す。
「それと、北のノワールの森の中層の西側でオークの集落を見つけました」
「本当ですか!? すぐにこちらへ」
話を聞いた受付嬢は、血相を変えた受付嬢は俺を応接室へ連れていく。
「オークの集落を見つけたとのことですが、詳しい話をお聞かせ願えますか?」
「分かりました」
まず、リリと視覚共有をして描いた森の地図を渡した。その後で、地図を見ながら、自分たちが森をうろつくオークと遭遇してからオークの集落発見までの経緯を語って聞かせた。
「なるほど。分かりやすくまとまった説明と情報、そして地図ですね。裏取りはしますが、これがあれば随分早く動き出せます。ありがとうございました。情報提供の報酬もお渡ししますので少々お待ちください」
「え? そんなもの貰えるんですか?」
「はい。こういう情報は早ければ早いほどいいですからね。イクスさんにお持ちいただいた情報はそれだけ価値があるということです。それでは、少々お待ちください」
このくらい、この街に住む者として情報提供して当然だと思っていたけど、そうでもないらしい。
「お待たせしました。こちらが報酬になります」
「こ、こんなに!?」
戻ってきた受付嬢さんが差し出した小袋の中を覗くと、金貨が入っていた。
金貨なんて1枚あれば、一般家庭なら1月は余裕で暮らせるだけの価値がある。それが軽く10枚は入っている。
「はい、このくらい当然ですよ。情報ありがとうございます」
「い、いえ……」
俺は呆然となりながらもなんとか返事をする。
まさか、報酬が貰えるとは思わなかった。そのおかげでこれで母さんの薬代の目標金額にかなり近づいた。
「それから、イクスさんはDランクに昇格となりました。おめでとうございます。こちらが新しいギルドカードになります。古いカードはご返却いただけますか?」
「分かりました」
しかも昇級までしてしまった。
傭兵ギルドもモンスターと同じようにランク分けされている。Dランクになると、傭兵として一人前に見られるようになる。
ついに俺もDランクか。そう思うと、嬉しい気持ちになった。
明日からもコツコツ頑張ろう。
「今日はありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」
「はい、また明日」
受付嬢さんに別れを告げ、ギルドを後にした。
「ただいま」
「おかえり~」
家に辿り着いた俺は森で獲れた食材を取り出した。
「え、何これ、どうしたの?」
「昨日、新しい力を手に入れたおかげで沢山荷物を運べるようになってな。依頼で必要なアイテムの他に、目についた食べられそうな食材も集めてきたんだ」
「そうなんだ!! 凄ーい!! これで食事が華やかになるね!!」
アイリが机の上に並ぶ山菜やキノコ、果物や木の実などを見て嬉しそうに笑う。
こんな笑顔が見られるのなら、これからも毎日獲ってくるしかないよな。
「ああ。これからもっと美味しい物が食べられるようにするから。待っててくれよ」
「ありがとう、お兄ちゃん。でも無理しないでね」
「分かってるよ」
心配そうな顔をするアイリの頭を撫でる。
「それと今日臨時収入があってな。母さんを治せる薬の代金に大分近づいたんだ」
「ホントに!?」
俺の報告を聞いたアイリが顔をガバリと上げて目を見開いて尋ねてきた。
「ああ」
「やったー!!」
頷くと、アイリは嬉しそうに飛び跳ねる。
日に日に少しずつ容体が悪くなっていく母さんの姿を見ているアイリには、嬉しくてたまらない話だろう。俺もようやくここまでこれて少し安堵している。
でもきちんと釘を刺しておかないといけない。
「安心するのはまだ早いぞ。喜ぶのは母さんが治ってからだ」
「えへへ、そうだね」
アイリは恥ずかしそうに頬を赤らめた。
それから俺たちは夕食を食べ、お風呂に入って床に就いた。
「チィ……」
「プゥ……」
「クゥ……」
「ピィ……」
「ニャ……」
皆寂しそうにするので、今日は育成牧場に送らずに一緒に寝た。
「オークの集落が発見されました!! 2日後に殲滅作戦を行います。手の空いているDランク以上の傭兵は基本的に強制的に参加となります。理由もなく参加されない場合、ペナルティが課せられますのであらかじめご承知くださいますようお願いいたします。詳細はクエストボードをご覧ください」
「え……」
そして翌日の朝、いつものようにギルドに顔を出すと、声を張り上げるギルド職員の声を聞いて呆然とすることになった。
だって、昨日ランクアップしたがために、俺はオークの集落の殲滅作戦に参加しなければならなくなったから。
今日もいつものように依頼のアイテムを収集したり、モンスターを狩って過ごそうと思っていたのに……タイミングが良いのか悪いのか、判断に悩む。
もしかして……ギルド側が俺を逃がさないように意図的にランクアップさせたんだろうか。
その線もありえそうだ。こうなったら、覚悟を決めて参加するしかない。
俺は受付嬢さんのところに向かう。
「イクスさん、おはようございます」
「おはようございます」
「イクスさんもオークの集落殲滅作戦へのご参加お願いしますね」
ニッコリと笑う受付嬢さんを見て、後者だと確信した。
そ、組織って怖い……ガクガクブルブル。
「も、勿論です。あははは……」
俺は苦笑いをする他なかった。
こうしちゃいられない。
オークの集落殲滅作戦に参加するのではあれば、装備や道具の手入れや在庫を完璧にしておかなければならない。
俺は作戦までの2日間を準備期間に当てた。
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