第011話 恩恵の強化

『承認されました。個体名リリ、ポーラ、ルナ、プルーの進化を開始します』


 プルーの進化と同様に頭の中に無機質な声が流れてきて、皆の姿が光に包まれる。


「チチィ」

「プゥッ」

「ククッ」

「ピィッ」


 4つの光が蠢いて姿を変えていく。


 1分ほど経つと形が定まり、光が飛び散って皆が姿を現した。


 FランクモンスターからEランクモンスターになった。


 今までとは面構えが違う。これは進化を潜り抜けた者にしかできない顔だ。


 リリは全体的にオレンジがかっていて、所々炎のように赤い体毛を持つモンスターへと進化していた。


 シマナーガの時と比べ、さらに体が大きくなり、少し凛々しい顔つきになっている。


 これはレッドファルコンと呼ばれるモンスター。


 空を飛びまわる上に、火の玉を放つ魔法、ファイヤーボールで遠距離攻撃までできる。相手にするのは非常に厄介なモンスターだ。


 次にポーラ。


 ポーラも体がおおきくなって、全体的な毛色が薄い緑色へと変わった。リリとは違い、顔は可愛らしいままだ。


 鼻の辺りをヒクヒクとさせている。


 ポーラはメディカルラビットという種族へと進化した。


 メディカルラビットはヒールは勿論、毒を解毒する魔法であるアンチドートも使うことができる。


 Eランクながらメディカルラビットはその能力ゆえに、テイムしていればまず仕事に困ることはないため、非常に人気の高いモンスター。


 でも、個体数が少ないため、中々テイムできないレアな存在だ。


 3番目はルナ。


 ルナもさらに体が大きくなり、少し顔つきが凛々しくなって、足の爪が鋭くなっている。


 これはアイスフォックス。


 スノーフォックスの上位版で、鋭い前脚の爪と牙から繰り出されるひっかき攻撃と、相手を凍らせるアイスブレスが特徴のモンスターだ。


 アイスブレスは凍傷などになって、動かせなくなってしまうし、放っておいたら大変になるので、相手にするのに対策が必要になる。


 そして、最後はプルー。


 見た目が暗めの紫っぽい色に変化した。


 こいつはポイズンスライム。


 体当たり攻撃が特徴だけど、体から毒を分泌して体当たりするだけで、相手が毒に侵されてしまうという危険なスライムだ。


 しかも毒の体液を飛ばしてくることもある。


 例え倒せるとしても、よほど差がない限りは解毒の手段がないのなら関わらないのが一番だ。


 それぞれのステータスを確認しておく。


 ―――――――――――――

 個体名:リリ

 種族 :レッドファルコン

 属性 :火

 レベル:1/20

 ランク:E

 スキル:ファイヤーボール

 状態 :良好

 進化条件

 ①アチチ草×100

 ②Dランクの魔石×20

 ③レベル上限

 ―――――――――――――

 個体名:ポーラ

 種族 :メディカルラビット

 属性:光

 レベル:1/20

 ランク:E

 スキル:ヒール

     アンチドート

 状態:良好

 進化条件

 ①メディチ草×100

 ②Dランクの魔石×20

 ③レベル上限

 ―――――――――――――

 個体名:ルナ

 種族 :アイスフォックス

 属性:氷

 レベル:1/20

 ランク:E

 スキル:アイスブレス

 状態:良好

 進化条件

 ①ヒエヒエ石×100

 ②Dランクの魔石×20

 ③レベル上限

 ―――――――――――――

 個体名:プルー

 種族 :ポイズンスライム

 属性 :水・毒

 レベル:1/20

 ランク:E

 スキル:アクアブレット

     ポイズンショット

 状態 :良好

 進化条件

 ①ミンミンダケ×100

 ②Dランクの魔石×20

 ③レベル上限

 ―――――――――――――


「おおっ」


 皆のレベル上限が上がり、進化条件がちょっと厳しくなった。


 いつまでも簡単に進化できるような上手い話はないか。やっぱりランクに応じるだけの条件が課されるってことだよな。


 ここからは長い目で見てやっていこう。


 そして、皆がEランクになったことで、体の奥からFランクの時とはケタ違いの力が溢れてくるのを感じる。


 リリの視覚、ポーラの聴覚、ルナの嗅覚、プルーの感知能力、それらが俺の体に影響を与え、今までよりも明らかに五感が鋭くなった。


「これは……ファングボアか?」


 そのおかげで何もしなくても得られる情報量が増加し、足音や匂いなどから近くにファングボアがいることを感知できた。


 ファングボアはEランクのイノシシ型モンスターで、体高が1.3メートルほどあり、下顎にある2本の牙が空に向って真っ直ぐに伸びている。


 その牙が体に似合わなぬ程に太くて大きく、まるで巨大な生物の骨かのような存在感を放つ。


 そのファングボアがこちらに向かって猛然と走ってきている。


「ちょうどいい。力を試させてもらおう。皆は手を出さないでくれ」


 ――バサァッ


 藪の中から俺に向かって突進してきたファングボア。そのまま俺に体当たりするつもりだ。


 俺はその攻撃を躱す…………ことなく、右腕を突き出して受け止めた。


 ――ズドンッ


 凄まじい衝撃が俺の腕に加わる。ザザザザッと靴と地面がこすれて音出しながら、俺は数メートルほど後退されられる。その後、ファングボアの勢いが徐々に衰えてきて、数秒後に完全に止まった。


「ブォオオオオオッ!!」


 俺を吹き飛ばせなかったファングボアが怒る。地面を蹴って俺を押しのけようするけど、少し踏ん張ればファングボアの力にも対抗できた。


 なんとなくできるとは思っていたけど、まさか本当にEランクモンスターの突進を片手で受け止めることができるとは……。


 想像以上に強くなったらしい。


「ふんっ」

「プギィイイイイイッ!!」


 俺はそのままファングボアの横っ面をぶん殴る。


 ファングボアは大きな悲鳴を上げた。


 ファングボアは数百キロもある巨体にもかかわらず、顔面が大きく陥没し、血をまき散らしながら、殴られた方に数メートル程弾き飛ばされた。


 想定外の反撃にファングボアは千鳥足のようにふらふらだ。


「はぁっ!!」

「プグッ!!」


 俺は剣を抜いてファングボアの顔の横に回り込み、上段から剣を思い切り振り下ろした。剣がファングボアの首半ばまで切断。


 首から血が噴き出して、雨のように降り注ぎ、俺を赤く染めた。


 数秒後、ファングボアは目の光を失って地面に横たわった。

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