第015話 そ、そんなことができてしまっていいのか!?

「気持ちを込めて、テイムって唱えるんだ。その後、命名、付けたい名前、だな」

「分かった!!」


 やり方を説明すると、アイリは調子よく手を上げた。


 サイレントキャットと向かい合い、祈るように目を閉じて胸の前で手を組む。


「テイム。命名、クロロ。受け入れてくれたら嬉しいな」

「にゃおーんっ」


 静かに唱えられた言葉。


 目を開けてアイリが微笑みかけると、サイレントキャットが応えるように鳴いた。


 お互いを淡い光が包み込み、サイレントキャットから光の糸がアイリに向かって伸びていく。


 その糸がアイリの体に触れると、お互いの体を包む光が一層強くなった。


 数秒後、その光は飛び散るように消えてしまった。


「どうだ?」


 確認すると、アイリは何かを実感するように手を開いたり閉じたりする。


 俺も初めてリリをテイムした時はこんな風だったっけ。


「……成功したみたい!! なんだかクロロとの繋がりを感じるよ」


 しばらく待つと、ガバリと顔を上げてニシシと笑顔を咲かせた。


「おおっ、良かったな!!」

「えへへ、ありがとうお兄ちゃん!! クロロ、これからよろしくね」

「ナーン」


 嬉しそうにはにかむと、アイリがクロロを抱き上げる。クロロも嬉しそうにアイリに頬ずりした。


 アイリがサイレントキャットをテイムできたことに思うところは一切ない。それどころか自分のことのように嬉しかった。


 良かった……俺みたいにならなくて……。


 二人の姿を見てそう思う。


 ないとは思っていたけど、もしかしたら、俺と同じようにGランクモンスターしかテイムできない可能性もあった。


 俺は運よくブリーダーの力に目覚めたけど、目覚めない可能性もある。


 アイリに才能があったことが心の底から嬉しかった。


「ねぇねぇ、これからどうしたらいいの?」

「ん? クロロとコミュニケーションを取って仲良くなればいいぞ」


 テイマーの基本にして一番大切なことは、テイムモンスターとしっかりコミュニケーションをとることだ。


 お互いのことを深く理解してこそ、力を十全に発揮できるようになる。


 知識や技術なんてのはその後で十分だ。


「それだけでいいの?」


 拍子抜けした表情を浮かべるアイリ。


「母さんを放っておくわけにはいかないし、実戦はまだまだ早い。できるとすればそれくらいだな」

「それもそっか」


 説明を聞いたアイリは、クロロと楽しそうに戯れ始めた。


 二人ともとても幸せそうだ。


 その様子を見ていてふと話を切り出す。


「アイリ、13歳になったらテイマー学院に行きたいか?」


 テイマー学院は国が運営するテイマー養成学校。あそこ以上にテイムのことを学べる場所はない。


 俺は弱者に厳しいあの学校にいい思い出はないけど、Eランクをテイムできたアイリなら周りに蔑まれることもないだろう。


 それに、卒業すれば正式なテイマーとして輝かしい人生が待っている。


 アイリが行きたいと思うのなら通わせてやりたい。


「うーん、でもお母さんが心配だし、お金も沢山かかるんでしょ?」

「母さんのこともお金のことも大丈夫だ。本音はどうなんだ?」


 俺はEランクモンスターを4体テイムしている。


 すでにGランクしかテイムできなかった時とは比べ物にならないくらい稼げるようになった。


 目標の薬代も見えてきている。


 このまま仕事を続けていれば、リリたちはDランクに進化するだろう。


 4体のDランクモンスターを従魔にできたら、テイマー学院を卒業し、正式にテイマーになった奴らにだって負けない収入になるはずだ。


 それくらい稼げればテイマー学院の学費くらい捻出できる。


「そう……だね。ちょっと行ってみたいかな。学校ってところに興味あるし、自分と同じテイマーの人たちとも会ってみたい」

「そうか。分かった、俺に任せておけ」


 妹の願い、絶対に俺が叶えてみせる。


「それじゃあ、ご飯にしよっか」

「そうだな」


 テイムが終わったので夕食の準備を始めた。


 ただ、ちょっと残念なのはクロロのこと。


 クロロは俺がテイムできていたら、Aランクのモンスターまで進化させられたんだよな……。


 この街はモンスターが溢れる魔境が近くにあるため傭兵が数多く集まっている。傭兵は荒くれ者が多い。だから喧嘩沙汰なんて日常茶飯事。


 アイリだっていつトラブルに巻き込まれるか分からない。それに、父さんが死んでしまったように、街がモンスターに襲われる可能性もある。


 Eランクでは護衛としては心許ない。


 Dランクなら、アイリを害しようとする人たちは少なくなるし、Cランクだったら、よほどの命知らずかバカでない限り、まず危害を加えようとは思わないはずだ。


 それに、Dランク以上のモンスターをテイムしていれば、テイマー学院で舐められることもない。


 せめてDランクまで育てられたらよかったのに……それだけが心残りだ。なんとかできないものだろうか……。


『テイムモンスターは、契約主の代わりに育成することが可能です』


 そんな風に悩んでいると、突然ボードが表示された。


 どういうことだ?


『対象モンスターの契約主の承諾を得て代理育成契約を結ぶことで、そのテイムモンスターの契約主に代わって進化・育成することが可能になります。そして、一定の成果毎に報酬も授与されます』


 首を傾げる俺の前に、別のボードが浮かび上がってきて、先ほどの問いの意味を説明してくれる。


 ま、まじか……そんなことができてしまっていいのか!?


 その内容を見て、俺は驚愕せざるを得なかった。

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