第014話 才能の萌芽
「あぁ……そうだ、そういえば、そうだった……」
俺は最近SSSランクの潜在能力を持つEランクモンスターを4体をテイムしていることですっかり忘れていた。
俺がなぜ学院を退学させられることになったのかということを。
"Gランクモンスターしかテイムできない"
そもそもの原因はこれだ。
もしかしたらと思ったけど、従魔がEランクモンスターに進化したからと言って、Fランク以上のモンスターがテイムできるようになるわけじゃないらしい。
くっ……サイレントキャット……フワフワで可愛かったのに……。
俺は泣く泣くサイレントキャットのテイムを諦めた。
「悪いな。俺じゃあ、お前をテイムできないみたいだ。行っていいぞ」
「なーん」
しかし、森に帰そうとしたら、サイレントキャットは俺の足に頭を擦りつけながら行ったり来たりして、離れていこうとはしなかった。
テイムしなくてもモンスター側が気に入れば、人に懐くことはある。
ただ、気を付けなければいけないのは、テイムしている訳じゃないから人に危害を加える可能性があること。
それだけは忘れてはいけない。
「お前は優しい奴なんだな……」
「ごろごろ」
俺が頭を撫でると、サイレントキャットは気持ちよさそうに目を細めて喉を鳴らした。
一度懐かれると、放っておくのは難しい。
「お前、ついてくるか?」
「なおーんっ」
サイレントキャットは返事をするようにひと際大きく鳴いた。
性格も穏やかだし、なんとかなるか……もし誰かを襲うようなことがあったら、俺が間に入って命がけで止めよう。
俺はサイレントキャットを連れて帰ることにした。名前はテイムできなかったので、一旦保留だ。
その後、今日のノルマを終えるまで一緒に採集とモンスター狩りを行った。
テイムしていないにもかかわらず、俺の指示に従い、仲間達との連携もとれていて、さらに効率的に稼げた。
「あれ、全部テイムモンスターなのかな」
「5匹って凄いよね」
「でも、全部Eランクモンスターだし、大したことはないでしょ」
「Dランクモンスター1体より有用だと思うなぁ」
流石にモンスターを5匹も連れているテイマーは少ない。
そのため、街に帰ってきてから、変に目立ってしまった。
注目を浴びるのに慣れていない俺は、傭兵ギルドでそそくさと換金を行い、気配を殺して家へと戻った。
「ただいま」
「おかえり……ってまたなの?」
家の中に入るなり、俺の胸元を見てアイリがあきれ顔になる。
「そうだけど、そうじゃないっていうか……」
「どういうこと?」
「この子はテイムできなかったんだ。でも、凄く懐いていてな。放っておけなくて連れてきたんだ」
「へぇ~、そうなんだ」
不思議そうな顔をするアイリに説明すると、妹はサイレントキャットを興味深そうに見つめた。
「なーん」
「あっ」
サイレントキャットが俺の腕を抜け出してアイリに跳びかかる。
俺が最も心配していたことが!?
俺はすぐにアイリからサイレントキャットを引きはがそうと近づいた。
「あはははっ。くすぐったぁい」
しかし、アイリが楽しそうに笑う声でハッとする。
よく見ると、サイレントキャットはアイリの肩で顔をペロペロと舐めていた。
「はぁ……」
何事もなくて本当に良かった。
ただ、ちょっと不思議だ。
俺のモンスターたちもアイリに懐いてはいるけど、一番は俺だし、最初は少しだけ警戒していた。でも、サイレントキャットは俺以上にアイリに懐いている。
これってもしかして……。
「あれぇ?」
この現象に思い当たることを考えていると、アイリが変な声をあげた。
「どうかしたのか?」
「うーんとねぇ、私なんとなくこの子が言いたいことが分かるかも」
「やっぱりか」
アイリから聞いた言葉で俺は確信する。
まさか俺だけじゃなくてアイリまでだなんてな……。
「何が?」
「それはテイマーが一番初めに目覚める感応能力だ。共感したモンスターの言いたいことがなんとなく分かるようになる」
「えっと、それってもしかして……」
説明を聞いて、戸惑いながらも期待するような瞳で俺を見るアイリ。
アイリはずっとテイマーに憧れていたもんな。
妹は自分の予想が肯定されるのを今か今かと待ちわびていた。
「ああ。アイリはテイマーの才能がある」
「ホントに!?」
「間違いない」
「やったぁああああっ!!」
アイリはサイレントキャットを高い高いしながらクルクルと回って嬉しさを爆発させる。
テイマーの才能は遺伝する。そう言われている。
だから、全く素養がなかった家庭に何人もテイマーが生まれるのは珍しい。うちみたいに両親が一般人で、兄妹そろってテイム能力を持つ家庭はかなり稀なケースだ。
「ナン?」
サイレントキャットはキョトンとした顔で首を傾げている。
「どうすればテイムできるの?」
「サイレントキャットとアイリの器次第だ。器の大きさが足りているなら、サイレントキャットが受け入れればすぐにでもできるはずだ」
モンスターをテイムできる容量には限りがあり、人によってその大きさは異なる。
容量さえ足りていれば、後必要なのはお互いの合意だ。
ちなみに、モンスターのランクが高ければ高いほどその容量を使ってしまう。
容量が小さければ小さいほどランクの低いモンスターしかテイムできないし、大きいければ大きいほどランクの高いモンスターや沢山のモンスターをテイムすることができる。
だから俺の容量は、限りなく小さいと判断されていた。
「そうなんだ。ねぇ、私と契約してくれる?」
テイムの方法を知ったアイリは、サイレントキャットを自分の顔の前に持ち上げて確認する。
「にゃーん」
「わぁーい!! してくれるって!!」
嬉しそうな鳴くサイレントキャットを見て、期待した目で俺を見てくるアイリ。
「そうか。それじゃあ、まずは名前を考えないとな」
微笑ましい気持ちになった俺は、アイリの頭を撫でた。
「分かった!!」
アイリはサイレントキャットをテーブルに置き、腕を組んで悩み始める。
「……決めた!!」
しばらく悩んでいたアイリだったけど、ハッとした表情で顔を上げる。
「それじゃあ、試してみようか」
「うん!!」
アイリは嬉しそうな笑みを浮かべた。
それは、母さんが倒れてから一度も見られなかった、心の底からの喜びに満ちた笑顔だった。
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