第012話 力だけじゃない
「ふぅ……初めて一人でファングボアと戦ったけど大丈夫そうだな」
以前は死にそうになったEランクモンスターもなんなく倒せるようになった。
学院では全く成長できない自分に焦燥感ばかりが募ったけど、こっちに帰ってきてからどんどん強くなっているのを感じる。
それが嬉しい。
「ピピィ」
「うわっぷっ……ゴホッゴホッ」
考え事をしていたらいきなり水を浴びせられて咽てしまった。
犯人はプルー。
なんでこんなことをしたのかと思ったら、ファングボアの血を洗い流してくれようとしたみたいだ。
興奮で忘れていたけど、結構血なまぐさい臭いが漂ってくる。
「あっ」
そこで自分の中に還元されているのは、身体能力だけじゃないことを思い出した。
そして、テイマーとしての感覚が考えたことを実現できると訴えかけてくる。
俺が空に向かって手を翳して唱える。
「アクアブレット」
体の中から何かが抜けるような感覚と共に、手のひらの先に何かが集束していくのを感じる。
その何かは青みを帯びた球体へと変わり、バシュッと勢いよく空に向かって打ち出された。
打ち上げられたものが落ちてくるのは道理。
球体は真下に居た俺に落ちてきた。
――バシャンッ
その球体が俺にあたると弾けて俺をずぶ濡れにする。
「できた!! できたぞ、魔法だ!!」
そう、これはプルーが俺に使った魔法。
魔法は、元々素質がないものには使えない。
でも、唯一後天的に使えるようになるのがテイマーだ。テイマーはテイムしたモンスターの力の一部を借りることができる。そこには勿論魔法も含まれている。
アルカ先生が強力な回復魔法を使えるのも、先生のテイムモンスターが非常に高ランクのモンスターだからだ。
つまり、僕もついにその恩恵を受けれられるようになったってことだ。
これを喜ばずして、何を喜ぼうか!!
Fランクモンスターの時に魔法が使えなかったのは、俺に還元される力が足りなかったせいだと思う。
それがEランクモンスターになって力が大きくなったおかげでこうして使えるようになったわけだ。
「くっくっく。つまりこういうこともできるわけだ。ファイヤーボール!!」
――ゴォオオッ
俺はファングボアに手を翳して魔法を唱える。
掌の先に大人の頭くらいの火球が出現してファングボアの死体に飛んでいって直撃。死体を焼いて香ばしい臭いが漂う。
「やっばっ!!」
森の中で火の魔法はご法度だったのを忘れてた。
幸い、ファイヤーボールは火の魔法の中で最も弱い魔法だったので、死体が燃え上がることはなかった。
強い魔法を使えるようになった時は気を付けようと思う。
「他に使えそうなのは……ヒール!!」
最後にもう一つ使えそうなのは回復魔法だ。
俺はさっきファングボアの突進を受け止めた時に手についた切り傷に魔法を放つ。
手が淡い緑色の光に包まれると、手のひらについていた小さな切り傷が跡も形も残らず綺麗さっぱり消えてしまった。
「おお、凄い!! 凄いぞ、これは!!」
俺は初めての魔法に感動してしまう。
まさか落ちこぼれの俺が魔法まで使えるようになるとは思わなかった。
本当にブリーダーの力様様だ。
「よし、魔法をモンスター相手にも試してみよう」
魔法も実験で試したくなった俺は、皆に頼んでモンスターを探してもらう。
「あれは、ホブゴブリン」
見つかったのは、俺のにっくき敵ホブゴブリン。
殺されかけた相手はきちんと倒したけど、どうしても死にかけた時のことを思い出して過剰反応しまう。
「ファイヤーボール!!」
燃え上がるような威力はないので、ホブゴブリンの顔めがけて魔法を放った。
「グガァッ!!」
奇襲によって顔にファイヤーボールが直撃して大きく燃える。
ジュウウウウッと肉が焼けるような音が聞こえると同時に、ホブゴブリンは悲鳴を上げて顔を両手で覆う。
「うわぁ……」
あれだけ隙だらけだと一瞬で倒せてしまう。
「アクアブレット」
「グガ?」
せっかくだから水の魔法も練習しておこう。冷やされて痛みが引いたゴブリンが不思議そうに頭を捻る。
「ファイヤーボール!!」
「グガッ」
正面からファイヤーボールを放つと、ホブゴブリンはサッと躱した。
生意気な!!
俺はファイヤーボールを連発で放つ。
「グガァッ」
しかし、全然魔法の間隔が長くて、ホブゴブリンに全て回避されてしまった。
ホブゴブリンは俺に迫ってきて拳を振るう。
――パシッ
ホブゴブリンの攻撃は完全に見えている。俺はその拳を片手で受け止めた。
「グゴッ!?」
ホブゴブリンは驚いて目を見開いて俺を見る。
やっぱりもうEランクモンスターより全ての能力が上回っていた。
思いきり腹を殴ると、ボキボキボキと骨を砕く感触が手から伝わってくる。
「ガハッ……」
吹き飛んだホブゴブリンが膝をついて血を吐いた。その腹部には穴が開いていた。致命傷だ。
「ファイヤーボール」
俺は止めを刺すために魔法を放つ。
ホブゴブリンは躱すことができずに炎に焼かれた。
「ファイヤーボール、ファイアボール、ファイヤーボール、ファイヤーボール!!」
ダメ押しとばかりに火球を連発。
後に残ったのは、プスプスと煙をあげる黒焦げた姿だった。
「うっ……」
戦闘が終わった途端、急にめまいがしてその場に蹲る。
これは……もしかして魔力欠乏症か?
魔法を使うには魔力というエネルギーが必要になる。魔法を使いすぎて魔力が底をつくと、めまいや吐き気などの症状が出るらしい。
ちょっと、調子に乗って魔法を使いすぎた。
「すまん、少し休ませてくれ」
俺は木の根元に腰を下ろし、幹に背中を預ける。
魔法はEランクモンスター相手にも効果があることが分かった。今後は魔法も織り交ぜて戦闘していこう。
ただし、使い過ぎは禁物だ。
「チィ」
「プー」
「クゥ」
「ピィ」
今度はリリたちの番だ。
少し休んだ後、リリたちにもEランクモンスターと戦ってもらう。
4人で一緒に戦ったらあっさりと倒してしまったので一対一で。
戦闘力が上がらなかったポーラは棄権。
リリは空を飛んで敵を寄せ付けず、ファイヤーボールで火傷を負わせてじわじわと追い詰めて、急降下のつつき攻撃でとどめを刺した。
ルナもアイスブレスで敵の動きを阻害して、弱ったところを引っかき攻撃で傷を与えて討伐。
プルーはアクアブレットで牽制しながら、近づいてポイズンショットを放って、相手を毒状態にしてじわじわと体力を削って弱らせ、毒を蓄積させて殺した。
皆も危なげなく倒すことができた。
「皆、強くなったなぁ」
俺は感慨深く皆を眺める。
そうだ。テイムするモンスターを増やせば、もっと強くなれる。潜在ランクが高いモンスターを探し出してテイムしよう。
俺は改めてモンスターの潜在ランクをチェックすることに決めた。
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